仕事中に拾ってレジ袋に入れた3匹の子猫の運命は
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【ペットと一緒に vol.133】
ペットシッターの山口照代さんは、仕事中に街で偶然、捨てられていた子猫を見つけました。今回は、そのうちの1匹を自身の愛猫にして、大切に育てた山口さんのエピソードをお届けします。
シッター先の犬の散歩中に子猫を発見
ペットシッターの仕事で、山口さんは5年前のある日、東京都の桜新町を訪れました。依頼されたワンちゃんの散歩をしていると、呑川の土手でミャァミャァという鳴き声に気づき……。
「ふと見ると、生まれてから数週間しか経っていないような子猫が3匹、肩を寄せ合っていたんです。我が家にも猫がいるので、すぐにでも助けてあげたいと思ったのですが、お客様のワンちゃんの散歩中で……」。
困ってしまった山口さんでしたが、すぐに助っ人に電話でヘルプを要請したそうです。
「一緒に猫のTNR活動などをしている仲間なのですが、ちょうど電話をしたときは手が空いていて、すぐに駆けつけてくれることになりました」とのこと。
子猫をそのままにしておくと見失ってしまう可能性があるため、ひとまず山口さんは子猫を捕獲することにしたそうです。
「捕獲に役立ちそうなものを私は何も持っていなかったので、近くを通りかかった幼稚園生のママたちに『不要な袋はありませんか?』と声をかけました。そうしたらみなさん『ないですねぇ』と口をそろえられたのですが、『あ、でも、これでよければ』と、スーパーのレジ袋をくださったんです」。
そこで、山口さんは子猫を捕まえてひとまずレジ袋に入れたのだとか。
「当時の光景を思い起こすと、ビニール袋に入れられた子猫だなんてすごくレアケースなので笑っちゃうんですけどね。あっさりと3匹は捕まえられて、レジ袋に収まっていましたよ」。
仲良し3兄弟との楽しい日々
友人にひとまず3匹の猫を託したまま、山口さんはペットシッティングを無事に終え、再び子猫たちを引き取るとキャリーケースに移して動物病院に連れて行ったそうです。
「猫を拾うことはめずらしくありません。よほど汚い猫は、拾ってすぐシャンプーをすることもありますが、3匹ともきれいな状態でした。きっと捨てられて間がなかったのでしょう」と、山口さんは振り返ります。
離乳したての週齢だと思われたため、弱々しい子猫たちに山口さんは離乳食を用意して与えたそうです。
「こうして私に拾われて、明るい未来が待っているかもしれないのだから、生き延びて欲しくて。『がんばって~』と励ましながら食べてもらいました」。
その甲斐あって、子猫たちはだんだんと元気になって行ったそうです。
しばらくしてから、山口さんは動物病院に3匹を連れて行きました。混合ワクチンを接種するためです。
「3匹のうち、のちに愛猫になる八割れ模様のズーラは、注射をされたのにも気づかなかったですね(笑)。ほかの子猫は緊張していたのに、ズーラの鈍感力には驚かされました」。
3匹はいつも寄り添いながら寝て、よく一緒に遊んでいたそうです。
「そう言えば、ズーラだけが捕まえたときに『シャーっ!』って言ったのを思い出しました。ズーラはなかなか勇敢な子猫でしたね」と、山口さんは大きくなったズーラくんの喉を撫でながら微笑みます。
あっという間に訪れた別れ
3匹を拾ってから2ヵ月後、まず、呑(のん)ちゃんというサバトラ柄の子猫が大阪で待つ新しい家族のもとへ旅立って行ったそうです。けれども、まだズーラくんともう1匹の墨ちゃんという黒猫は一緒にいました。
「この頃からケージの外にいる時間が増えました。ズーラの目はぼんやりしたブルーグレーからグリーンに変化して来て、もう赤ちゃんではなくて、ちゃんとした子猫という趣を醸し始めましたね」と、山口さん。
その後、墨ちゃんも里親さん宅へ。
「でも、1歳年上のミィ姉ちゃんが、さびしそうにしていたズーラの気持ちをなぐさめていましたね。2匹はくっついて寝たり、繁忙期で家を空けることの多かった私に代わって、ミィがズーラの面倒を見てくれたりしていたんですよ」と、山口さんは言います。
誤食癖で苦労
山口家に残ったズーラくん。すくすくと育ち、ほかの10匹ほどの先住猫たちを押しのけて山口さんの膝に乗ろうとしたり、山口さんのあとをお風呂場まで追いかけるほどの存在感を放つまでになったそうです。
そんなズーラくんですが、実は手術で一命を取り留める騒動もあったのだとか。
「小さい頃から、誤食癖があるんです。遊んでいるうちに飲み込んでしまうのかな? 私が見ていないうちに、セーターやら、ペット用ベッドやら……。手術をしたのは、ひもを飲んでしまって。ひもは腸に絡まると腸閉塞になって命を落とす危険性もあります。それはもう、焦りましたね。でも何とか復活してくれて、いまも元気に過ごしています」(山口さん)。
猫をこよなく愛し、猫たちからも愛されている山口さん。そんな山口さんと愛猫、そしてペットシッティング先で触れ合う猫たちとのかけがえのない日々は、さまざまな思い出に彩られながらこれからもずっと続いて行くことでしょう。
連載情報
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著者:臼井京音
ドッグライターとして20年以上、日本や世界の犬事情を取材。小学生時代からの愛読誌『愛犬の友』をはじめ、新聞、週刊誌、書籍、ペット専門誌、Web媒体等で執筆活動を行う。30歳を過ぎてオーストラリアで犬の行動カウンセリングを学び、2007~2017年まで東京都中央区で「犬の幼稚園Urban Paws」も運営。主な著書は『室内犬の気持ちがわかる本』、タイの小島の犬のモノクロ写真集『うみいぬ』。かつてはヨークシャー・テリア、現在はノーリッチ・テリア2頭と暮らす。東京都中央区の動物との共生推進員。