促進か、抑制か……、クルマとAI、技術の進化と新たな課題

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ニッポン放送報道部畑中デスクのニュースコラム「報道部畑中デスクの独り言」(第491回)

自動車メーカーのスズキが9月に技術戦略説明会を開き、足を運びました。説明会は昨年もほぼ同じ時期に開かれ、もはや恒例になった感があります。今年も鈴木俊宏社長以下、技術系幹部が勢ぞろいしました。

■開発期間を一気に半減! スズキの覚悟

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スズキ技術戦略説明会で鈴木俊宏社長(9月25日撮影)

説明会で記者の関心が最も高かったのは開発期間の短縮です。鈴木俊宏社長は2030年に向けて新車の開発期間を半減(2020年比)していく計画を明らかにしました。クルマの土台となるプラットフォームの開発にはこれまで40カ月から48カ月程度かかっていたということで、これを2年(24カ月)程度にする意向です。そしてそのために開発効率を30%、生産効率を50%向上させる考えも明らかにしました。

「私たちは新たな目標を掲げた。変化のスピードに負けない会社になるための挑戦」

鈴木社長はこのような決意を示しました。変化のスピード、これは中国などの海外勢を念頭に入れたもので、こうした勢力に対抗する狙いがあります。

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スズキ技術戦略説明会では今年も技術系幹部が勢ぞろいした

手法として示されたのが「同時進行並行開発」。前工程が終わったから次の工程に行くのではなく、開発、設計、生産、品質、調達、そして販売に至るまで同じ目標を見ながら動き出すというものです。鈴木社長はこれをマラソン・駅伝にたとえ、「駅伝で8人走るとすると1人5kmぐらい、いまやろうとしているのは、スタートから一斉に8人が走り始める。そのような開発をやれないか」と話します。また、内燃機関の責任者は並行開発に必要なのは営業や生産を含めて情報を一度に集めることで、「非常に難易度の高い話」とする一方、「これができるのがスズキの強み」と自信を見せていました。かつて、鈴木修元会長は「俺は中小企業のおやじ」と話していました。売上高が6兆円を超える規模になろうとも、中小企業の意識がある限り、そのフットワークの軽さで目標にまい進するのでしょう。

一方、形骸化した実験や評価などの見直しや、コンピュータ上で性能や安全性をシミュレーションするCAE(Computer Aided Engineering)の性能・制度を高めることも挙げられました。実験・評価の合理化は確かに開発期間短縮に大切な要素ではありますが、かつて、自動車メーカーには検査不正問題などがまん延しました。肝を押さえた上で、不正とは無縁の取り組みが求められます。

■「Sライト」プロジェクト、軽量化の目標も着々……

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展示スペースではカットモデルも披露

続いては軽量化です。昨年の説明会では「Sライト」と称したプロジェクトで2030年に向けて車両を100kg軽量化する取り組みが紹介されました。昨年の段階では80kgにめどがついたとされていましたが、ついに「目標」の100kgにめどがついたことが明らかにされました。さらに、最大120kgの軽量化も検討しているということです。

100kgの内訳は部品の軽量化が65kg、構造・レイアウトの見直しが28kg、仕様変更が7kgだそうです。軽くて強度のある高張力鋼板の採用、ボルト頭部の小型化、吸音材の樹脂から不織布への変更、昨年の説明会で話題になった電線やワイヤハーネスについては、素材を銅からアルミにしたり、ブレーキとブレーキランプの距離を短くして電線の量を抑える……、様々なアイデアで目標に近づけたということです。

金属部品から樹脂部品への置き換えも進めていますが、これには“副産物”があります。車体技術の幹部によれば、樹脂に部品を変えることで、3Dプリンターによる製造が可能となり、無数の金型を製造・保管する必要がなくなるそうです。これもコストダウンや収益向上に大きく寄与するでしょう。軽量化が及ぼす恩恵は多岐にわたります。

なお、120kgの軽量化の達成には高価な材料が必要ということで、ハードルは低くないようです。軽量化を実装した試作車については今後、評価などを行い、来年10月には開発を終わらせる見通しです。次回のジャパン・モビリティショーに間に合うかどうか注目です。

説明会会場の外にはエンジンやカットモデルなどが展示されていました。エンジンで発電しモーターを駆動する「シリーズハイブリッド」、次世代直噴ターボエンジンも開発中で、電動化の流れの中、エンジンの可能性も模索していく考えです。

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開発中のシリーズハイブリッド

■今後の自動車開発に欠かせないAI、それは「両刃の剣」

こうした技術の進化、開発期間の短縮のためには、鈴木社長はデジタル化やAI化が欠かせないという認識も示していました。ここでも「AI」という用語が出てきました。説明会では現在進めている取り組みとして、膨大なデータの客観分析、想定外の技術的問題を見つけるヒント、様々なパラメータ(変数)を伴う技術開発の中から最適解を見つけるなどの活用が挙がりました。

「AIを使うことによって、いままで100回ぐらいの検証しかできなかったのが、1万回できるようになり、スピード感を持てるようになった」(鈴木社長)

一方で、昨今はAIの暴走が問題となっています。クルマへの導入も例外ではなく、幹部からはフィジカル(物理)AIとロボティックスなどの制御は「非常に気をつけなければならない」と話します。クルマに搭載されたAIが暴走し、誤った指令が送られれば、事故につながる恐れがあります。極論ですが、クルマによる「自爆テロ」さえ起こせてしまうわけです。

クルマの将来はSDV(Software Defined Vehicle クルマの機能をソフトウェアの更新によって向上させる概念)がカギを握るとも言われていますが、これについてもどこまで進めるべきか、模索を続けています。SDVではソフトウェアをオンラインで更新することになりますが、これも議論の余地があり、スズキでは外側=車内で音楽やゲームを楽しむなどのエンターテインメントの要素はいいとしても、内側=車両そのものを制御する部分には関与させない判断が必要という認識を示します。「最後の歯止め=セキュリティの部分はイタチごっこ」……、幹部の発言からは悩み深い実情がにじんでいました。

「つくづくターミネーターのような世界が近づいていると感じる」

鈴木社長も正直な心情を吐露します。SDVについてもその必要性は認めた上で、「何をSDVでやるのかよくわからない。何でもかんでもAIでやっていくのがいいということではなく、最後は人間がしっかりとコントロールしたい」と懐疑的な見方を示しました。

■クルマの進化……、ユーザーが本当に求めるものは?

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トップが一堂に会した日本自動車工業会の記者会見(9月17日撮影)

AIの暴走問題については、先の日本自動車工業会(以下 自工会)の記者会見でも話題になりました。会見では業界としての自動運転の取り組みが主なテーマにでしたが、自動運転にはAIの技術は欠かせないものです。クルマがハッキングされないための防御策や開発段階のソフトウェアの堅牢性向上など、自工会でもサイバーセキュリティについての議論を始めたことが明らかにされました。佐藤恒治会長(トヨタ自動車副会長)は「半導体とAIのあり方、ハードウェアとソフトウェアとの関係を統合的に見る必要がある。自動車モビリティに特化したAIの進化の姿を考えていかないといけない」と話しています。

CASE(コネクテッド、自動運転、カーシェアリング、電動化)というフレーズが出て久しいですが、ここへきて、EV(電気自動車)の伸び悩み、AIの暴走問題など様々なハードルが立ちはだかってきました。こうした多くの機能も先立つのは電気、電気がなければ立ち行きません。

時代の流れには抗えないとしても、これらは果たしてユーザーの求めているものなのかという思いは常に付きまといます。昔からクルマの世界は「あれもついてます」「これもついてます」と付加価値をつけて売るものでしたが、この発想は変わっていないのかもしれません。折りしも、今年の夏は災害が相次ぎ、大雨で冠水する車両も続出しましたが、クルマはまず、過不足ない移動手段、「アシ代わり」であればいいと考える人は世界的にも少なくないと思います。

AI開発については促進か、抑制か……、先端企業の中からも賛否の声が渦巻いていますが、クルマの世界でも同様のことが起きているのではないか、スズキの技術説明会では、そんな思いが頭をよぎりました。

(了)

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