極論御免!バリューチェーン戦略の対抗馬は?
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ニッポン放送報道部畑中デスクのニュースコラム「報道部畑中デスクの独り言」(第476回)
先の小欄でトヨタ自動車の強力なバリューチェーン(以下VC)戦略についてお伝えしました。トヨタはすでに新車販売を超える利益をVCからたたき出しています。

日産スカイラインGT-R(R34型) 中古車で程度のいいものは2000万円以上の値がつくという
VC戦略については三菱自動車も5月に発表した中長期ビジョンで言及しました。新車販売を起点に、中古車の循環やレンタカーの活用に加え、金融・保険・用品などの周辺収益の拡大を進めるとしています。一方で他社からはVC戦略の重要性は認識しながらも、新車投入による利益向上が先決で、具体化には至っていないという声も聞かれます。
では、VCにおいて他社に活路はないのか…私はある2社に注目しています。あくまでも「極論」であることにご容赦を。
■絶版車はノウハウの塊……、日産
まずは日産自動車です。トヨタと覇権を争った時代もいまは昔。軽自動車を合わせた国内販売台数はスズキ、ホンダ、ダイハツに次ぐ5位(2025年業界団体調べ)に甘んじていますが、それでも保有台数はまだまだ多いとみられます。何といっても、旧車にはいまだに人気のある車種が多く、旧車イベントで日産車が最も盛り上がるのがその証左です。
中古車市場で絶版車は高値で取引されていて、最新の中古車サイトを見ると、歴代スカイラインGT-Rは程度の良いもので1000万円台はざらで、中には2000万円以上するものもあります。シルビアも新車当時よりも高い300~400万円台の値がついているのが現状です。
日産車は往々にして旧型になって人気が出る車種が多いのですが、裏を返せば、旧車の利益をみすみす逃していることにもなります。これをビジネスチャンスとしない手はないでしょう。価値を認めるユーザーや街のクルマ屋さんを大切にしつつ、保守部品を切らさず供給するなど、きめ細かいフォローにより、利益を掘り起こせる可能性があります。
日産は経営再建策の一環として、日産車体湘南工場への委託生産を2026年度末に終えますが、湘南工場はサービス部品生産工場として活用されることになりました。これは新車販売中心のビジネスから、保有補修ビジネスへの転換と前向きにとらえることもできます。皮肉なことに「ゴーン時代」に新型車投入を控えたことで、保守点検やサービスで利益を得るノウハウを確立しているディーラーも多いと思われます。
いま挙げたようなことはすでに実行している部分もあるでしょう。ただ、これらの価値を日産自身が自覚し、システム化することで、より大きなビジネスモデルを構築できるのではないでしょうか。それはクルマの歴史・文化を大切にするメーカーとして、ブランドの維持にもつながると思います。
1970年代から80年代にかけて、ある車種が新型に切り替わった時、中古車価格を維持するために、旧型を次々にスクラップにしていたといいます。そのころは目の前の販売台数や利益のみを追い求め、クルマを文化ととらえる視点がなかったのでしょう。また、日産はこれまでに数多のブランドや車名を廃止し、ブランド維持の流れを断ち切ってきました。いま思うと、何ともったいないことと思います。

全国で4万以上といわれるスズキの業販店
■業販店という強力なツール……、スズキ
もう1社はスズキです。軽自動車を含めた新車販売で国内2位が定着しつつありますが、大きな支えになっているのが業販店です。
特定のメーカーと契約を結んだ正規販売店であるディーラーに対し、修理工場や中古車販売店が兼業で新車を仕入れ、販売するのが業販店です。公共交通機関のない過疎地域にも多く、そうした地域はクルマが移動の足で、生活を支える貴重な存在です。業販店は他社のクルマを扱っている例もありますが、圧倒的にスズキ車が多く、他社にない大きな強みと言えます。ちなみに最も販売網が多いトヨタのディーラーは約4300店舗ですが、業販店は全国で4万店以上と言われています。
「直しやすいクルマとして、設計段階からサービス部隊が設計に入って、どうしたら直しやすいのか、開発の上流からやっているも非常に大きい。多くの長い取り組みがあった」
VC戦略による利益について、こう話していたのはトヨタの近健太社長(当時CFO)です。業販店はユーザーとの距離が近い「地域のクルマ屋さん」。直しやすいクルマをつくるための、より細かいノウハウが眠っているのではないかと推測します。そうした方々をこれまで以上に巻き込むことで、スズキならではのVCビジネスモデルを構築できるのではないかと期待します。
私の実家は国道沿いで、道路をはさんでスズキの業販店がありました。ジャッキアップされたクルマの下で、油で滲んだ白いつなぎ姿のおじさんが整備に勤しんでいました。子どもにも気軽に話しかけてくれたのを思い出します。そして脇には当時軽の“スペシャルティカー”「セルボ」が誇らしげに飾ってありました。
■「100年に一度の大変革」、然は然りながら……
自動車業界は「100年に一度の大変革」と言われて久しいですが、移動手段としてのクルマの基本構造はこの100年、大きくは変わっていません。つまりは四輪のタイヤ(三輪、六輪などの例外もあるが)、懸架装置、動力源、変速機や制動装置などの速度調整機構の上に車体があり、ヒトと荷物が載っている……、ということです。動力源については蒸気機関から一時的に電気となった後、内燃機関全盛の時代が続き、再び電気、あるいは内燃機関とのハイブリッドという形になりつつありますが、蒸気機関以外はまだまだ健在です。これまでに国内外で数えきれないほどの新型車が生まれましたが、これは基本構造の上に様々な付加価値をつけた歴史と言えます。これは裏を返せば、簡単なことではありませんが、部品と燃料さえあれば100年前のクルマでも動かすことができるということです。
昨今はクルマの一世代あたりの寿命が長くなりました。さらに知能化が進むことで、見た目は変わらずとも、ソフトウェアによりクルマの機能を更新できるような時代がやってきます。環境基準や安全基準は厳しくなる一方です。そうした中で、VC戦略によって現有するクルマの価値を高めることはブランドの維持にもつながっていくでしょう。
一方でブランドは未来に続くものでもあります。その力を維持するには、今後もユーザーに支持される車をつくり続ける必要があるのは言うまでもありません。そういう意味でVC戦略とはブランドの「過去・現在・未来」の歴史をつないでいく取り組みでもあると思うのです。同時に自動車が誕生して100年あまり、「産業」から「文化」を語る時代が来ているという感を強くします。
(了)





