岸田総理の「トップ・プライオリティ」は日本経済ではなく、「9月の総裁選を乗り切るため」の方策

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ジャーナリストの須田慎一郎が2月27日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。今後の経済政策の在り方について解説した。

首相官邸に入る岸田文雄首相=2024年2月19日午前(春名中撮影) 写真提供:産経新聞社

首相官邸に入る岸田文雄首相=2024年2月19日午前(春名中撮影) 写真提供:産経新聞社

日経平均株価の史上最高値更新を受け、経団連・十倉会長がコメント

2月22日、日経平均株価が史上最高値を34年ぶりに更新した。26日の終値は、連休前の22日比135円03銭高の3万9233円71銭となり、2営業日連続で最高値を更新した。経団連の十倉会長は定例会見で次のように分析した。

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十倉会長)株価がずっと続くかどうかは1つの事象だけでは判断できませんが、大元には日本が成長と分配の好循環に動き出したということの評価も小さくはないと、かなり大きいものがあると思います。

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飯田)市場では今週、史上初の4万円台に乗るかどうかが注目されています。先物の数字などを見ると、そろそろ利益確定もあるのかどうかという流れです。

「天井に近い」という見方もある

須田)2月23~25日の3連休期間中の先物は、500円ほど上がっていたのですが、26日の株価はそこまでいってはいませんでした。先物までは上がらなかったことを受けて、「そろそろ天井に近いのではないか」という見方もあります。

飯田)先物まで上がらず。

須田)ただ、経団連・十倉会長の言うように、成長と分配の好循環という状況に入っているのかどうか。つまり、一言で言えば「いい物価上昇」の状態です。賃上げを伴ういい物価上昇、いいインフレ局面へ入っていき、企業業績が実質的によくなるかどうかという状況だと思います。

総需要が供給能力を上回るためには政府が積極財政を行う必要がある

須田)大前提として、総需要が供給能力を上回る必要がありますが、いままさに正念場だと思います。もちろん民間セクターの需要は旺盛ですので、順調に推移していけばいいのですが、背中を押すような形で公的セクター、つまり政府が需要を拡大させ、積極財政を行う必要があるのではないでしょうか。

飯田)最近発表されている国内総生産(GDP)の数字だと、直近では10~12月期の1次速報が発表されたばかりですが、内需は前年同期比で若干マイナスになっていますものね。

須田)そこが問題なのです。企業も個人もお金がないわけではないので、消費に向かうよう誘導していけばいい。来年度予算もさることながら、次々年度である2025年度予算がどんな形になるのかも1つのポイントだと思います。

3年間「社会保障関係費以外の一般歳出の合計を約1000億円の増加に留める」方針が外れるかどうか

飯田)物価上昇も相まって税収も増えています。放っておいても財政が健全化すると考えると、余力があるわけですよね?

須田)そうです。既に次年度予算が成立するのは確実なので、霞が関や政治の世界では、2025年度予算に注目が集まっています。実は水面下で綱引きが始まっているのです。

飯田)2025年度予算の。

須田)6月に閣議決定される「経済財政運営と改革の基本方針」(骨太の方針)が次年度予算編成のスタートになるわけです。骨太の方針をめぐり、そろそろ概略が自民党の各部会で練られていくはずです。部会でつくられたものが政務調査会の平場、会議のなかで議論されていきます。そこで決定されたものが総務会へ送られ、自民党が了承し、内閣に戻されて閣議決定する運びになるのですが、このスケジュールから見ても6月の閣議決定に間に合わせるためには、そろそろ始めないと間に合いません。ところが前年と同じような形を踏襲すると、3年間で、純増で1000億円しか増えないという状況になるわけです。

飯田)社会保障関係費以外が。

須田)「1000億円のキャップ」と呼ばれているものですが、それが外れるかどうかが1つの大きなポイントです。

「財政健全化推進本部」の顧問が政調会長と総務会長のため、財政再建派の意見が政調会と総務会を通ってしまう

飯田)派閥解消などの動きがあり、1月末には財政健全化推進本部でメンバーの入れ替わりがありました。本部長が古川禎久さんになり、小渕優子さんなど「財政健全派が集まっているな」という印象を受けましたが、有力者を入れてネジを巻き直そうという狙いがあるのでしょうか?

須田)加えて最高顧問が麻生太郎さんで、顧問には渡海紀三朗さんと森山裕さんが入っているわけです。財政再建派の牙城である財政健全化推進本部の顧問に、政調会長と総務会長が名前を連ねている。そこが大きな意味を持つのではないかと思います。

飯田)引き締め派ということですか?

須田)引き締め派です。つまり、そこで了解してしまったら、そのまま政調会と総務会を通るということです。

飯田)本来は平場で十分な議論を行い、そこで決めるべきものなのに、形骸化する可能性があるのですか?

須田)そういう可能性もないわけではない。しかも平場の議論などは、ほとんど新聞が報道しないのです。平場の議論はどちらかと言うと積極財政派が圧倒的に有利ですから。

飯田)人数などで考えると。

須田)いまの日本経済は正念場を迎えていますので、「しっかりと政府があと押しするべきではないか」と主張したいけれど、なかなかそれが伝わっていかない構造もあるのです。

岸田総理の「トップ・プライオリティ」は日本経済ではなく、「9月の総裁選を乗り切るため」の方策

※画像はイメージです

「教育の無償化」という考えから、緊縮財政から方向転換する可能性もある渡海紀三朗氏

須田)私が期待したいのは、渡海紀三朗さんは兵庫県選出の国会議員で、なおかつ文教族という点です。国ベースで教育の無償化を進めたいという意向を持っているらしいのです。兵庫県選出の国会議員ですから、関西では維新の会の脅威にさらされています。「教育の無償化」は維新の看板政策ですよね。

飯田)しかも、知事も維新が獲りました。

須田)教育の無償化を国ではなく、地方自治で行えば、維新に「押せ押せ」になられてしまう。教育無償化には兆円単位の費用が掛かります。しかし、非社会保障費、年金と介護、医療を除いた部分で、3年間で年度の当初予算「純増1000億円」しか認められていないのです。年間で333憶円となると、とてもではないですが教育無償化はできません。そのような部分もあり、渡海紀三朗さんは教育の無償化を進めるため、場合によっては「緊縮財政だと成長できない」と考え、方向転換する可能性もあると思います。

過去の例からも消費税増税すれば経済は失速する

飯田)教育無償化は安倍政権時代に打ち出されましたが、当時はそれと消費税が紐付いたところもありましたね。

須田)財源論が出てきてしまうと、やはり増税になってしまいます。ただ、いま増税を行ったら個人消費は大きく冷え込みます。過去の例を見ても、日本経済が失速したのは消費税増税によってです。数値が物語っています。

飯田)最高値を記録していたバブル期に導入した際は、物品税を下げたこともあって影響を受けませんでした。しかし、そのあとは3%から5%に上げたときも、5%から8%に上げたときも、8%から10%に上げたときも、みんな失速しました。

実質実効為替レートを見れば、日本経済は最弱の状態にある

須田)株価が上がっているため浮かれ調子になっていますが、為替レートを見てください。特に実質実効為替レートです。諸外国の外貨と比べて日本の円の価値はどうかと言うと、史上最低です。

飯田)円安ですね。

須田)これほど円安になった時代はありませんでした。ドル、ポンド、ユーロなどと比べてみても非常に安い水準です。それは日本経済が弱いからです。輸出企業にとっては嬉しいことなので、経団連の十倉会長が喜んでいるのは、そういう部分もあるわけです。しかし、日本経済は弱く見られています。株価を見ると「好調ではないか」という感じですが、実質実効為替レートを見ると、日本経済はいま最弱の状態にあると強く認識すべきだと思います。

岸田総理の「トップ・プライオリティ」は日本経済ではなく、9月の総裁選を乗り切るためにはどうすればいいのか

飯田)海外投資家からすると割安感もあり、日本は周りから見ても安定しているため、「ここにお金を置いておくか」という部分もあるのでしょうか?

須田)お買い得です。日本株は安いのですから、株式マーケットへ大量にお金が流れ込みます。外貨を円に換えた際も非常に増えるわけですからね。

飯田)財政健全派のプレーヤーの名前も出てきましたが、岸田総理はどうしたいのでしょうか?

須田)その辺りが見通せません。

飯田)岸田総理は明言しませんよね。

須田)そこは政治ですので。岸田さんにとっては日本の景気や経済よりも、「9月の総裁選を乗り切るためにどう動くべきか」がトップ・プライオリティなのです。

飯田)自分の再選戦略が大事で、その邪魔をしなければいい。

須田)財政健全化推進本部の最高顧問に麻生太郎さんが就いて、睨みをきかせています。そこと組んだ方がいいのか、それとも積極財政に向かった方がいいのか、その辺りを考えているのだと思います。

飯田)岸田政権の支持率が下がっています。普通は経済が上がれば支持率も上がるのですが、その辺りは期待していないのでしょうか?

須田)そちらの方が近道だと思うのですけれどね。

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