江戸時代の浮世絵師・葛飾北斎
…ゴッホやドガなどに影響を与え、さらに音楽家のドビュッシーは彼の「冨嶽三十六景 神奈川沖浪裏」に発想を得て、交響詩「海」を作曲したと言われています。
生前から世界における評価は高く、1999年にはアメリカの雑誌「ライフ」で「この1,000年でもっとも偉大な業績を残した100人」に、日本人でたった一人選ばれています。
そんな日本を代表する芸術家・葛飾北斎の名作を展示する『すみだ北斎美術館』が11/22(火)にオープンしました。
開館して15日目で、なんと3万人もの人たちが訪れた今注目の美術館です。
北斎は今の東京都墨田区で生まれ、90歳という当時としてはとても長い生涯のうちで、なんと93回も引越しをしたといわれています。
そのほとんどをすみだで過ごし、多くの名作を残しました。両国橋、三囲神社、牛嶋神社など、当時のすみだの景色を描いたものが数多く残っています。
美術館は、常設展示室と企画展示室に分かれています。
常設展は、北斎とすみだとのつながりをはじめ、北斎が絵を描き始めた頃から年代順に代表作が並んでいます。
モニターのタッチパネルに触れると作品にまつわるエピソードも読め、北斎の生涯を辿ることができます。
美術の教科書やいろいろなところで使われているおなじみの作品にもお目にかかれますが、なんといっても印象に残るのは、北斎晩年の最大級の傑作と言われる大絵馬「須佐之男命厄神退治之図」。
北斎が86歳の時に描いた幅276cm×縦126cmの大きな絵は、常設展示室の前の壁に掛けられています。
須佐之男命が悪病をもたらす神々に、今後悪さをしないようにと証文をとっています。
実はこの絵は関東大震災で焼失してしまいましたが、たった一枚残された白黒写真から、最先端のデジタル技術と職人さんの経験から推定復元されたのです。
その色使いの素晴らしさといったら…
そして企画展示室では、今、開館記念展「北斎の帰還ー幻の絵巻と名品コレクションー」が開かれています。
代表作 冨嶽三十六景など墨田区所蔵の名品の中から、肉筆画、版画、摺物、版本など前後期合わせて120点余りが展示されます。(前期:~12/18 後期:12/20~1/15)
特に注目されているのが、幻の絵巻「隅田川両岸景色図巻」。46歳ころに描いたといわれる7m以上の長さの大作です。
海外に流出し、1902年フランスの国立競売場・ドゥロウで売却された記録を最後に行方知れずとなっていましたが、100年余りの時を経てついに里帰りすることができた奇跡の肉筆画なのです。
舟で吉原へ向かうコースだった両国橋から山谷堀までの隅田川の両岸、日本堤、吉原遊郭、そして遊郭の室内までを描いています。
両岸の美しい景色、道ゆく人々、教えてもらわないとわからないほど薄く小さな点で描かれた川面に浮かぶ水鳥など、とても繊細で緻密な優しい筆遣いにうっとり…見応えがあります。
右から左へ、長い絵巻をじっくり辿って行くと、まるで自分が両国橋から舟に乗って吉原に出かけて行くような気分になります。
開館記念展「北斎の帰還ー幻の絵巻と名品コレクションー」は、世界中に散逸していた北斎の名作が、生まれ故郷のすみだの地に戻ってきたことを、まさにその帰還を祝う展示会なのです。
北斎は、辞世に「天我をして五年の命を保たしめば、真正の画工となるを得べし」と言ったそうです。天があともう五年、生かしてくれるなら、まさに正真正銘の絵師となれたのに…
葛飾北斎がこんなにも時を超えこんなにも国境を越え、世界中の人々に愛され続けるのは、もっともっといい作品を描きたいと死の直前まで願う北斎の生き方が、作品から伝わってくるからなのかもしれません。
すみだ北斎美術館
休館日:毎週月曜日(月曜が祝日・振替休日の場合は翌平日)年末年始(12/26~1/1)
開館時間:9:30~17:30
レポート:ひろたみゆ紀