米FRB利上げ再開も「日本での利上げは当分ない」 専門家が分析

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元日本銀行政策委員会審議委員でPwCコンサルティング合同会社チーフエコノミストの片岡剛士氏が7月27日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。米FRBが決定した政策金利0.25%の引き上げについて解説した。

米FRB利上げ再開も「日本での利上げは当分ない」 専門家が分析

G7財務相・中央銀行総裁会議に臨むパウエルFRB議長(右)とイエレン米財務長官=2023年5月11日午後6時6分、新潟市中央区(代表撮影) 写真提供:産経新聞社

米FRBのパウエル議長、0.25%の追加利上げを発表

アメリカの中央銀行に当たる連邦準備制度理事会(FRB)は現地7月26日(日本時間27日未明)、政策金利を0.25%引き上げると決めた。2会合ぶりの利上げで主要政策金利の誘導目標は5.25~5.50%。パウエル議長はその後の会見で、高水準の金利を「しばらくの間は維持する必要がある」と述べた。

実質金利がプラスなので現在の利上げ幅は景気抑制的 ~事前予想通りの追加利上げ

飯田)今回の利上げについて、前々から示唆されていたとも言われますが、どうご覧になりますか?

片岡)おっしゃる通り、以前から予想されていたので、事前の予想通りの結果だと思います。

飯田)上げ幅も含めて事前予想通りですか?

片岡)上げ幅も含めてです。今回、5.25%~5.5%の政策金利を維持する形になりましたが、現状、アメリカの6月の消費者物価指数は前年比3.0%上昇でした。5.5%から3.0%を引くと、実質金利は2%半ばです。

飯田)実質金利が2.5%。

片岡)いろいろな基準がありますけれど、それらを考慮しても、現状の利上げ幅は実質金利ベースでプラスなので、景気抑制的だと思います。

飯田)実質金利ベースでプラスなので。

片岡)足元の物価については、ちょうど1年前、すべての品目のベースで、アメリカの消費者物価指数は9%でした。これがエネルギー価格の下落によって3%に大きく下がり、食品及びエネルギーを除く物価でも4.8%でしたので、緩やかに下がっているのは事実です。ただ、2年後に2%ぐらいのレンジという意味で言えば、だいたい想定通りだと思います。

当分、利下げはない ~利上げによる景気後退を心配する動きはあるが、堅調なGDP成長率に

飯田)パウエル議長は高水準の金利を「しばらくの間は維持する必要がある」と述べました。これは「しばらく利下げはない」というメッセージなのでしょうか?

片岡)市場の一部では、利上げを続けているので、それによる景気後退、ないしはそれに対応して利下げを予想する向きもあります。ただ、今回の会合のステートメントでも一部触れられていますが、アメリカ経済はそれほど弱くないのですね。

飯田)現状のアメリカ経済は。

片岡)利上げを続けている割に、住宅市場も底堅い状況ですし、景気動向については一旦落ち込んだのですが、足元では再びやや改善基調にあります。おそらく日本時間28日にGDP統計が出てくると思いますが、GDP統計の4~6月期はそこそこ堅調な成長率になるのではないかと思います。

飯田)堅調な成長率に。

片岡)利上げによる景気後退を心配する動きはもちろんありますが、少なくともまだ現状、そういった動きにはなっていないと言えます。

日本の場合、賃金上昇と物価上昇が安定的に起こることが確信できるまで利上げはない ~いまは「所得拡大と物価上昇が安定的に継続する状況」を達成できるかどうかギリギリの状態

ジャーナリスト・鈴木哲夫)日本も金融緩和政策を行い、「利上げだ」などと言われていますが、動いていません。日本の場合、利上げについてはどう見たらいいのでしょうか?

片岡)足元の状況は、確かに2%を上回る形で物価が上がっていると思います。しかし、賃上げが起こって具体的に所得拡大へ結びつき、「所得拡大と物価上昇が安定的に継続するような状況」を達成できるかどうか、ギリギリの状態にあるのです。

利上げしてしまい、景気が失速して物価が下がった場合、日銀に追加的な対策はない

片岡)こういう状態で利上げしてしまうと、今度は逆に景気が失速して物価が下がるリスクがあります。そういう状況になった場合、日銀が追加で何かできるかと言うと、ほとんど追加的な対策はないと思います。

飯田)追加的な対策がない。

片岡)そう考えると、物価が上振れするリスクに対しては、もちろん利上げなどを行えばいいのですが、逆に物価が失速してしまうリスクに対応できない可能性がある。そうなるとビハインド・ザ・カーブと言いますか、要は物価が上がっていても放置するような感じで、少し遅れ気味に政策を行っても問題ないというようなところがあります。

鈴木)判断が難しいですね。

片岡)判断が難しい局面だと思います。おそらく今回、7月はないと思いますが……というのは6月から見ていると、「物価がぐんぐん上がる」という追加的な情報はないですし、所得拡大と物価上昇が安定的に続くことを確認できる指標は、いまのところ出ていないわけです。

飯田)ギリギリの状況ですからね。

片岡)ですから今年(2023年)もそうですし、来年もその次の年も、ある程度の賃金上昇と物価上昇が安定的に起こると確信できるようになるまで、日銀は現行の金融緩和を続けるのではないかと思います。

FRBの失敗を日本に当てはめるのは無理がある ~予想以上に物価が伸びてしまったアメリカ

飯田)いまビハインド・ザ・カーブの話がありました。物価上昇を追いかけるような形で進める場合は、利上げなどで引き締めもするという話ですが、まさにFRBは去年(2022年)、一昨年あたりにそれをやろうとしたけれど、結局は物価が予想以上に伸びてしまった状況でした。現状は落ち着いてきていますが、日本でも同じような流れになってしまう可能性はありますか?

片岡)もちろん可能性はありますが、日本とアメリカの最大の違いとして、日本はここ20年間くらい、ずっと物価上昇率がゼロ近傍ないしはデフレだったということです。

飯田)日本の場合は。

片岡)ですから、目標は遥かに下回っています。その目標を達成しようと金融緩和を行う日銀に対し、目標近傍を維持していて、そこを上回ってしまっているFRB。両者には当然違いがあるので、FRBの失敗を日本にそのまま当てはめるのは、私は無理ではないかと思います。

飯田)アメリカはある意味、体が温まっているところだったから、カンフル剤を打つと勢いよく上がる。逆に日本は体が冷えきっている状態がずっと続いているのですね。

片岡)そうですね。冷え切っているからこそインフレ上昇・賃金拡大まで、粘り強く金融緩和を続けることが必要です。

いまは好循環に入る瀬戸際にいる状況

飯田)植田さんに体制が変わってからは、「引き締めか?」というメディアの報道が続いています。植田さんご本人のメッセージの発し方について、どうご覧になりますか?

片岡)当初の「早期に利上げするのではないか」という一部の方たちの期待は現状、見事に打ち砕かれている感じがしますね。

飯田)打ち砕かれている。

片岡)ある意味、それは足元の物価動向・経済動向が微妙な状況だからだと思います。私自身は日本経済において、しっかり価格が使われるような経済に再生するまで待った方がいいと思います。

飯田)いまは転嫁できるかどうか、反映できるかどうかの入り口にいるという感じですか?

片岡)そうですね。好循環に入る瀬戸際にいる状態だと思います。

可処分所得を上げるような政策が大事 ~必要に応じて減税策も適用するべき

飯田)財政も含め、ここを後押しする政策的な手立てについて、どんな方法が考えられますか?

片岡)財政政策という意味においては、可処分所得を上げるような政策が大事だと思います。インフレの影響もあり、特に食料や生活必需品の価格上昇が進んでいますので、ご高齢の方や低所得者の方は特にインフレの痛みを受けやすいと思います。

飯田)食料や生活必需品の価格上昇のため。

片岡)そういう方々に対して、現行のガソリン補助金なども延長したり、必要に応じて減税策なども適用するべきだと思います。いま将来に増税するなどという話を持ち出すのは、基本的にナンセンスだと思います。

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