戦況とは無関係にウクライナの「士気を削ぐ」ため、歴史的建造物を破壊するロシア

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筑波大学教授の東野篤子氏が7月25日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。ロシアによるウクライナ・オデーサの世界遺産破壊を非難したユネスコの声明について解説した。

戦況とは無関係にウクライナの「士気を削ぐ」ため、歴史的建造物を破壊するロシア

破壊されたウクライナ南部オデッサの救世主顕栄大聖堂(ウクライナ) 2023年7月23日  AFP=時事

ウクライナのオデーサにある世界遺産破壊でユネスコがロシアを非難

国連教育科学文化機関(ユネスコ)は7月23日、ロシア軍がウクライナ南部オデーサへのミサイル攻撃で大聖堂などを破壊したことについて、「恥知らずな攻撃を非難する」との声明を発表した。大聖堂があるオデーサの歴史地区は、2023年1月にユネスコの世界遺産に登録されていた。

歴史的な建造物を破壊してウクライナの士気を削ぐことが目的 ~ウクライナの反転攻勢への戦闘とは別の攻撃で、これまでにもあったこと

飯田)オデーサの世界遺産が破壊されたということです。一連のロシアの動きには、焦りのようなものがあるのでしょうか?

東野)いま、ウクライナが反転攻勢を行っているところです。それに対して、主に東部と南部での戦闘が継続されていますが、ロシアは同時並行で民間施設などに対する攻撃を行っています。

飯田)ウクライナの反転攻勢に対する戦闘とは別に。

東野)今回、オデーサに対する集中的な攻撃があったのも、反転攻勢に関係ない都市、特に民間施設の爆撃を目的としたものです。

飯田)反転攻勢に対する攻撃ではなく。

東野)ウクライナの士気を削ぐような方法はこれまでも試みていますので、オデーサの民間施設や歴史的な建造物に対する攻撃は、残念なことですが、特段新しいやり方ではありません。

飯田)当然ながら国際法違反ではありますよね?

東野)大聖堂を攻撃したところで、何ら戦況には関係ありませんので、国際社会は非常に憤っています。興味深いのは、大聖堂への攻撃があり、歴史的な建造物が壊されてしまったわけですが、これに対して聖堂などの修復に長けているイタリアが、いち早く協力を申し出たことです。

これまでも穀物合意の履行を停止すると脅していたロシア ~ロシア側の条件をよくして欲しいため

ジャーナリスト・有本香)オデーサの歴史的遺産への攻撃もそうですが、港へも攻撃していますよね。穀物輸出の拠点でもあるので、ウクライナ側にとっては相当な痛手だと思います。一方で、ロシアはウクライナ産穀物の輸出に関する合意の履行を停止していますが、なぜロシアはこのタイミングで停止したのでしょうか?

東野)先ほどの民間への攻撃と同様に、新たに始まったことではありません。これまでもロシアは、2022年10月以降、何回にもわたり穀物合意を離脱すると脅しを掛けていました。ウクライナや国際社会からみれば「またか」という話です。

飯田)そうなのですね。

東野)ロシア側としては、ロシアに対して制裁が掛かっているために、ロシアも穀物の輸出に支障をきたしているので、ロシア側の条件をよくして欲しいと言っているわけです。

有本)なるほど。

東野)例えば、国際銀行間通信協会(SWIFT)という国際決済のネットワークがありますが、いまロシアは制裁でそこから切り離されてしまっています。

飯田)そうですね。

東野)ロシア農業銀行という非常に大事な銀行を、このSWIFTに再接続させて欲しい、あるいはロシアの農業機械の輸出を認めて欲しいなどと言っています。そもそも制裁はロシアの侵攻によって始まったわけですが、侵攻を止めないにも関わらず、農業関係の制裁は解いて欲しいと言っているのです。なかなか聞いてもらえないので、これまでも何度もゴネていました。初めてのことではありません。

鉄道で運搬する場合、ウクライナとヨーロッパの鉄道の規格が違うため、荷物を積みかえなければならない

飯田)海を経由することができないのであれば、ウクライナから陸路で出すことは難しいのでしょうか?

東野)これまでもその試みは何度も行われてきました。欧州連合(EU)はウクライナの穀物輸出を助けるために「連帯レーン」をつくり、地中海や黒海から出せないウクライナの穀物を陸路で出したいと考えていたわけですが、なかなか難しいのです。

飯田)難しい。

東野)戦争をしているので難しいですし、陸路の場合は鉄道を使うのですが、ウクライナはヨーロッパの鉄道と規格が違うので、国境まで行ったら荷物を積みかえなくてはならないのです。

有本)平時であっても、陸路で運ぶのはコストもかかりますよね。

東野)海路に比べると運べる量も違います。

ウクライナ産の穀物が東ヨーロッパに溜まってしまい、安く売り捌かれている ~ウクライナと対立も

東野)穀物をウクライナの外、あるいはヨーロッパの外に出すことができないので、ウクライナ産の穀物が東ヨーロッパのなかに溜まってしまい、安く売り捌かれています。

有本)東ヨーロッパのなかで。

東野)ポーランドなどの国は「うちの国に安い穀物を売り捌かれたら困る」ということで、東ヨーロッパの国はウクライナを支援しているのですが、農業問題で対立してしまうという残念な構図ができています。

有本)それがロシアの狙いでもあるわけですね。

東野)ロシアとしては「棚ぼた」なのです。こういう効果をもともと狙っていたわけではないのですが、「何だかウクライナの穀物をめぐってポーランドとウクライナが対立しているぞ、しめしめ」ということです。

ロシアがミサイルをルーマニアの近くに着弾させた意図

飯田)他方、港への攻撃では、隣国のルーマニアに相当近いところにもミサイルが落ちたという報道もありました。ロシアは「NATO加盟国にも落ちるぞ」という脅しを狙っているのでしょうか?

東野)ロシアはそれをできるだけ避けてきたという経緯もあります。ところが今回の着弾地点を見ると、少し逸れていたらルーマニアや、NATO加盟国ではありませんがモルドバにも着弾しかねなかった。手元が狂ったのか、あるいは「ギリギリのところを狙えるのだ」というデモンストレーションだったのかも知れません。

飯田)正確に着弾させる技術があることを示した可能性も。

東野)しかし、ロシアがこれまで脅してきた「NATOとロシアの第三次世界大戦だ」というような状況を、ロシアが自らつくり出しており、非常にリスキーな攻撃ではあったと思います。

NATO加盟国の「集団防衛」を呼び起こすことになるので、意図的にルーマニアの近くに着弾させたとは考えにくい

飯田)もしも意図したものであったら、フェーズが変わってくる可能性もありますか?

東野)そうですね。仮に「ルーマニアに着弾しても構わない」と考えていたのであれば、フェーズが変わったことになります。ただ、いままでロシアが全力で避けてきたことでもあるため、ルーマニアに着弾することを承知の上で攻撃したとは、私には考えられません。

飯田)その後、何か声明などが出ているわけでもないですからね。

東野)ロシアとしては、NATO加盟国に対する攻撃は北大西洋条約の第5条「集団防衛」を呼び起こしてしまい、NATOがロシアに対して攻撃しても文句を言えない状況になってしまいます。それは避けながら攻撃を続けていくと考えられます。

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