日産、小型SUVの投入で再建へのはずみとなるか
公開: 更新:
ニッポン放送報道部畑中デスクのニュースコラム「報道部畑中デスクの独り言」(第474回)
■成長に向けた重要な一歩……、六本木で行われた発表会
東京・六本木ヒルズにある「アリーナ」と呼ばれるオープンスペース、隣にはテレビ朝日の局舎があります。そんな場所で日産自動車の新型小型SUV「キックス」が発表されました。ステージ上には青空色の巨大な箱、やがて箱の壁が前方、左右に開かれ、スモークがたかれる中にスカイブルーの車両がお目見えしました。

日産自動車の小型SUV「新型キックス」
「新型キックスは事業を支える“コアモデル”、日産の成長に向けた重要な一歩となるモデルとなる」
日本市場担当の杉本全執行職はメリハリのある口調でキックスの存在価値を強調しました。新型キックスは北米市場には2024年から投入されていますが、2リットルのガソリンエンジンのみ。2年遅れで導入される国内仕様には日産独自のHV(ハイブリッド)「e-POWER(イーパワー)」が搭載されました。特に、燃費を大幅に向上させた「第三世代」は国内で初投入です。
小欄で何度かお伝えしていますが、e-POWERはエンジンが発電した電気でモーターを回す「シリーズ方式」と呼ばれるHVの一種です。エンジンは発電専用で直接駆動には関わりません。常時モーターで駆動しているので、EV(電気自動車)のようなスムーズな乗り味が特徴です。
一方、動力分割機構(トヨタ)や、高速走行でエンジンが直結するシステム(ホンダ)のような「エンジンのみの走行モード」を持たないe-POWERは高速での燃費が劣るとされていました。こうした評価に対し、日産は発電効率を上げることで燃費向上を図ります。つまり、発電専用エンジンの利用領域を絞る……、エンジンを高回転まで回すことなく、熱効率の良い領域を使うよう制御するというわけです。
■燃費、価格……、ライバルは凌駕したか?
第三世代e-POWERは約10%の燃費向上を果たしたと言います。ライバルと目される車種(ホンダ・ヴェゼル、トヨタ・カローラクロス)との燃費と価格の比較は以下の通りになります。

燃費・価格の比較表
※燃費はWLTCモード国土交通省審査値 単位:km/l
※価格は税込み 単位:万円
燃費は走行状態によっても変化しますが、同じモードでのデータを見る限り、カローラクロスに一日の長があるものの、ヴェゼルとは遜色ないレベルになってきました。「e-POWERは電動化戦略の中核」と言い切る杉本執行職からはかなりの自信がうかがえます。
価格はHVの二輪駆動ではヴェゼルといい勝負、特に最廉価グレードでは300万円を切るなど、かなりがんばった印象です。杉本執行職は「戦略的なエントリーモデルの価格を設定した」と胸を張ります。一方、カローラクロスは270万円台から。

左:ステージ上には巨大な箱が鎮座
右:箱が開いて車両がお目見え(左は杉本全執行職)
四輪駆動車になると、キックスは330万円台、カローラクロスは300万円台から始まります。ヴェゼルはHVが320万円台からのほか、270万円台のガソリン車も残しています。価格設定には装備の差などの様々なからくりがあり、詳細を見る必要があります。小欄はバイヤーズガイドではないので多くは記しませんが、こうして数字を並べてみると、キックスの割高感は否めないところです。また、トヨタの商売上手が際立ちます。
キックスの北米仕様はエンジン車(ガソリン)のみであることから、エンジン車を設定する選択肢はなかったか開発担当者にたずねると、「エンジン車を出すと日産のカラーを出しにくい。日産はEVで先導したこともあり、日本ではEV、e-POWERでシンプルに決めた」という答えが返ってきました。ただ、「エンジン車では燃費の面で不満で出てしまう」としながら、安ければいいという声も少なからずあるということです。
もちろん、価格や燃費のみでクルマの価値は測れません。運転支援システム「プロパイロット」の全車標準、「EV感覚の滑らかな乗り味」、このあたりがキックスの「売り」なのでしょう。そうした戦略が吉と出るか凶と出るかは改めて注目していきたいと思います。

左上:日産独自のハイブリッド「e-POWER」は第三世代に進化
右上:フロント部分は「アメフトのヘルメット」をイメージしたという
左下:キックスの室内 フローティングタイプのコンソールを採用
右下:シフトスイッチはボタン式に
■がんばった内装、V字回復への思い
想定しているユーザー像は「40代後半の、成長した子どものいる三人家族のお父さん」。「お気に入りのスニーカーのような存在」「大人の遊び心を刺激するクルマ」と担当者は語ります。フロント部分は「アメフトのヘルメット」をイメージしたということです。
室内は日産車ではすっかりおなじみとなったメーターとナビゲーション画面が同一面上に並ぶシンプルでモダンなデザイン。手に触れるところにはカチカチの樹脂ではなく、ソフトな素材や「ノート・オーラ」のようなツイード調の布地があしらわれており、心地よい雰囲気がありました。
一方、中央のコンソールは運転席と助手席の間を横切るような高さのあるフローティングタイプで、下の空間にはティッシュボックスの収納スペースがあります。「ノート」以来採用している構造ですが、“先進的なコックピット”のカッコよさがある一方、助手席に手荷物をポンと置いたりする機会が多い人にとってはやや不便に感じるようです。日産車に限らず最近のクルマは、コンソールが盛り上がったタイプが多いのですが、関係者によれば「好みが分かれる」とのこと。悩みぬいた末のレイアウトであったことがうかがえます。シフトスイッチはボタン形式に変わりました。

「大人の遊び心」をイメージ 巻き返しなるか
「昨年は厳しかった年。第二四半期(2025年7月~9月)は厳しかったが、ルークス以降勢いを取り戻してきている。キックスで勢いを増していきたい」
杉本執行職は再建策以降の日本市場について、このように話しました。北米向けから2年遅れての国内導入は、第三世代e-POWER開発の影響とみられますが、「いま本当に最適なタイミングで日本の市場に投入できた」と杉本さんは主張します。
日産によれば、小型SUVの市場は過去10年で保有台数が3.8倍で最も成長が著しいジャンルだということです。いわば「激戦区」。月販目標台数は明らかにされていませんが、ヴェゼル、カローラクロスは今年に入ってそれぞれ月販平均5000台以上をマークし、登録車ランキングではともに20位以内に入っています。対するキックスはモデル末期ということもあって平均450台前後。低くないハードルながら、まずは挑戦者。ライバルに肩を並べられるかが成否の分かれ目になりそうです。
(了)





