おそれずに老いの日を迎えましょう【瀬戸内寂聴「今日を生きるための言葉」】第182回

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すべてが老い、滅びの道をたどる運命のなかで、ただひとつ老いない滅びないものがあります。それは法(のり)です。仏法(ぶっぽう)です。ダンマパダ、真理の教えです。釈尊(しゃくそん)はそれを説かれたのです。二十九歳のとき家を出た釈尊は、全国を遊行(ゆぎょう)して人々の苦しみを救い、正しい教えを説かれ、八十歳で病に倒れ、入滅されました。
その死には何の奇跡もあらわれず、ふつうの人間と同じ死を迎えました。
最後の旅の途上で釈尊は、
「わたしは老いてしまった。わたしの体はポンコツ車のように、古びた革紐でやっと部品をつなぎとめているようなものだ。ああ、疲れた」
と、述懐されています。何という悲しい、でもなつかしいおことばでしょう。釈尊もわたしたちと同じ人間として、老いられたのです。
わたしたちもおそれず、しかし万全の用意をして、老いの日を迎えましょう。

瀬戸内寂聴

撮影:斉藤ユーリ

出典:『生きる言葉 あなたへ』光文社文庫

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