移民・難民を武器として使うロシアやベラルーシの戦略

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二松学舎大学国際政治経済学部・准教授の合六強が3月1日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。前年比で18%増加した2023年のEUの難民申請について解説した。

<Russia Putin Eurasian Economic Forum> 24.05.2023 Russian President Vladimir Putin greets Belarusian President Alexander Lukashenko before a plenary session of the Eurasian Economic Forum in Moscow, Russia. Grigory Sysoev / Sputnik / 共同通信イメージズ

<Russia Putin Eurasian Economic Forum> 24.05.2023 Russian President Vladimir Putin greets Belarusian President Alexander Lukashenko before a plenary session of the Eurasian Economic Forum in Moscow, Russia. Grigory Sysoev / Sputnik / 共同通信イメージズ

EUの2023年の難民申請、前年比18%増加の114万人

欧州連合(EU)は2月28日、加盟国とスイス、ノルウェーで2023年の難民申請が前年比18%増の約114万人だったと発表した。シリア情勢の悪化で100万人を超えた2015~2016年の難民危機以降、最大の数となった。

シリアやアフガニスタンからの難民が多いエストニア

飯田)(EUは)ウクライナからの難民を受け入れている国も多いことなどが挙げられていますが、エストニアでもそうでしたか?

合六)エストニアにも多くのウクライナ難民がいて、例えばホテル清掃の仕事などにウクライナ人が多く従事していますね。受け入れ国や地域では、「潜在的なトラブルが起こらないかどうか」が重要です。エストニアのなかでもロシア語を話すロシア系住民が多い地域は、ウクライナ難民が組織的に住むとなると地域で問題が起こりかねないため、政府としてはそういう地域に送らず、首都や第2都市で避難民の生活を支えているという話を聞きました。今回、難民申請が増えたのは、ウクライナ難民というよりも、件数別では中東紛争の影響でシリアからの申請が多くなっているのです。

飯田)シリアからの難民申請が。

合六)2番目は、数は減っていますがアフガニスタンからです。ヨーロッパだけではなく、その周辺やアフガンなどがまだ不安定であると示している内容だと思います。

移民・難民が増えると右派ポピュリズムが伸びる

合六)受け入れ側の問題としては、こういう人たちを「追い出せ」というような、右派的なポピュリストが台頭しているのです。2015年の難民危機でも同じような状況がありました。今年(2024年)は「欧州議会選挙」が開かれますし、EU加盟国のいくつかでは全国レベルの選挙も行われます。この間、右派ポピュリズムが伸び悩んでいたのですが、また伸びるかも知れません。

飯田)右派ポピュリズムが。

合六)そういうところはロシアとの関係を重視し、ウクライナ支援に対しても消極的ですので、回り回ってウクライナへの対応にも大きく影響する可能性はあると思います。

移民をEU諸国の国境にあえて送り込み、武器として使うロシアやベラルーシ

飯田)2015~2016年当時を思い出すと、「ドイツのための選択肢(AfD)」、あるいはフランスだと「国民戦線」が伸びて、マリーヌ・ル・ペン氏が最終決戦まで進みました。同じような空気感があるのですか?

合六)まさに欧州議会選挙ではフランスのル・ペン氏や、AfDなどが伸びるのではないかと議論されています。また、移民・難民を受け入れる数で言うと、圧倒的に多いのはドイツです。もともとはメルケル政権時代に、道徳的な観点から「受け入れなければならない」とされていました。それは正しいのですが、結果として国内でハレーションが起こり、「どうするか」という解が見つけられていないのです。

EUにとっては、単に難民・移民を「どう受け入れ、生活を支えていくか」という問題に留まらない状況になっている

合六)そういうところを狙って、ロシアやベラルーシなどは移民を武器として使っています。EU諸国との国境にあえて人を送り込むのです。EU側としては不法侵入になるので対応すると、そういう映像を世界に見せ、「道徳的なEU」というイメージを汚し、弱体化させていく。そういう戦略も行われています。

飯田)移民の武器化。

合六)最近はフィンランドでもやろうとしていて、フィンランド政府はすごく警戒しています。「ハイブリッド戦」の一環として移民を使うのですが、その対策も行う必要がある。EUにとっては、単に難民・移民を「どう受け入れ、生活を支えていくか」という問題に留まらない状況だと思います。

「自分たちの福祉を守るために難民・移民を追い出さなければならない」という議論が極端な勢力に利用される

飯田)他方、その国に古くから住んでいる人々にとっては、「俺たちが稼いで納めた税金を、自分たちの福祉ではなく、なぜ別の方に使うのだ」と不満を持つ可能性もあります。

合六)福祉を重視すればするほど、「なぜ我々が本来受けるはずの福祉を、他の難民・移民たちに使われるのだ」となりかねない。伝統的な福祉を守るためにも、難民・移民を追い出さなければならないという議論につながります。それをうまく使って勢力を伸ばしているような、例えばオランダの極右ポピュリズム政党があるのです。必ずしも右派だけではなく、リベラル政党のなかでも極端な方向に進む場合もある。左右両極端な人々がそういう議論をしがちなところにも注目する必要があります。

偽情報によって欧米を分断させようとするロシア

飯田)両方を並び立たせるような中道勢力は、双方から削られてどんどん少なくなってしまう。

合六)ロシアが偽情報などさまざまな形で介入し、両極端な部分を支えることによって、国内あるいはヨーロッパ、米欧を分断させる。1つの壁を壊していくような戦略に打って出ているのだと思います。

飯田)偽情報を流すだけでなく、国民の深い感情を煽っていく。

合六)単に一般の方々に対する情報だけでなく、重要なインフルエンサーを見つけ出し、そういう人たちが真実のなかにちょっとした誤情報をあえて混ぜる。それが拡散され、あたかも真実のように伝わっていく状況をつくり出すのです。また最近、政治家でもロシアと関係のある人が、ラトビアなどで摘発されています。警戒感が高まっているとはいえ、なかなか対処が追いついていない状況だと思います。

既存の政府に対する不満を回収することによって、支持を伸ばしていくポピュリスト政党

飯田)そもそも論としてコロナもあったわけですが、失業率の高さや、経済がうまくいかないなどの社会的な不満があり、そういう下地にどんどん火がついたのですか?

合六)ポピュリスト政党はある種、主義主張がないというか、ときの流れに身を任せながら日和見的に、不満があるところにくっ付いていく傾向があります。最近では、ヨーロッパの農家の方たちが立ち上がっていて……。

飯田)デモ隊が高速道路を塞いだりしています。

合六)そういうところに党としての照準を合わせ、支持を獲得するような政策を打ち出す。党綱領とはかなり違うことを言っているのですが、そんなものは気にしません。既存の政府に対する不満を回収することで、自分たちの力にしていき、どんどん伸びているのです。

飯田)「ウクライナから安価な小麦が入ってくるせいで、みんなの生活が悪くなっている」と主張されれば、ロシアとしても「しめしめ」となるのですね。

合六)そこがまさに狙いどころですし、期間が長くなればなるほど不満が高まる。プーチン大統領は現段階で、少なくとも「時間はロシアに味方している」と思っているため、「侵攻は継続する」と示した。あるいは停戦も難しい状況だと思います。

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