中央大学法科大学院教授で弁護士の野村修也と元経産省官僚で政策アナリストの石川和男が8月30日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。福島第一原発の処理水放出に対する中国の反発について解説した。
中国からの抗議が続く福島第一原発「処理水」海洋放出 ~相次ぐ嫌がらせ電話も
飯田)福島第一原発の処理水の海洋放出をめぐって、中国からいろいろな反発があり、嫌がらせ電話も相次いでいるそうです。
石川)「8月24日に処理水を放出する」と、2日前の22日に日本政府が公式表明しました。私は公式表明してからも「どうせ1ヵ月ぐらい掛かるのではないか」と思っていたのですが、2日後に電撃的にやると。
最後まで放出に反対していたのは中国・韓国・台湾 ~最終的に中国のみが「反対」
石川)もともとは「夏までにやる」と言っていました。そもそも処理水の放出について、各国からの許可はいらないのですが、日本政府は多くの国にきちんと根回ししてきたのです。最後まで残ったのが、中国と韓国と台湾でした。
飯田)近隣の。
石川)この3ヵ国はクリアに「ノー」と言っていたのですが、まず韓国は尹政権になって変わりましたよね。経済問題など、国内事情がいろいろあって、「ここで日本と対立してもいいことはないから受け入れよう」という考えもあったと思います。結果として、本件について韓国も受け入れた。台湾もそれまで反対していたのですが、直前になって総統が「理解します」と受け入れた。反対するのは中国だけになってしまったのです。
飯田)海洋放出に。
石川)中国が簡単に「OK」と言わないことはわかっていたのですが、今回は迷惑電話なども含め、ここまで酷くなるとは想定していませんでした。中国からすれば、それなりに国内事情もあり、外交上の理由から反対することはよくあります。日本のみならず、各国に対して言いがかりに近いことをやってきているので、それ自体は不思議ではないけれど、今回は度が過ぎていると思います。しばらく続くのではないでしょうか。
「嫌がらせ電話」は「偽計業務妨害」であり、「犯罪なので捕まえる」とアピールするべき ~日本産水産物の全面輸入禁止は「WTO違反である」
野村)「電凸」という迷惑電話は「偽計業務妨害」であり、犯罪ですからね。外国からの電話なので立件するのは難しいかも知れませんが、しっかり言うべきだと思います。「これは明らかに犯罪なので、見つけたら捕まえる」とアピールしなければいけない。
飯田)偽計業務妨害として。
野村)それから「全面輸入禁止」はWTO違反です。WTOのルールのなかでは、自国民の安全と健康のために輸入制限を行うことは認めているのです。
中国のアンフェアな行為に日本ははっきりと「違う」ということを言わなければならない
野村)ところが、その名を借りて、例えば国内の産業を育成するために輸入を止めるようなものに対しては厳しい目線があるはずです。今回の全面輸入禁止は明らかに過剰規制だから、「その理由は成り立たない」と国は言うべきです。その準備に入っているという報道もありますが。
飯田)全面禁輸についても。
野村)はっきり言うことが大事です。一帯一路などで中国の「債務の罠」に掛かってしまったところは、強くない国なので抵抗できないかも知れませんが、日本は中国のアンフェアな行為に対してしっかり言える国です。「言わなければいけない」という状況だと思います。
このままでは中国は「自国民を使って嫌がらせ電話をする国」、「そのような国民を取り締まらない国」と各国からの信用をなくしてしまう
石川)まさに迷惑電話は犯罪なのですが、外国のことは取り締まれないではないですか。中国は言論統制が非常に厳しい国のようなのです。
飯田)そのようですね。
石川)「右向け右、左向け左」と言われたら国民が従う。今回の件については案の定、中国外務省の報道官による記者会見を見ていると、「我々は知らない、把握していない」と言っています。
飯田)言っていますね。
石川)一帯一路の「債務の罠」もそうですが、この姿は、外国に対していろいろと仕掛けようとしている中国の今後において、よくないと思うのです。
飯田)中国の今後の仕掛けに影響する。
石川)嫌がらせ電話などを行う自国民を「きちんと取り締まらないんだ」と思われる。逆に、そういう行為をした人たちを罰する姿を見せないと、結局は「そういう国なのか」と思われてしまいます。
飯田)中国という国が。
石川)「何かあったら国民を使って脅すのか」、「国民が外国に迷惑を掛けても、自分たちでその人たちを取り締まらない国なのか」ということになります。いまはネットの世の中ではないですか。SNSで何でも拡散されてしまうのに、中国は評価を正すチャンスを自ら失っている感じがします。
飯田)そうですね。
石川)ただ中国は、やはり政府としては大した国です。その意味で言うと、しばらくはいまの状態が続くけれど、徐々に終わっていく方向になるのではないかと思います。それがいつなのかはわかりませんが。
そんなことをする国が「経済大国と言えるのか」と世界は見始めている ~フェーズを変えなければならない中国
野村)我々から見ると中国は、特に不動産に関するバブルが弾けたわけです。国内経済に対しての先行き不安がある。しかも、影の経済と言われているところに「どのくらいの不良債権が溜まっているのかよくわからない」という状態もあります。
飯田)情報を開示しませんからね。
野村)そういうことを、国際社会は見透かしているではないですか。国民の目をどこかに向けようと思っているから、福島第一原発の処理水放出を非難する。「毒を垂れ流している」などと言えば、国民は驚きますからね。
飯田)わかりやすいですよね。
野村)「そういうことをやっている国だ」と思われてしまいます。自分たちの弱いところに関し、外交で何とか国民の目を背けようとする。「そんな国が経済大国と言えるのか」と世界は見ていますからね。フェーズを変える必要があると思います。
中国の反発で逆に福島県いわき市のふるさと納税が増えている ~国内消費が増え、日本国内の風評被害はなくなりつつある
飯田)そういう姿勢のままだと、「何かビジネスをやるのも不安だ」と感じてしまいますよね。
石川)処理水を放出する前までは、「日本国内の消費が低迷していくのではないか」など、日本国内での風評被害が心配されていました。しかし、このフェーズになって、例えば29日の報道では、福島県いわき市のふるさと納税が……。
飯田)ものすごく増えていると言われますね。
石川)迷惑電話のこともあると思うけれど、日本国民が一致団結とまではいかないにしても、「福島頑張れ」となっている。逆に福島の農水産品を消費するようになっているのです。
中国政府による中国国内の水産物への風評被害の方が深い ~このままでは中国国内の水産業やサービス業がもたなくなる
石川)日本国内の風評はほとんどなくなりつつある。むしろビジネスを考えると、中国国内で政府が科学的なことをまったく言わないものだから、中国国民は政府の言うことを信じてしまう。
飯田)健康に影響すると。
石川)そうなると変な話ですが、中国国内の中国政府による風評の方が大きいかも知れない。このままでは、いつか中国国内で水産業やサービス業がもたなくなると思いますよ。
飯田)中国の周りで揚がった魚も、いま消費されにくくなっているという報道があります。
野村)誰が考えたって、魚は福島の周りだけにいるわけではなく、当然、海流に乗っていろいろなところに行くわけでしょう。日本の魚を批判したら、自分の国の魚も食べなくなるのですよ。
飯田)そういうことですね。
野村)そんなことにも気付かないのかと思うぐらい、ロジックが破綻しているのです。カントリーリスクを考えたときに、科学を信用しないような国とはビジネスできませんからね。かなり撤退する人たちも出てくると思います。ただ中国の場合、撤退するときにかなりの金を置いていけと言われるようなので、厳しいところですが。
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