数量政策学者の高橋洋一と政策アナリストの石川和男が10月19日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。中露首脳会談について解説した。
中露首脳会談 ~アメリカ・ヨーロッパに対抗、連携強化で一致
中国の習近平国家主席とロシアのプーチン大統領は10月18日、北京で首脳会談を行い、連携を強化する考えで一致した。会談で習近平氏は「両国の政治的な相互信頼は深化しており、戦略的協力は緊密だ」と強調。またプーチン大統領も「外交政策の協調が求められており、ロシアと中国は実際に協力を築いている」と述べた。
飯田)この2ヵ国の連携はいかがですか?
高橋)ロシアも中国も、パレスチナ情勢について「2国家解決」という言い方をしますよね。
飯田)イスラエルとパレスチナの2国家共存と。
高橋)しかし、自分のところには絶対に言わない。ロシアはウクライナについて言わないし、中国も台湾については絶対に言いません。こういう二枚舌を見ていると面白いですね。この会談はもともと、中国の巨大経済圏構想「一帯一路」10周年のシンポジウムでしょう?
各国首脳の参加が半減している「一帯一路会議」
高橋)日本では報道されませんが、各国首脳の参加が減っています。当初は40人ぐらいいたけれど、今回は20人ぐらいに半減している。
飯田)20ヵ国ぐらいだという話ですね。
高橋)すごく減っているのだから報道しなくてはいけないですよね。でも、みんな逃げているのですよ。
飯田)中国側は「代表者は約140ヵ国から来ている」と言っていますが。
高橋)でも、トップは来ていません。債務の罠問題もありますからね。一帯一路が始まったころ、私があるテレビ番組に出てそういうことを言ったら、4人のコメンテーターのなかで批判的なのは私だけでした。他の3人は「バスに乗り遅れるな」と言っていました。
飯田)一帯一路に乗り遅れるなと。
高橋)私はそのとき「おんぼろバスだ」とはっきり言ったのです。10年後に評価してみれば、おんぼろバスだったではないですか。みんな(参加を)止めてしまっている。
飯田)イタリアも降りると表明しました。
高橋)投資額を見ると、最初の1~2年がピークで、そのあとは下がっています。
飯田)案件が減ってきているということですか?
高橋)あと、アジアインフラ投資銀行(AIIB)も案件が減ってきているから、投資額が減っているのでしょう。そこを見なければなりません。
経済的に中露に依存する部分のある日本
石川)「アメリカ・ヨーロッパ対中国・ロシア」という構図になってしまうと、二大陣営が喧嘩しているように思ってしまいますよね。実際そういうところはあるのでしょうが、実は中国とロシアは、ソ連時代に喧嘩ばかりしていたのです。
飯田)中国とソ連で。
石川)そういう歴史的な背景からすると、中国とロシアはくっついたり離れたりしています。向こうは面積が広いので、日本のことを「極東の小さな国」だと思っているかも知れませんが、日本は中国とロシアの両方とも近い国です。
飯田)隣国です。
石川)少なくとも経済的な貿易を考えると、ロシア・ウクライナ戦争が始まっても、日本は天然ガスと石油でロシアに依存している部分が1割くらいあります。それについてはまったく変えずに、ロシアとうまくやっている。中国とは、最近は福島の原発処理水に関連して迷惑電話などがありましたが、貿易額は相当中国への依存度があるので、それはそれでうまくやっていく。
政治的には欧米に寄るスタンスを続ける
石川)おそらく政治的・軍事的には、アメリカの方につくというスタンスですが、それぞれ分野ごとに関係を持つ方向ではないでしょうか。
飯田)分野ごとに。
石川)日本の報道では「米欧対中露」と煽っていますが、日本はそれぞれとうまく付き合えばいいのかなと思います。ただ、政治的には引き続き、「米欧に寄る」という方針で進むべきでしょう。
政治的には欧米寄りでも、エネルギーを含めて経済的には中露と上手に付き合うべき
飯田)経済安全保障など、分野ごとに危ないところは切り離しも含めて考えなければいけない。
石川)経済安保については米欧に寄った方が絶対にいいです。ただ、他の部分については、必ずしも米欧に追従する必要はないと思います。それが賢いやり方です。全部が全部、米欧に追従していくと、逆に日本の場合、エネルギーも含めて経済的に立ち行かない部分もあります。それぞれと距離を置きながら動く。ただ当面、近いのは米欧だと思います。
中国は輸入がマイナス6%なのに「GDPが4.9%増」という発表はおかしい
飯田)中国国内の経済について、18日に中国の国内総生産(GDP) が発表されました。7~9月期は前年同期比4.9%増加で、「市場予想を上回った」と報道されています。一方で、国際通貨基金(IMF)は見通しを少し引き下げたという記事も同18日に出ていました。
高橋)プラスになることはないと思います。中国で信頼できるのは輸入統計しかありません。世界各国に輸出統計があるから、輸入統計に関してはチェックできるのです。中国は輸入がマイナス6%ぐらいなのですが、その状態でGDPがプラスになる確率は低いですね。
GDPの約3割を占める不動産が動いていないのに増加するはずがない
飯田)輸入がマイナスになっているということは、中国の国内消費が落ち込んでいるのですか?
高橋)国内の所得から国内消費は概ね決まってきます。消費は国内品で、海外品を買うと輸入になるわけです。要するに、消費と輸入とGDPの動きは連動するのです。
飯田)消費と輸入とGDPは。
高橋)そこから推測することができる。輸入がマイナス6%で消費がプラスになるというのは、信じられない数字ですよね。
飯田)実態はもっと厳しいかも知れない。
高橋)厳しいですよ。GDPの約3割を占めると言われる不動産が、ほとんど動いていないのですから。それなのに、なぜGDPが増えるのでしょうか。不思議ですね。
数字をどう出すかというのは、中国の国家戦略に関わる部分があるので信じ込まない方がいい
飯田)この統計について「どう判断するか」は難しいですね。
石川)日本の統計はある意味、真面目なのです。「真面目に発表することが普通」という感覚です。でも、統計を自国のいいように発表する、つまり中国のような国は、「誰に対してその統計を発するのか」という発想なのだと思います。
飯田)誰に対して統計を発表するのか。
石川)日本やアメリカなど、自由主義の国とはまったく違う発想で動いている部分があると思っておいた方がいいです。こちら側も貿易統計を持っているわけだから、全部が全部、嘘だとは思いません。でも「すべて信用することはできない」とあらかじめ思いながら付き合っていかないと、「騙された感」が大きくなってしまいます。
飯田)そう思っていないと。
石川)私はビジネスで付き合いがありますが、クールに付き合っています。そうでないと変にダメージを受けてしまう。数字をどう出すかは国家戦略に関わる部分があるので、あまり日本人の感覚で信じ込まない方がいいと思います。
習近平氏の顔色を見て破産申請を受理しない中国の裁判所
飯田)習近平氏は2期目の終わりぐらいに「双循環」として、「国内の内需もやる」というようなことを言っていますが、うまくいっているわけではないのですか?
高橋)私の感覚では、不良債権問題は非常に大変で、不良債権問題があると国内取引・掛取引ができなくなるのですよね。不良債権問題のやり方は簡単です。破綻認定して、「そことは取り引きしない」と峻別させるのだけれど、中国国内は破綻認定していません。破綻認定しなければ、不動産関連の掛取引が全部取られてしまうので、掛取引できなくなるのです。
飯田)破綻認定しないから。
高橋)裁判所が完全に習近平さんの顔色を見ているので、破綻認定しないのです。恒大集団などは海外で自分の海外債券の補正のためにアメリカの破産法を使うのだけれど、国内の破産法は使わないでしょう。あれを使わないとみんなが疑心暗鬼になってしまって、取り引きがシュリンクするのです。それがあるので苦しいと思います。
この記事の画像(全1枚)
番組情報
忙しい現代人の朝に最適な情報をお送りするニュース情報番組。多彩なコメンテーターと朝から熱いディスカッション!ニュースに対するあなたのご意見(リスナーズオピニオン)をお待ちしています。