中国に対して通信・半導体の分野は「完全にデカップリング」で連携 日米韓首脳会談

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ジャーナリストの須田慎一郎が8月21日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。米キャンプデービッドで行われた日米韓首脳会談について解説した。

中国に対して通信・半導体の分野は「完全にデカップリング」で連携 日米韓首脳会談

2023年8月17日、日米韓共同記者会見~出典:首相官邸HPより(https://www.kantei.go.jp/jp/101_kishida/actions/202308/18usa.html)

日米韓首脳会談、安全保障の連携強化で一致

8月18日(日本時間19日)、ワシントン郊外キャンプデービッドで日米韓首脳会談が行われた。3ヵ国の首脳は、仮に政権が代わろうとも安全保障分野での協力関係を長期的に継続する「キャンプデービッド原則」を打ち出し、安全保障の連携強化に向けた新たな一歩を踏み出した。

飯田)アメリカのバイデン大統領、日本の岸田総理、韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領の3者が一堂に会しましたが、どうご覧になりますか?

須田)当然なのですが、外交・安全保障政策は政権が代わったからといって変わるものではなく、継続が大原則です。

メインに意識しているのは中国 ~価値観の違う中国にどう対処していくか

須田)それを再確認し、新たに日米韓による東アジアの安全保障体制を再構築していこうという流れだと思います。改めて言うまでもなく、自由で開かれたインド太平洋において、どういう形で協力関係を結んでいくかと考えると、やはり中国をメインに意識しているのです。

飯田)日米韓で集まる場合、いままでなら北朝鮮のミサイルがありました。今回の共同声明や会見ではもちろん、それについても出てきましたが、メインよりはサブになっているのですか?

須田)原理原則は「法による統治」、欧米流に言うならば「ルール・オブ・ローの精神」。これは当然のことです。

飯田)法の支配。

須田)では、何によって外交関係を決めていくかと言うと、「法によってすべて決めていこうではないか」という考え方を持っている国々に対し、中国はルール・オブ・ローを完全に否定している。要するに価値観のぶつかり合いが起きているわけですから、「それに対してどう対処していくのか」というところだと思います。

ネットワークシステムにおいて韓国は、中国を中心とするローカルな陣営に入るのか、アメリカを中心とした陣営に入るのか ~IT、通信の分野は安全保障政策と表裏一体

飯田)これまでも日米に関しては、ある程度その部分が擦り合わさっていたけれど、韓国は中国とのビジネス関係が大きいこともあって、前政権ぐらいまでは「むしろ向こう側なのではないか」と言われていました。韓国がだいぶ変化したということですか?

須田)そうですね。韓国サイドの安全保障上のリスク、危機感に加えて、先端技術やIT、通信の分野はこれから6Gの時代に入っていきます。そのネットワークにおいて、どちらの陣営に入るのか。

飯田)韓国が。

須田)中国を中心とするローカルな陣営に入るのか、アメリカを中心とした陣営に入るのか。ITや通信の分野は、完全に安全保障政策と表裏一体なのです。

ネットワークに関して、アメリカ陣営に入らざるを得ない韓国

須田)聞かれるまでもなく、国の将来の成長を考えれば、韓国はアメリカ陣営に入らざるを得ない。安全保障政策も、アメリカと同盟関係を強化していかざるを得ない状況にあると思います。

飯田)今回の話し合いのなかでも、経済安全保障という分野が大きなウエイトを占めた。事前にも報じられていましたが、サプライチェーンに関しても3ヵ国で情報共有を行うメカニズムを構築するという話も出てきました。

アメリカの中国への対応は、他の分野では「デリスキング」でも、通信・半導体の分野に関しては「完全にデカップリング」

須田)よくデカップリング(切り離し)なのか、それともデリスキング(リスク軽減)なのかという議論があるけれど、経済安全保障の分野、特に通信とITの分野に関して言うと、完全にデカップリングなのです。

飯田)切り離し。

須田)そして、「相互に互換性はない」というのがアメリカの方針です。「デリスキングの手法を取り、完全にはデカップリングしないアメリカは融和的に対応している」と言われますが、それは通信・半導体の分野以外のデリスキングであって、この分野に関しては「完全にデカップリング」と考えていいと思います。

中国「国家情報法」のリスク ~そのリスクを完全に排除していくのがアメリカの意志

飯田)韓国は、半導体の製造等の生産能力は相当なものがあります。その部分でアメリカ陣営の通信ネットワークで商売していきたい。既に舵を切ったということですか?

須田)そうです。なぜ中国を排除するのかですが、別に最初から排除するわけではなく、民間企業に対して「スパイ行為を強制する」という「国家情報法」の存在があるのです。

飯田)国家情報法。

須田)通信・半導体の分野で言うと、ハッキングや情報漏洩などのリスクを抱えている。日本も同じですが、「そのリスクを完全に排除していこう」というのがアメリカの意志です。

飯田)リスクを完全に排除する。

須田)国家情報法を守らなければ、中国企業もこちらの陣営に入ってきていいのですが、事実上、できないではないですか。そのためデカップリングしかできない。韓国も「そのリスクを抱えたまま、中国との関係を保っていくのか?」と聞かれれば、それは受け入れられない相談だと思います。

中国に対して通信・半導体の分野は「完全にデカップリング」で連携 日米韓首脳会談

2023年8月17日、日米韓共同記者会見に臨む岸田総理~出典:首相官邸HPより(https://www.kantei.go.jp/jp/101_kishida/actions/202308/18usa.html)

中国が「サラミ戦略」で危機を高めていくのであれば、日米韓も危機を高めて同じように対応する ~既成事実を認めない

飯田)他方、安全保障の分野では3ヵ国の共同演習を頻繁に行うなど、ここでも協力を進化させようという方針になりました。

須田)中国は「サラミ戦略」とよく言われるように、既成事実を少しずつ高めていく方法を取るではないですか。東アジアにおいてリスクが高まれば、日米韓で協力し、同じレベルで対応していくということです。向こうがサラミ戦略を取るのであれば、こちらもサラミ戦略で対応する。そういう方向性だと思います。

飯田)これに対して中国は、「危機を煽るな」というようなことを言いますけれど、「最初に階段を上ったのはそちらではないか」という話ですか?

須田)中国のやり方は、緊張を高めていくことによって「どこがレッドラインなのか」を見極め、そこに触れたら「スッ」と下げてくるのです。

飯田)レッドラインを見極めて。

須田)それを認めると、どんどん既成事実を積み上げていくことになります。それに対して、向こうが危機を高めるのであれば、こちらも危機を高めるという対応だと思います。

飯田)それによって、こちらの意思も示せるということですか?

須田)そうですね。「既成事実を認めない」というところだと言っていいと思います。

中国が危機レベルを上げてきたとき、すぐに対処しなければならない ~その対応を迅速化するために3ヵ国の間にホットラインを設ける

飯田)抑止力の話が出てきますけれど、「こちらの意思が曖昧だ」と向こうに受け取られてしまうと、かえって危機が高まるという指摘があります。

須田)向こうがレベルをアップさせてきたとき、すぐに対処しないといけない。対処しなければ既成事実化してしまうのです。

飯田)「ここまでだったら大丈夫だな」と向こうが思ってしまう。

須田)中国とフィリピンの海洋権益の争いなどは、そういう状況ですよね。フィリピンがすぐに対応できないものだから、既成事実として固定化されてしまう。向こうが危機を高めてくるのであれば、こちらもそれに応じた対応戦略を取ることが大事です。

飯田)それを迅速に行うため、3ヵ国でホットラインをつくるのですか?

須田)スピーディーにやらないと中国の思うツボになるということです。

大枠は首脳レベルで決め、その下は閣僚級、事務局レベルで対応できるようにする

飯田)対話に関しても今回、首脳会談を行いましたが、閣僚級や政府高官レベルでも行うとしています。

須田)すべてを首脳レベルで行うのではなく、ケース・バイ・ケースで、スピーディーに対応するのでしょう。中国がサラミ戦略を取ってくるのであれば、「ここまでの範囲なら合意しておこう」と、大枠は首脳レベルで決めておく。

飯田)大枠を。

須田)それ以下については閣僚級、あるいは事務局レベルでも対応できるように、まずは大枠を決めておくのだと思います。

台湾情勢と尖閣諸島問題は完全につながっている

飯田)声明には台湾情勢等も出ていますが、これまで韓国はあまりコミットしようとしなかった部分です。こちらも変化してきました。

須田)そこが核になってきているのです。なおかつ日本にすれば、台湾情勢と尖閣諸島問題は完全にリンケージしています。なぜ中国があそこに領有権を主張するかと言うと、別に天然資源があるからではないのです。つまり、台湾として領有権を主張している。その台湾を中国領土の一部だとすると、尖閣も中国のものではないかという理屈です。まさに台湾戦略と結びついている状況ですから、そこにこだわっているのです。

飯田)日本は当事者でもあるし、韓国もこれに対してはコミットしておかないと、全体が崩れてしまうのですか?

須田)そうですね。

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