話題のアスリートの隠された物語を探る「スポーツアナザーストーリー」。本日は、21日のサッカーアジア杯で、貴重なゴールを決めた弱冠20歳の日本代表・冨安健洋選手のエピソードを取り上げる。
「久々ですし、あまりゴールを取れる選手じゃないので、喜び方もあまり分からなかった。本当に嬉しい」(試合後・冨安のコメント)
21日のサッカーアジア杯・決勝トーナメント1回戦・日本−サウジアラビア戦。ここからは一発勝負、アジア王者奪還のためには負けられない戦いが続きますが、サウジ戦は、相手に76.3%のボール支配率を許し、終始敵の攻撃にさらされる厳しい展開になりました。
そんななか前半20分、相手のマークを外して果敢に前へ飛び込み、決勝ゴールをもぎ取ったのが、身長188センチのDF・冨安健洋でした。MF・柴崎の左コーナーキックに合わせ、ヘディングでゴール左隅に突き刺したのです。
「追い込まれているときだったので、このCKで得点できればと思っていた」
冨安は、これがA代表初ゴール。代表6試合目、20歳2ヵ月での得点は、アジアカップ最年少記録となりました。ゴールを決めた瞬間、笑顔でチームメイトたちの方に駆け出すと、同学年のMF・堂安とハイタッチ。先輩たちには頭を叩かれて祝福されました。
しかし、喜んでばかりはいられません。得点を決めたあとは、CB(センターバック)としての働きに徹し、何度もクロスをはね返して、チームを1−0の完封勝ちに導いたのです。
「ゴールよりも、無失点に抑えることの方がこだわりが強いですし、今日はしっかりゼロに守ることができたので、そっちの方が嬉しい」
1998年11月生まれの冨安は、福岡出身。中学のときから地元・アビスパ福岡の下部組織に所属し、叩き上げで2016年、トップチームに昇格。この年、高2でJ1デビューを果たしました。日本代表では、CB・吉田麻也主将の後継者になれる存在と言われています。
サウジ戦でも、吉田との長身コンビで「壁」となって活躍。吉田は試合後、冨安について、
「素晴らしいと思います。よくゴールも取りましたし、守備でも集中力を切らさず最後までやり切った。正直驚いています」
と絶賛しました。2020年の東京オリンピックでは、五輪代表のストッパーとして大いに期待が懸かる選手です。
昨年1月、冨安はベルギー1部のシントトロイデンに移籍。このクラブの最高経営責任者(CEO)を務めるのは、日本人の立石敬之氏です。北九州市出身で、大分トリニータのコーチなどを経て、FC東京のゼネラルマネジャーに就任。長友佑都・武藤嘉紀、中島翔哉らの海外挑戦をバックアップしました。
その立石氏が、どうしてもベルギーでプレーさせたいと呼び寄せたのが、同じ福岡県出身の冨安だったのです。ベルギーリーグは、欧州の国内リーグのなかでも、若手が活躍できるリーグとして知られており、ステップアップにはまたとない環境。
移籍2シーズン目となる今季、冨安は公式戦全24試合にフル出場しており、レギュラーに定着。ドイツ・スペイン・プレミアリーグのクラブからも問い合わせが殺到しているそうです。
「(自分は)攻撃より守備で良さを出せる選手。まだ序盤でしたし、ゲームが終わるまではとにかく集中を切らさないことを意識していた」
ゴールを奪っても浮かれず、自分がやるべきことをやる……代表のなかでも、存在感が増していると評判の冨安。ベスト8に進出した日本の次戦は、中2日でベトナム戦ですが、これからの戦いは、20歳のCBがカギを握っているかもしれません。