「台湾有事」 中国に有利な状況が続く2024~25年が危ない

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キヤノングローバル戦略研究所主任研究員の峯村健司が10月6日、ニッポン放送「小永井一歩のOK! Cozy up!」に出演。1年前倒しされることになった自衛隊への「トマホーク」配備について解説した。

「台湾有事」 中国に有利な状況が続く2024~25年が危ない

「烈士記念日」の式典に臨む中国の習近平国家主席 2022年9月30日(共同)

日本の反撃手段「トマホーク」、1年前倒して2025年度から自衛隊に配備へ

木原防衛大臣は米国時間10月4日、ワシントン近郊の国防総省でオースティン国防長官と会談した。日本が導入するアメリカ製の巡航ミサイル「トマホーク」について、1年前倒しして2025年度から取得し、自衛隊に配備することで一致した。

台湾総統選があり、米大統領選によって権力の空白ができる2024~25年が危ない

小永井)1年前倒しされますが、この1年には大きな意味があるのでしょうか?

峯村)「たかだか1年」と思われるかも知れませんが、とても大きな意味があります。実は2025年度について、私は言い続けてきたことがあります。何かと言うと、台湾有事です。

小永井)台湾有事。

峯村)2020年に『文藝春秋』で「習近平の台湾併合極秘シナリオ」という論考を発表しました。この時のシナリオは2024年から始まります。2024年1月には台湾総統選があり、さらに11月にはアメリカで大統領選もあります。大統領選が混乱してなかなか結果が出ずに「権力の空白」ができる……本当はそのような「空白」は生まれないのですが、中国が勝手に「権力の空白だ」と考え、「手を出してくるのではないか」というのがシナリオの根本です。

小永井)権力の空白ついて。

峯村)2021年に米インド太平洋軍のトップのデイビッドソン司令官が、「6年以内に脅威が顕在化する」と発言しています。(発言当時の2021年に)6年を足すと2027年、つまり習近平政権の最後の年に起こるのではないかということで、「2027年」という数字だけが独り歩きして、「2027年に有事が起こる」という言説が広まったのです。ところが、司令官はと「2027年まで」、つまり「3期目までの間に起こる」という意味で言っているのです。

小永井)習近平政権の3期目までの間に。

峯村)2027年は、ちょうど中国でも政権交代の年なので、そこで起こる可能性は低いと思います。それより前の2024~25年辺りが危ない、と私はみています。

米空軍大将のメモ「2025年に我々は戦うことになる」 ~そのような状況のなかでトマホークの導入を1年前倒しに

峯村)米空軍のマイク・ミニハン大将が部下に出した内部メモが、今年(2023年)の初めにリークされました。そこには「直感では25年に我々は戦うことになる」と書いてあったのです。

小永井)2025年に。

峯村)「なぜなら米大統領選挙があり、隙のある我々の姿を習近平氏に見せることになるからだ」とはっきり書いてあるのです。この辺りの動きを見て「やはり26年では間に合わないのではないか」となり、今回「(トマホークの配備を)1年前倒しした」ということがポイントだと思います。

「少し前の型でもいいから前倒しして欲しい」というくらい切迫している

小永井)トマホークの導入を1年前倒ししたということは、日本に置くことで抑止力になるからですよね。

峯村)そういうことです。日米両軍と中国のいちばんの差は、陸上配備型ミサイルのギャップです。中国は1500~1600発、あるいはもっと持っている可能性があり、それに対して日米側は0なのです。ここを何とか埋めなくてはいけない問題があります。

小永井)日米と中国の持つミサイルの差が。

峯村)特に今回、前倒しして導入するのは、「ブロックIV」と呼ばれるもので、26年に導入する予定の「ブロックV」よりも前の型です。「少し前の型でもいいから前倒しして欲しい」というくらい事態が切迫しているのでしょう。

中国への刺激を続けると台湾に対して暴発しかねない ~中国を「どう抑えるか」に焦点は移っている

峯村)先日、ワシントンへ出張して、アメリカ政府の当局者らと意見交換をしても危機感が伝わってきました。最近、アメリカ発の台湾有事に関する発言が減っていたので、事態は緩和されているのかとおもっていたのですが、むしろ逆でした。

小永井)あまり言わなくなった。

峯村)今年の初めまでは、さかんに「台湾有事が何年までに起こる」と発言していましたが、最近は言わなくなったので「どうしたのだろう」と思い、政権の人などに真意を問いました。

小永井)なぜ言わなくなったのか。

峯村)複数の当局者らが危機が高まってきているから「中国を刺激すると危ない」と指摘していました。政権側も台湾有事について「あまり言うな」と指示を出しているということもわかりました。例えば、1つの例で言うと、エマニュエル大使が激しく中国を批判していたではないですか。

小永井)バイデン政権から「自制を」と言われたという報道がありました。

峯村)あれは本当だったのです。このまま中国への刺激を続けると、本当に習近平政権が台湾に対して暴発しかねない。そのため、バイデン政権として「どう抑えるか」に焦点が移っているということです。

「台湾有事」 中国に有利な状況が続く2024~25年が危ない

中国人民解放軍の香港駐留部隊の基地で閲兵する中国の習近平国家主席=2017年6月30日(共同) 写真提供:共同通信社

現在の静けさは、「嵐の前の静けさ」

峯村)日本政府や企業の人と話していると「台湾有事はもう大丈夫ではないか」というような楽観論を聞くことがありますが、そんなことはありません。過去もそうですが、「起こるぞ」と言っているときは起こらないのです。戦争は静かになったときがいちばん起こりやすい。

小永井)いまのような状況が。

峯村)現在の静けさは「嵐の前の静けさなのではないか」というのが今回、私がワシントン出張で感じたことです。

ロシアによるウクライナ侵攻ですべての概念が変わった

小永井)アメリカの超党派の議員団が中国への訪問を発表したほか、アメリカと中国は経済交流も活発です。この2ヵ国が武力衝突するというのは、なかなかリアルに考えづらいところがあるのですが。

峯村)いままではリアルに考えづらかったのですが、「本当に起こるのだな」と思ったのが昨年(2022年)の2月です。核を持ったロシアが隣国・ウクライナへ侵攻したことで、すべての概念が変わったのです。それまでは、アメリカ政府の中でも「中国と台湾をめぐって戦争することはないだろう」と思っていた人がいたかも知れません。しかし、やはり「これはまずいな」と感じた。

何があってもおかしくない状況だからこそ、抑止を高めなければならない ~そのなかでのトマホークの前倒し配備

峯村)そもそもアメリカから見ると、中国の習近平氏とロシアのプーチン氏はどちらも独裁者であり、一緒なのです。「独裁者は何をするかわからない」と思っている。

小永井)独裁者は何をするかわからない。

峯村)何があってもおかしくない状況だからこそ、抑止を高めなければならない。これはワシントン内部でも共通した見方であり、そのなかでトマホークを1年前倒しで配備する流れがあると見なければなりません。

前倒しでトマホークが配備されても中国と比べて数的にも能力的にも足りず、不均衡な状況は解決されていない

峯村)ただ、気を付けなければならないのは、「トマホークが来てよかった」と喜んでいる場合ではありません。今回入手する予定の200発という数は圧倒的に足りません。「ブロックIV」に関して言うと、敵国の地上のものを壊すのですが、壊せたとしても目標物の3~4ヵ所程度しか壊せないレベルです。中国に比べれば、まだ足りていません。前倒しする流れは評価できますが、これではとても足りない。もっと急ぐ必要があります。

小永井)200発では足りない。

峯村)飛距離は1600~1700キロになりますので、数もそうですが、中国が持っている中距離ミサイルに比べると能力的にもまだ足りない。中国の場合は弾道ミサイルを持っていますから、不均衡な状況が解決されていないことは間違いありません。

民進党が3連勝することは、台湾に手を出す口実としては最高

小永井)台湾有事が現実的なものになっているなかで、2024年には台湾総統選とアメリカ大統領選挙があります。台湾は民進党が勝てば、初めて3期連続の民進党政権になります。

峯村)台湾政権はこれまで2期10年で代わってきたのですが、中国にとって面白くない民進党の3連勝が起きれば、台湾に手を出す口実としては最高なのです。

小永井)民進党が3連勝すると。

峯村)さらに中国は、民進党の候補者である頼清徳さんを「独立軍師だ」と認定しているので、ここで頼清徳さんが勝ったら「独立だ」と認定し、手を出しやすい環境が整ってくると思います。

中国にとって有利な状況が続く2024~25年が危ない

峯村)9月に私が出版した習近平国家主席の「戦略ブレーン」である劉明福・上級大佐の著作の翻訳本『中国「軍事強国」への夢』(文春新書)のなかでも書いていますが、台湾を統一するタイミングは、「中国が最も有利な時を逃さない」とシナリオのなかに書かれているのです。

小永井)台湾を統一するのは。

峯村)中国にとって、いまの状況は有利なのです。台湾周辺においては、中国の方が日・米・台湾の連合よりも上回っている。そのうえ、併合の口実を付けやすい。そういう意味では、「2024~25年にかけて中国に有利な状況が続く」ことになり、「非常に危ない」というのが、私が今回の出張で得た成果の1つです。

小永井)「自身が大統領になったらウクライナへの支援をやめる」と発言しているトランプ氏が大統領になったら……というところが。

峯村)そこがいちばん心配です。トランプ氏は「自分が当選すれば、翌日にウクライナ侵攻は解決する」と言っているわけですから、「米軍はウクライナを支援しなくなった」と見た習近平氏が台湾に手を出しかねないのです。

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