自動車業界……、「一強」か?「二大勢力」か?「群雄割拠」か?
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ニッポン放送報道部畑中デスクのニュースコラム「報道部畑中デスクの独り言」(第475回)
■10数社がひしめき合った「官僚たちの夏」の時代
小説「官僚たちの夏」(城山三郎著)を読む機会がありました。ご存知の方も多いと思いますが、小説では高度経済成長時代を前に「貿易自由化派」と「国内産業保護派」が激論を交わす通産官僚の熱い姿が描かれています。小説だけでは飽き足らず、TVドラマも取り寄せてみたのですが、小説が法案策定をめぐる官僚の人間模様に重きを置いていたのに対し、ドラマ版は自動車、テレビ、コンピュータ、繊維など産業に携わる人々にもスポットを当てていました。視聴者にとっては具体的な産業をクローズアップした方がわかりやすいという一面もあったように思います。

トヨペット・クラウン(トヨタ 二代目)
小説で通産官僚が取り組んだ法案には自動車産業も深く関わっていました。主な舞台になった1962~1964年(昭和37年~39年)は国内の自動車メーカー10数社がひしめいていた時代でした。当時の車種をひも解いていくと……。
★トヨタ自動車工業…クラウン、クラウンエイト、コロナ、パブリカ
★日産自動車…セドリック、ブルーバード、フェアレディ
★プリンス自動車工業…スカイライン、グロリア
★いすゞ自動車…ベレル、ベレット、ヒルマン・ミンクス
★日野自動車工業…コンテッサ900
★ダイハツ工業…コンパーノ
★三菱重工業…コルト1000、デボネア
★東洋工業…キャロル(軽)、R360クーペ(軽)、ファミリア800、
★本田技研工業…ホンダS500、ホンダS600
★鈴木自動車工業…スズライト・フロンテ(軽)
★富士重工業…スバル360(軽)
★愛知機械工業…コニー・グッピー(軽)
★トヨタ自動車工業…トヨエース、ダイナ、マスターライン、スタウト、ライトバス
★日産自動車…ダットサントラック、キャブライト、キャブオール、ジュニア、エコー
★プリンス自動車工業…スカイウェイ、ホーマー、クリッパー
★いすゞ自動車…エルフ、ヒルマン・エキスプレス、大型トラック、バス
★日野自動車工業…ブリスカ、コンマ―ス、トラック、バス
★三菱重工業…360トラック(軽)、ジープ、三輪トラック、ローザ
★東洋工業…K360(軽)、B360(軽)、T600(三輪)、T1500(三輪)、B1500
★富士重工業…サンバー(軽)
★鈴木自動車工業…スズライト・キャリイ(軽)、スズライト・バン(軽)
★ダイハツ工業…ハイゼット(軽)、ミゼット(軽)、ハイライン
★愛知機械工業…コニー360(軽)
★東急くろがね工業…くろがね・ベビー(軽)
★ホープ自動車…ホープスター(軽)
懐かしい車名が並びますが、ザっと見て10数社で乗用車約30車種、商用車約40車種。1社あたりでみると、乗用車は各社2~4車種、一方、現在トラック専業メーカーの日野も乗用車を生産していました。マイカーが夢だったこの時代は商用車が乗用車より多く、「荷客兼用」のユーザーも少なくありませんでした。三輪トラックも健在の時代で、私が生まれた昭和40年代でもちらほら見かけたことを思い出します(なお、現代でも三輪自動車は東南アジアなどで普及しているほか、「トゥクトゥク」などの名称で形を変え、復活しつつあります)。

プリンス・スカイライン(二代目)
■業界再編に動いたメーカー、独立を貫いたメーカー
自動車のみならず、昭和30年代は様々な業種でこのような中小の企業がひしめき合っていました。このような状態では来たる国際競争で生き残れないと通産省(現・経済産業省)は考えます。そこで産業再編を進めることを柱にした「特定産業振興理事措置法(特振法)」を閣議決定し、国会に提出しますが、審議未了で廃案になります。「官僚たちの夏」でも主役の風越信吾ら関係者の落胆が描かれていました。しかし、現実の世界では廃案後も通産省は業界の集約化に動きます。中でも自動車業界で示されたのは、量産車、特種車、ミニカーの3つのグループに集約・再編するというもの。この構想はトヨタ・日産を軸に、形は変えたものの一定の結果を出しました。
プリンス自動車工業は日産に吸収合併され、スカイラインやグロリアは日産の車種になりました。東急くろがね工業は「日産工機」に社名を変更し、愛知機械工業とともに日産の傘下に入ります。トヨタはダイハツ工業と日野自動車工業を傘下とし、「小型車(軽自動車含む)」「トラック・バス」の各部門を担います。ホープ自動車は遊具メーカーに業態転換しました。
しかし、こうした通産省の思惑に屈しなかったメーカーがありました。それが本田技研工業=ホンダです。二輪車からスタートしたホンダは四輪車の新規参入に壁を設けようとする通産省に猛然と反発。軽トラックの「T360」(何とエンジンはDOHC)、スポーツカーのの「S500」を開発、業界集約化の前に「四輪車メーカー」としての実績をつくり上げてしまいます。その後は紆余曲折を経ながらも、現在は売上高20兆円を超えるメーカーに成長しました。
東洋工業もしかり、当時は三輪トラックから軽自動車の生産を拡大したことで“ミニカー”勢とみなされましたが、これに難色を示します。その反骨精神が、世界で唯一実用化したロータリーエンジンの開発につながることになるのです。
時代は下り、トヨタ自動車工業は「工販合併」によりトヨタ自動車に、三菱重工業は自動車部門が分離して三菱自動車工業、鈴木自動車工業は「スズキ」になります。東洋工業は「マツダ」、富士重工業は「SUBARU=スバル」とブランド名が社名になりました。いすゞ自動車は1990年代に乗用車から撤退し、トラック・バス専業メーカーとなります。一時はいすゞ=GM、マツダ=フォード、三菱自動車=クライスラーなど、各社が外資と手を携える時期もありました。日産はルノー(フランス)と資本提携することで倒産の危機を免れますが、その後、三菱自動車と資本提携、ルノーと「不平等」な関係にあった出資比率はともに15%と対等になり、現在に至ります。

日野・コンテッサ
■そして、現代……、新たなる再編は?
2026年、いまの自動車業界は環境こそ大きく変わりましたが、「時代は繰り返す」とばかりに再編が進んでいます。当時の通産省の目論見とはかなり景色が違い、乗用車はトヨタ、ダイハツ、マツダ、スバル、スズキと、出資比率や提携の度合いに濃淡こそあれ、この5社で「トヨタ陣営」を形成、そのほかは「日産・三菱自動車連合」「ホンダ」となります。また、長らくいすゞ自動車、日野自動車工業、三菱ふそう、日産ディーゼルの4社体制だったトラック・バス分野は現在2つの陣営に再編されました。いすゞは日産ディーゼルから社名を変えたUDトラックスを買収、日野は三菱ふそうと経営統合し、新会社「ARCHION(アーチオン)」になりました。なお、「いすゞ・UD連合」はバックにボルボ(UD系)があり、ARCHIONは親会社にトヨタ(いすゞ系)、ダイムラートラック(ふそう系)が控えるという複雑な構図になっています。いずれも、これからの電動化、自動運転、知能化の時代に単独では生き残れないという共通認識の下に生まれたものでした。
いわば「官主導」ではなく、「民主導」による再編と言えます。今後は何といっても、日産・三菱自連合とホンダがどのようになっていくのかが注目です。すでに電動化・知能化に関する現場レベルの協業は進んでいますが、昨年“破談”となった資本提携がよりを戻すのか……、両社が2026年3月期に巨額赤字を計上したこともあり、様々な見方があります。
「100年に一度の大変革」、そして中国など新興国の台頭、米国の関税政策や、欧州の迷走する環境政策など自動車を取り巻く環境が激変する中、危機感を抱きながらも盤石な体制を敷いているのはトヨタです。ただ、そのトヨタでさえ前途は厳しいと感じています。だからこそ「仲間づくり」を急ぎ、「オール・ジャパン体制」を築こうとしているのがうかがえます。それは業界団体の日本自動車工業会にも及び、業界が生き残るために部品や規格の共通化などに取り組んでいます。

ダイハツ・ミゼット
■「トヨタ一強」に伍する新たな対立軸は生まれるか? それとも……
しかし、オール・ジャパンといえば聞こえはいいのですが、そこから見え隠れするのは「単一」「一強」の世界、率いる側の「強者の論理」です。確かに資本主義下の自由競争の末にたどり着くのは集約化なのかもしれませんが、これには一抹の寂しさを禁じ得ません。
自動車業界のみならず様々な産業、そして政治、スポーツの世界も本命と対抗、AとBがともにライバルとして切磋琢磨する、あるいは大穴が生まれて番狂わせが生じる、三つ巴で何が起こるかわからない…そんな世界は緊張感が生まれ、活性化します。
スポーツでは相撲の「柏鵬時代」「輪湖時代」「貴曙時代」の横綱対決、プロ野球でも「巨人対阪神」はいまだで伝統の一戦として別格の存在。そうでなくても首位攻防戦の試合は大いに盛り上がります。
自動車の世界もアメリカではGM、フォード、クライスラーの「ビッグ3」(これらも様々なブランドが離合集散した歴史があります)、ドイツの「ダイムラーvsBMW+VW」、かつての日本の「トヨタvs日産」、フランスの「プジョー・シトロエンvsルノー」、スーパーカーの世界で少年たちが盛り上がった「フェラーリvsランボルギーニ」……、ライバルが互いを高め合ってきた世界は枚挙にいとまがありません。
これに対し、「一強」は安定の世界であり、ある意味、成熟した状態といえますが、「権不十年」という言葉があるように、長く続けば「腐敗の温床」にさえなります。「一強状態」は衰退の始まりではないかという危惧さえ覚えます。
クルマの世界はやはりライバル同士が切磋琢磨する世界であってほしい。そのためには国内に大きな「対立軸」が必要と感じます。ホンダと日産(+三菱自)が今後どうなるのかはそうした視点でも重要なのです。
それとも切磋琢磨の関係は国の枠を飛び越えることになるのでしょうか。すでに海外にはPSA(フランス)、フィアット(イタリア)、クライスラー(アメリカ)を統合したステランティスがあります。一方、日産はルノーとアライアンスは組んでいるものの、現在は対等な関係で統合には至っていません。日本でも海外勢との統合が実現するのか、あるいは日本の自動車産業が“統一”され、欧米勢や中国・BYD、韓国・現代と「オール・ジャパン」で伍していくような時代が来るのか、未来の自動車業界はユーザーにはどのように映るでしょうか。
(了)





