キヤノングローバル戦略研究所主任研究員でジャーナリストの峯村健司と東大先端科学技術研究センター准教授で軍事評論家の小泉悠が1月31日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。中国・外務次官とウクライナ大使との会談について解説した。
中国の外務次官、ウクライナ大使と会談
中国の孫衛東外務次官は1月29日、ウクライナのリャビキン駐中国大使と会談した。中国外務省の発表によると、ロシアによるウクライナ侵略について協議し、中国とウクライナの関係発展の重要性を確かめた。
ウクライナ側の目的
飯田)会談はウクライナ側が呼びかけたそうですが、ウクライナの狙いはどこにあるのでしょうか?
小泉)中国はウクライナにとっても存在感が大きな国なのです。貿易額が大きいし、直接投資もこれまでそれほど小さくなかった。一方で中国はロシアに対しても取り引きを続けており、ロシアにとっても中国という存在は無視できません。大きくなった中国の関与を「どのくらい勝ち取れるか」について、ロシアとウクライナで競争している部分があると思います。ウクライナがどれだけ頑張っても、中国とロシアを引き離すことができないのは、ウクライナ自身もわかっていると思います。しかし、少なくとも中国には好意的中立でいて欲しいと思っていることは間違いない。ウクライナはときどき好意的中立を確認しに行っているように見えます。
飯田)確認しに行った。
小泉)それを中国も否定しない。ロシアのガスも買いますし、いろいろなデュアルユース技術を供与しており、それが日々ウクライナで人を殺し続けてはいるのですが、「ウクライナの大使が会いたいと言ったら会う」という関係をうまく維持しているように見えます。
中国・ロシア・北朝鮮による3ヵ国のトライアングルの連携の方が、速いペースで進んでいる
飯田)中国側にはどういう意図があるのでしょうか?
峯村)表向きは中立を維持しているように見せているだけで、お付き合いですね。特に習近平政権の3期目からはロシアにグッと寄っていますので、「ウクライナがうるさいから会っておいてやる」という程度のことです。というのは、1月26日に孫衛東さんが北朝鮮に行っているのです。中国政府関係者によると、今回の訪朝の目的は、北朝鮮との連携強化だったそうです。さらには北朝鮮の崔善姫さんが先日、ロシアに行きましたよね。「そこで何を意見交換したのか」という点を探りに行く狙いもあったそうです。
飯田)歓待されていましたね。
峯村)そうです。つまり中国・ロシア・北朝鮮の連携が始まっているのです。それをウクライナ側も心配しており、ロシアの方に行ってしまわないよう「楔を打ち込めれば」という狙いもあったのでしょう。ただ、中・露・北朝鮮による3ヵ国のトライアングルの連携の方が、かなり速いペースで進んでいる感じです。
飯田)世界観的に、この3ヵ国は合致するのですか?
峯村)そういう意味では、何のブレもありません。意外にも北朝鮮と中国は、我々が思っているほど近くないのですが、ロシアが北朝鮮と連携している。そしてロシアと中国との関係が強化されており、ロシアのおかげでトライアングルが深くなっており、ウクライナ侵攻後にそれが加速しているという状況です。
3つの“組”が連携するようなもの
小泉)ヤクザが3つの組で連携するようなものだと思います。心から一緒になろうと思っているわけではない。現状は利益が一致しているので、3つの組の親分が集まって盃を酌み交わそうとしている状況でしょう。バイ(二国間)では飲んでいるけれど、まだまだ3人で会って飲んではいない。
飯田)3人では飲んでいない。
小泉)日本から見てもウクライナから見てもアメリカから見ても、とても気がかりな状況であることは間違いありません。この3ヵ国の協力が中期的にもトレンドになっていくのだと思います。同時に気を付けなければいけないのは、「ロシアを追い詰めすぎるから中露が接近したり、北朝鮮と接近したりしてしまう。だからロシアに対しては寛大に接してやるべきだ」という議論が、2014年の最初の時期からあるのです。
峯村)ありましたね。
小泉)しかし、日本は安倍政権下でそういう考えに基づいて太陽外交を行ったわけですが、何もうまくいかなかったことを同時に覚えておく必要があります。単純に「接近してしまった。ロシアに優しくしてあげないと危ない」と考えるべきではありません。
中露朝の関係を分析し、「どこで楔を打ち込めるのか、あるいは打ち込めないのか」の判断が日本の外交にとって重要
峯村)「中露は仲がいい」と言われますが、よくよく見ると冷たい関係なのです。中朝も同じです。そこを「仲がいい」とザックリ捉えるのではなく、「どういう関係なのか」をしっかり見ないといけません。小泉さんがおっしゃったように、勝手にこちらが慮って中露関係に「楔を入れなくては」と動いてしまう可能性もあると思います。今回、中国が北朝鮮に行った最大の理由も、「囚人のジレンマ」になっているからだと思います。つまり、ロシアと北朝鮮の接近に対し、中国が疑心暗鬼になっているわけです。
飯田)なるほど。
峯村)そういう意味では、この3ヵ国の連携はまだそこまで深まっていません。その辺りをうまく分析し、「どこで楔を打ち込めるのか、あるいは打ち込めないのか」を判断することが日本の外交にとって重要でしょう。
飯田)楔を打ち込むにせよ何にせよ、日本としては当然、「日米同盟でやっていくしかない」という方針になりますよね。先日も北朝鮮が潜水艦発射巡航ミサイルの発射実験を行っており、「敵基地攻撃云々と言っている場合なのか」という話も出ますが、どうでしょうか?
アメリカだけに頼るのではなく、ユーラシア大陸全体で抑止力をスイングし合うということが必要
小泉)私はやはり、韓国との防衛協力をもう少し進めた方がいいと思います。アメリカ人も「中国がこれほど強くなっているのに、なぜ日韓は協力しないのか?」とよく言いますが、彼らの発想からすると自然なのでしょう。解決し難い政治問題もありますが、軍事上の要請として、そうも言っていられない状況がある。どこまでやれているのかはわかりませんが、少なくともミサイル情報の共有は一応、制度上始まりました。空軍同士の合同演習もできるようになってきています。もう1~2歩くらい進められそうなところですが、韓国にもそろそろ政治の季節がくるのですよね。
飯田)総選挙ですね。
小泉)そうなる前にできるだけ、「いまできている協力関係を制度化してしまおう」と多くの人が言っており、そこは1つ鍵になるかと思います。もう1つは、ユーラシア大陸全体で見た場合、欧州も中東も不安定で、これから極東もどうなるかわからず、アメリカだけでは対処できない可能性があります。そうなると「アメリカが出せる能力」+「現地の国々」+「比較的手が空いている西側陣営の国」からくるいろいろな支援をまとめ、ユーラシア大陸全体で抑止力をスイングし合う必要があると思います。
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