ついに出現! 中国・BYDが放った軽自動車EV
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ニッポン放送報道部畑中デスクのニュースコラム「報道部畑中デスクの独り言」(第481回)
■約320人の報道陣が詰めかけた注目の発表会
7月28日、中国のEV(電気自動車)大手のBYD(ビー・ワイ・ディー)がいよいよ軽自動車EVを発表する日。東京・竹芝のビルの前には6台の車両が展示され、受付の約2時間前から、メディアが集まり始めました。そして、午前10時30分から始まった発表会。ビル内のホールに詰めかけた報道陣は約320人(主催者)に膨れあがりました。

ついにお披露目となったBYDの軽自動車EV「RACCO(ラッコ)」
「日本のために電気の軽自動車をつくろう、日本以外のブランドが誰もチャレンジしたことのない領域にあえてBYDが挑戦する。日本の皆さま、どうぞ温かく、日本のためにつくられたこの“ラッコ”を家族の一員としてお迎えください!」
白い車両が鎮座するステージでBYDの劉学亮副総裁(BYDジャパン社長)が力強く宣言。その後、ステージの脇から別の白い車両がスルスルと現れます。EVなので静か、もちろん排出ガスはなし。後部スライドドアからブランドアンバサダーを務める俳優の広瀬アリスさんが真っ赤なパンツスーツで姿を見せると、一段とカメラのシャッター音が大きくなり、会場は華やかな雰囲気になりました。

東京・竹芝の会場前には朝からメディアが詰めかけていた
■専用プラットフォームに見るBYDの本気度
「RAKKO(ラッコ)」と名付けられた今回の軽自動車EV。実は昨年のジャパン・モビリティショーに出展されており、今回、満を持してのお披露目となります。これまでのEVにはない全高約1800mmの「スーパーハイトワゴン」型。国内市場で4割近くのシェアを持つ軽自動車の中で、さらにその半分を占める人気のスーパーハイトワゴン型を採用することで「軽EV市場ではなく、日本の軽自動車市場そのものに挑戦する」と、担当者は語ります。
気になる航続距離は210kmと320kmの2種類(いずれもWLTCモード)。後者は軽EVで最長レベルだということです。さらに後部両側のスライドドアは電動、軽EVでは初採用で日常の使い勝手を重視したといいます。キーを持ったまま、スライドドアの前に立つと、ドア前の地面に小さな円形のランプが照らされ、足を置くとドアが開き始めます。発表会のデモンストレーションで広瀬アリスさんも驚いていました。

左上:すっきりした印象の運転席
右上:エアコンの物理スイッチにシフトレバー
左下:上級グレードは合成皮革のシート
右下:ソファのようなシートでくつろげる雰囲気
注目の価格は廉価モデルで214万5000円。補助金を一律15万円とし、補助金込みで200万円をギリギリ切る値付けとなりました。価格競争で決して有利ではないものの、最近は軽自動車でも200万円超えが少なくない中、輸入車で100万円台というのは戦略的な価格設定と言えるでしょう。「エントリーモデルとして(航続距離)200km、200万円というラインは外せないポイントだった」と話すのは日本市場担当のBYDオートジャパン・東福寺厚樹社長。まずは年間で1万台の販売を目指します。また、現時点で国内生産は考えていないということです。
特筆すべきは、今回の軽EVは「Xパック」という専用の構造を採用していること。バッテリーやモーターなどの中核機構をコンパクトに統合することで、衝撃を吸収する領域や室内空間の拡大に寄与しているということです。また、車両機能を無線によって更新できるSDV(Software Defined Vehicle)も導入されています。更新の範囲については国内認証次第ではありますが、ユーザーデータなどは中国には送信されず、日本国内で管理されるということです。

電動スライドドアにはブランドアンバサダーの広瀬アリスさんも驚いていた
■室内に乗り込んで感じた“しっかり感”日本車が忘れつつある視点を体現
室内に乗り込みます。ドアの開閉は「バシャン」ではなく、「バムっ」と厚みのある音。高級感のある響きで「しっかり感」があります。上級グレードは合成皮革に分厚いソファのようなシートで、くつろげる空間を演出。運転席には小型・大型の2台の液晶ディスプレイ。インパネはカチカチの硬質樹脂ですが、安っぽさはなく、ある種の割り切りが感じられます。一方でドアアームレストの手に触れる部分はソフト素材があしらわれ、キモは押さえている感があります。
軽自動車では常に2つの議論が付きまといます。軽は軽らしく、低価格、簡便で必要十分な機能であるべきという考え方、もう一つは上級車の雰囲気を軽にという「ミニ登録車」ともいうべき思想です。「右肩上がり」「上級指向」の時代が去って久しい現代では、後者のようなクルマも増えてきました。ラッコは後者の考え方のようです。
一方で感心したのはスイッチ類。空調装置は物理スイッチを残してあり、その隣にはレバー式(鼻薬みたいな形ですが、それも愛嬌か)のシフトスイッチになっています。タッチパネルやボタンが増えている昨今、運転しながら手探りで操作ポイントがわかるのは、何よりの安全装備であると私は思います。また、物理スイッチに加えて30か所のも収納スペースがありながらゴチャゴチャした感じがせず、すっきりとした清潔感があるのは、やはりデザインの勝利と言えるでしょう。

インタビューに答えるBVD劉学亮副総裁
車両の研究開発は主に中国本土で行われたものの、プロジェクトでは日本市場の販売担当メンバーらからも意見を取り入れたと言います。東福寺社長は「原点はEVを求める人のための軽ではなく、軽自動車に乗っている人が乗り換えやすいEV。使い勝手の面でわれわれの意見を強く反映させた」と話していました。
国内の多くのメーカーがグローバル化の下、海外生産・販売を拡大しています。一方、日本市場はバブル期の約750万台から減少傾向で、最近は約450万台前後と頭打ちの状態。「全体最適」と称して巨大市場であるアメリカや中国をメインとするのは無理からぬことですが、結果、日本市場で多くなったのは、巨大市場の「おこぼれ」のようなクルマです。
海外仕様とプラットフォームを共通化することで全幅がやたらと広がり、狭い路地で走りにくいクルマ、左ハンドル仕様に準拠したような操作性のクルマ、輸入車とほとんど変わらないような価格帯に行ってしまったクルマ……、東京五輪誘致のプレゼンテーションにもあった日本の美点「オ・モ・テ・ナ・シ」の心はどこに行ったのか……、そんなクルマたちに日本の多くのユーザーは背を向けます。軽自動車、コンパクトカー、5ナンバー前後のミニバンが売れ筋になっているのもうなずけます。そんな中で、軽規格のプラットフォームを開発し、操作性に配慮したBYDの姿勢は、皮肉なことに日本車が忘れつつあるものを思い起こさせます。正直、溜飲が下がる思いがしました。

BYDの参入で軽自動車市場はさらに活性化するか
■野心的とも言える目標、課題を克服できるか?
軽規格のプラットフォーム、日本市場を徹底調査した使い勝手……、BYDの日本市場における“本気度”を感じます。とは言え、国内市場におけるEVのシェアはいまだ全体の2~3%程度。さらにBYD自体は2023年に日本市場に参入して以来、約3年半が経つものの、その間、ようやく販売台数が1万台に達しました。そういう意味でラッコの年間販売1万台は野心的な目標ともとれます。
その厳しさは、BYDは百も承知のようです。ラッコの大きな特徴は前述の通り、左右両側の電動スライドドアですが、当初は左側のみだったそうです。BYDオートジャパン商品企画部の田川博英部長は次のように語ります。
「“中国車”という色眼鏡でみられる可能性がある中で、“安かろう悪かろう”という印象を持たれていけない。コストは上がるが、日本のユーザーにとっては必須の装備と判断し、(両側電動スライドドアを)強く依頼した」
また、BYDオートジャパンの東福寺社長は他ブランドからの乗り換えが頼りと認めた上で「非常に高いハードルだが、ラッコを“接着剤”として、BYDの性能の高さを知っていただくきっかけにしたい」と話していました。
そのほか、販売網や点検・整備拠点の少なさなど、課題は少なくありませんが、まだまだ課題は少なくありませんが、BYDの参入により、「ガラパゴス」と言われる軽自動車市場がより活性化することは間違いないと思います。
(了)





