H3ロケット打ち上げ成功……宇宙開発“正常軌道”復帰への一歩
公開: 更新:
ニッポン放送報道部畑中デスクのニュースコラム「報道部畑中デスクの独り言」(第473回)

打ち上げられたH3ロケット6号機(JAXA公式YouTubeから)
■昨年暮れの失敗……、悔しさからのリベンジ果たす
JAXA(宇宙航空研究開発機構)の次世代ロケット「H3ロケット」6号機が6月12日午前9時53分、鹿児島県の種子島宇宙センターから打ち上げられました。祈りと不安が入り混じる中、約16分後には搭載された6つの小型衛星のうち、2つが分離。管制室からは拍手が挙がり、JAXA公式YouTubeの画面には開発責任者の有田誠プロジェクトマネージャ(以下 プロマネ)がスタッフに頭を下げながら握手をする姿が映し出されていました。その後、小型衛星は昼前までに順次分離され、ロケットは任務を終了。打ち上げは成功しました。
H3ロケットは昨年暮れに8号機が衛星の軌道投入に失敗。JAXAで原因究明とともに対策を行い、約半年ぶりの打ち上げとなりました。
「短いようで長かった半年だった。結果がきちんとした形で(衛星分離を)達成できてほっとしている。きょうはおいしいお酒を飲みたい」
打ち上げ後の記者会見ではすでに笑顔。有田プロマネは安どの表情で心境を語りました。また、同席した三菱重工業の北山治H3プロジェクトマネージャは「3つのエンジンのノズルが白く輝きながら上がっていく姿はエンジニア冥利に尽きる」と、感慨を新たにしていました。

衛星分離の瞬間の管制室(奥に有田プロマネの姿 JAXA公式YouTubeから)
■30形態、22形態、24形態……、3つのタイプが出そろう
3つのエンジン……、そうです。今回は「30形態」と呼ばれる液体燃料を使ったエンジン3基のみで飛び立つタイプで、国内では初めての打ち上げとなりました。推進システムはほかに「22形態」「24形態」があり、22形態は液体燃料によるエンジン2基と固体燃料によるブースターと呼ばれる補助エンジン2基、24形態は液体燃料によるエンジン2基にブースター4基を使って打ち上げます。
推進力は30形態が450トン、22形態が740トン、24形態が1180トンで、推進力が大きいほど、より重い物を積むことができます。全長は30形態と22形態が57mに対し、24形態は長いフェアリング(搭載物を保護するカバー)の分、数m長くなっています。コストは30形態を基準にすれば、22形態は約2割、24形態は約6割高いということです。打ち上げ能力=性能という点で言えば、市場をほぼ独占しているアメリカ・スペースXのファルコン9ロケットに対抗できるのは22形態だそうですが、30形態の普及が進めば、ロケットにかかるコストを格段に削減でき、軽量の衛星投入など様々な用途に対応できるというわけです。

打ち上げ後の記者会見(第一部 オンライン画面から)
搭載物の重量、用途に応じたラインナップが出揃ったわけで、CMコピー的に言えば「H3ロケット シリーズ完成」。JAXAの関係者はペイロード(搭載物)を騎手として馬になぞらえた表現をしています。
30形態:騎手を載せる土台の騎馬を3人で組む(じっくり持ち上げ、じっくり移動)
22形態:騎手+土台2人+助っ人2人(スタートダッシュ用)で、スタートの際は、土台2人(+騎手含む)が早くトップスピードに乗れるように押し進める。助っ人は、瞬発力を使い切ったら、離脱
24形態:騎手がガタイのよい人(重い!)になったので、土台2人を助っ人4人がかりで担ぎ上げ、移動スピードがでるまで押す押す押す。助っ人4人も力使い果たしたら離脱
私が考えたイメージは、全くメカニズムは違いますが、ブースターをターボチャージャーに見立ててクルマにたとえ、30形態は3000ccの自然吸気エンジン、22形態は2000ccのダウンサイジングターボ、24形態は22形態のツインターボ版といったところでしょうか。あ、ロケットのエンジンにはすでにターボポンプがありました……、閑話休題。

打ち上げ後の記者会見(第二部 (右)JAXA・有田プロマネ、(左)三菱重工・北山プロマネ)(オンライン画面から)
■失敗の対策検証はこれから……、今後の課題
ところで、昨年暮れの8号機の失敗は、搭載した衛星を機体に結合する台座が破損したことが原因とみられています。台座はアルミニウムの部材を炭素繊維強化プラスチックではさんで接合する構造ですが、接着不良によるはく離が生じ、それがフェアリング分離の際に進展、破壊に至った可能性が極めて高いということです。
接着不良による対策としては、台座をボルトで固定する「ファスナ結合方式」と樹脂を充填する「補修方式」が挙がり、実用衛星の搭載機は前者とする一方、今回の30形態の打ち上げは搭載物が比較的軽量であることもあり、樹脂を充填して補修する方式がとられました。
会見で私は今回の失敗から成功までの過程で何を学んだのかたずねました。
「ほんの小さなことが機体の失敗につながってしまう怖さを改めて感じた。怖さを共有して品質の大切さ、検査工程・製造工程の大切さを深く学んだ」(北山プロマネ)
「良かれと思ってやったことも時にはあだになることもある。突き詰めても、どこまで考えても抜けがある。どうしていったら防げるのか、永遠に考えていかなくてはいけない」(有田プロマネ)
ロケット開発にゴールはない……、そんな謙虚さが伝わってきますが、H3ロケットにはまだまだ課題が残されています。

有田プロマネ(オンライン画面から)
台座の補修が対策として十分だったかどうかは、今後の詳細なデータ解析に委ねられます。また、心臓部の第一段エンジンは「タイプ2」と呼ばれる機種の開発が途上にあります。JAXAの山川宏理事長はタイプ2の完成によって、大型・中型の複数の衛星軌道投入や打ち上げの高頻度化を見据えます。現在のいわば「初期ロット」の状態から「量産化」のステージへの道が待っているわけです。量産化が確立すれば、目標とされる打ち上げコスト50億円に近づくだけでなく、現在「6勝2敗→75%」の成功確率も上がっていくことでしょう。打ち上げ後の会見で三菱重工業の江口雅之防衛・宇宙セグメント長は「製造・組立コストは少しずつ下がってきている。方向性として目標が見えてきた」と話していました。ラインナップが出そろったと申し上げましたが、量産化のステージに入って初めて本当の意味での「シリーズ完成」となるのでしょう。
あくなき探求、たゆまぬ改良、これこそが日本のものづくりの「お家芸」であるはずです。H3ロケットはこれまでの遅れを取り返さんと次のスケジュールが発表されました。8月7日早朝に9号機が打ち上げられる予定です。9号機は22形態、本来2月に打ち上げが予定されていて、日程の再設定という形になります。「日本版GPS」と言われる準天頂衛星「みちびき7号機」が搭載されます。日本の宇宙開発“正常軌道”復帰への一歩として、今回の6号機成功を称えるとともに、次回への期待も込めます。
(了)





