慶應義塾大学教授の廣瀬陽子氏が2月19日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。ロシア反体制派指導者のアレクセイ・ナワリヌイ氏の死亡について解説した。
ロシア当局が反体制派の指導者ナワリヌイ氏の死亡を発表
ロシア当局は2月16日、プーチン大統領への批判を続け刑務所に収監されていた反体制派の指導者アレクセイ・ナワリヌイ氏が死亡したと発表した。当局は「散歩のあとで体調不良を訴え、すぐに意識を失った」としているが、現在のところ死因については言及されていない。
飯田)ナワリヌイ氏が死亡したニュースを、どのように受け止められましたか?
廣瀬)ナワリヌイ氏の収監状況は悪いと伝えられていました。度々拷問を受け、最後に収監された場所も、ヤマロ・ネネツ自治管区にある非常に劣悪な環境の刑務所でした。それだけでも体には相当の負担があったのではないかと言われています。また、少しずつヒ素を盛られているなど、いろいろな噂もあったなかで突然の発表でした。何らかの力が掛かっていたことは間違いないと思われます。現状は死因がはっきりせず、遺体もどこにあるかわからない状況です。ご遺族も遺体の引き取りを強くリクエストしていますが、叶っておらず、第三者が死因を確かめるのはおそらく不可能だと思います。
抗議活動が広がる可能性も
飯田)ロシア国内でも抗議活動で捕まり、拘束される人が出ているという報道もあります。混乱は広がりそうですか?
廣瀬)広がる可能性はあると思います。ナワリヌイ氏が反体制派としてプーチン大統領に対し、最初から大きな影響力を持っていたかと言うと、そうでもなかった可能性も高いのです。実はもともと、反体制派として強い人ではありませんでした。しかしノビチョク事件以降、有名になっていったところがあります。
飯田)ノビチョク事件というのは、毒殺未遂の話ですか?
廣瀬)そうです。あれでナワリヌイ氏を知った人も多いのです。プーチン大統領が彼を追い詰めれば追い詰めるほど、むしろ市民の間で知名度が上がっていったという皮肉な状況もありました。
周囲の人間が忖度して殺害、拷問がいきすぎたことによる死亡の可能性も
廣瀬)プーチン大統領が手を出さなければ、反体制派としての脅威はなかったのではないかと思います。ナワリヌイ氏は近年、選挙の度に影響力を示すようになっていて、例えば議会選挙の際にはスマート投票を呼びかけていました。とにかく「反プーチン派の人を選びましょう」という作戦です。プーチン大統領の息がかかっていない人や、なるべく野党で力を持っている人に集中して投票する。野党の人が1人でも多く当選できるようにアピールしていました。実際、それによって野党の人数が若干増えたところもあります。
飯田)野党の人数が増えた。
廣瀬)そのような組織力、人を集める力を脅威に思ったのかも知れませんが、今回の大統領選挙において、ナワリヌイ氏に何かできたかと言うと、難しかったと思います。大統領選挙でプーチン氏が圧勝するのは、誰が見ても明らかでした。今回のナワリヌイ氏の死について、もちろんプーチン大統領が直接命じた可能性は捨てきれませんが、周辺の人間が何か忖度したという説や、殺す気はなかったけれど拷問がいきすぎてしまったのではないかという説もあります。
米大統領選が今後のウクライナ情勢に大きく影響する
エコノミスト・片岡剛士)ウクライナ戦争は2年が経ち、長期化しています。長期化を見据えて今後、どんな展開になると思われますか?
廣瀬)当面は「ウクライナがどれだけ持ち堪えられるか」が焦点になると思います。アウディーイウカについても、最近、総司令官が変わったなかで、ウクライナ側から撤退を決めました。今後は「いかに守っていくか」を考え、「防戦」に力を入れる方針に変えつつあります。いまはアメリカからの支援が難しい状況にあります。EUでは一部の国を除き、まだ支援する意欲が強くあるのですが、EUが束になって支援してもアメリカ一国の支援には満たない部分もあります。まずはアメリカの動向がどうなるか、特に11月の大統領選挙の動向が強く関わってきます。また、ウクライナが支援をよりよい形で活かせるかどうか。ウクライナ国内で少しずつ囁かれている亀裂のようなものを早く埋め、一体となってロシアに立ち向かえる状況が構築できるかどうかが鍵になると思います。
危惧されるザルジニー総司令官解任による戦闘への悪影響
飯田)前の総司令官だったザルジニー氏が解任されましたが、足並みの乱れのようなものは目立ちますか?
廣瀬)確かにザルジニー氏は人気がありましたし、逆に新しい司令官であるシルスキー氏はあまり人気がありません。シルスキー氏を支持しているのは40%くらいです。他方で「ザルジニー氏の解任を残念に思う」という評価が70%以上になっています。それが現場の兵士や、国で兵士を支える国民にとって、どれくらいのインパクトになるのかはまだ見えていません。しかし、国民の連帯にヒビを入れるような状態になると、ウクライナの戦闘においても悪い影響が出てくる可能性が高いので、危惧しているところです。
ウクライナが日本に期待する復興に関する知見や技術
飯田)また、きょう(19日)から「日・ウクライナ経済復興推進会議」が行われます。我々ができる支援として、どんなことが考えられますか?
廣瀬)一部の日本人のなかには、「まだ戦争は続いているのに復興など考えるべきではない」という意見もありますが、いま動くことに意味があります。戦闘が行われていないところを少しでも早く戻すのは重要であり、日本の地雷除去のような技術が役に立つのです。日本は第二次世界大戦からの復興や、多くの災害から立ち直ってきた歴史があり、そのような知見や経験、技術をウクライナは求めています。日本にできることはたくさんある。戦時中ではありますが、できることからやっていき、戦争が終わったら本格的な復興を手伝うような流れで、日本が大きな力を発揮できる側面ではないかと思います。
飯田)2023年は経済ミッションの方々もキーウを訪問しましたが、現地も見ているわけですよね?
廣瀬)ただ、現地でビジネスが展開できるかと言うと、難しいところもあります。キーウにもかなり日常が戻ってきてはいるものの、未だにミサイルが落ち、防空警報も頻繁に鳴っている状況なので、日本人が現地で働くのは難しいでしょう。どんな形で日本企業がいまからでも関われるのか。ヨーロッパ企業のなかには、既に入っている企業もあるので、それらを参考にしながら「できることをやっていく」という状態だと思います。
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