AIに議論が集中、経済同友会夏季セミナーの2日間

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ニッポン放送報道部畑中デスクのニュースコラム「報道部畑中デスクの独り言」(第480回)

■経済同友会、新体制になって初めての夏季セミナー

毎年夏になると、恒例なのが経済界での政策議論。その中の一つ、経済同友会(以下 同友会)の夏季セミナーを今年も取材しました。同友会のメンバーは企業トップや大学関係者など多様な人材で構成されますが、個人の立場として参加していることから、自由闊達な議論に定評があります。一方、昨年は前代表幹事の突然の辞任があり、混乱の末、現在は日本IBM社長の山口明夫氏が代表幹事を務めています。新代表幹事になって初めての夏季セミナーは「ソフトな雰囲気になるだろう」(関係者)という声がある中、どのような議論になるのか注目されました。

AIに議論が集中、経済同友会夏季セミナーの2日間

長野県軽井沢町で2日間開かれた経済同友会夏季セミナー

テーマは共助成長社会、企業変革、成長戦略、社会保障など多岐にわたりましたが、横串として一つのキーワードが貫かれていたのが特徴的です。それはAI(人工知能)。1日目はオープンAI日本法人の長﨑忠雄社長、2日目は自民党のロボット議員連盟会長も務める山際大志郎衆議院議員もゲスト講師として参加しました。

■AIを横串に貫いた諸課題の議論

「企業経営者の役割」の議論ではパネリストの企業経営者が自らAIの現状を語り始め、現代の企業経営にAIが不可分であることを印象付けました。AIの具体的な用途として、プレゼンテーション資料の清書、これまで人が目視していた検査の代替のほか、昨今はAIエージェントとしての活用も広がっていると言います。AIエージェントとは人間が設定した目標に基づき、自ら計画を立てて情報収集や判断、実行までを自律的に行うAIシステムのこと。いわば“スタッフ”の1人のような活用法です。光ファイバー関連の開発で知られるフジクラの岡田直樹社長はAIについて「エクセルやワードの事務作業のように、必須のインフラになるだろう。全員に使わせる方向で考えていきたい」と話します。

さらに、経営者としてAIをどう活用していくかについての議論も展開されましたが、そこからにじむのは“危機感”でした。

「コストを下げるためのAIは当たり前。新たな付加価値を創造するための活用が企業トップには求められているが、現実的にはなかなか進んでいない。意識を変えない限り生き残っていけないだろう」(寺田倉庫・寺田航平社長)

「若い人の人材マーケットは厳しくなっている。生産性が5倍、10倍、100倍と違う中、AIを使える人材にならないと生き残れない」(マネーフォワード・辻庸介社長)

AIに議論が集中、経済同友会夏季セミナーの2日間

AIについても活発な議論(中央はオープンAI日本法人・長﨑社長)

■AIの能力、人間の働き方、雇用……、チャットGPTの第一人者は何語る?

チャットGPTで知られるオープンAI日本法人、長﨑忠雄社長は特別講師として参加しました。チャットGPTによって「AIの民主化の第一歩に近づいた」と評価。そして、現在のAIは前出のAIエージェントの出現により、何かを質問して答えるという段階から、業務を依頼し解決策を導くレベルに達しているといいます。長﨑社長は「近い将来、人間が長年培った知見、頭脳を費やしても解決できなかったようなことが発見できるのではないか」と期待を示しました。

AIの普及で雇用が奪われるのではないかという指摘については、長﨑社長は「仕事が定型煩雑なものから、エージェントを使いこなすことで、より付加価値のあるものになった。実際に雇用は生まれると思う」と前向きな認識です。「AIを使うことで、できないことができ、終わりがない」とした上で、「人が減るとは考えていない」と強調しました。AIを活用した働き方にも触れ、「パフォーマンスを5倍10倍と高めることができるので、実際に働いていて、毎日むちゃくちゃ疲れる」という“経験談”もありました。「AIは24時間働くので、どこかで止めないと」とこぼします。これには自ら議論の進行役を務めた山口代表幹事も同意。「資料を調べるのに3日間、1週間かかったりしていたのが、1時間でできてくる。どんどん資料がたまっていく」と話します。人間の業務がむしろ「ボトルネック」になっている現状があるようで、そのボトルネックを広げるための雇用が生まれるとすれば、このような主張もうなずけます。

金融の関係者からは「データを教え込むことで“スーパー融資マン”が生まれ、誰よりもすばらしい融資判断をすれば、AIがすべて判断するという時代が生まれないか」(三菱UFJ銀行・三毛兼承特別顧問)という懸念も示されましたが、長﨑社長は逆に「人間の仕事は判断するということにシフトしていく」と主張。「最終的にAIには絶対に判断させてはいけない。判断できる人材をいかに企業の中でつくっていくかがAIの時代に重要になる」と課題を指摘しました。

一方、日本におけるAIの進捗については「決して遅くはない」としながら、経営者が経営の課題としてAIを議論しているケースは少ないと指摘しました。やはり経営者の意識改革が必要のようです。

AIに議論が集中、経済同友会夏季セミナーの2日間

参加者からも活発な声が寄せられた

■AIに対する課題にどう向き合う?

AI普及で避けて通れないのが電力の問題。これは1日目、2日目ともに議論の対象になりましたが、技術の進歩とデータセンターの建設で必要な電力は増える一方です。同友会でエネルギー政策を議論する委員会の北野嘉久委員長(JFEホールディングス社長)は「電力がネックになることは間違いない。どうやって供給能力を増やしていくか、民間では限界がある。国と連携せざるを得ない」と訴えました。

これに関し、2日目の議論に参加した山際大志郎衆議院議員が「デジタルの進化とインフラのスピードはマッチしない」として、AI半導体は1日も早く省電力のものをつくるべきと訴えます。「その方が早い。技術の発展をいまの問題と同時進行に折り合いをつけるしかない」と主張していました。

ちなみに、電力問題の解決策をAIに問うたところ、「次世代原発の再稼働・新設、再生可能エネルギーの高度化、そして分散型データセンターの構築を同時並行で進めること」という回答が返ってきました。言うは易し、様々なハードルが待ち受けていて、AIといえども、自らの解決策を導き出すのは難しそうです。

AIに議論が集中、経済同友会夏季セミナーの2日間

総括する経済同友会・山口明夫代表幹事

議論を終えて記者とのやり取りもありました。私はAIによる副作用とAIが使えなくなった時への備えについてたずねました。前述の通り、電気がなくてはAIもインターネットも使えません。例えば、災害が起きた場合にどうするのか、技術が進化すればするほど、それが使えない時に備えた、強固なBCP(事業継続計画)の構築が不可欠であると感じます。

山口代表幹事は「テクノロジーによる効率化と同時に、人としてどうあるべきかというリベラルアーツ教育が重要視されている」と述べました。リベラルアーツとは、柔軟な思考や多様な価値観を理解する力、正解のない課題に対して自ら考え、判断し、行動する力を指します。また、BCPに関しては、「AIやデータが止まることは、社員が一斉にストライキを起こす同じ状態である」として、データのバックアップや複数のAI活用を含めた強固な対策が不可欠であると強調しました。

まとめとなる総括で山口代表幹事は「AIは避けては通れない。現実をしっかりと受け入れ、いままでの仕事のやり方っていうのを大きく本気で変えないと生き残っていけない」と改めて危機感を示しました。一方でオープンAI日本法人、長﨑社長とのやり取りではAIの現状を野球にたとえ「1回表?」と水を向けると長﨑社長も同意。AIの進歩はまだ始まったばかりです。ハイテク企業トップでもある「山口カラー」が出た今回のセミナーだったといえます。

(了)

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