多頭飼育の崩壊現場から思わず6頭引き取ったママ獣医師が考えたこと

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【ペットと一緒に vol.131】

多頭飼育の崩壊現場から思わず6頭引き取ったママ獣医師が考えたこと
ペットスペース&アニマルクリニックまりもの院長・箱崎加奈子さんのもとに、これまで家から1歩も出たことがない保護犬が6頭やって来ました。多頭飼育が崩壊しかけ、その家庭に訪問して50頭余りに狂犬病の予防注射を打ったのが、きっかけでした。今回は、つい数週間前の箱崎さんの経験と思いを紹介します。


茨城県から東京に思わず迎えた6頭

獣医師の箱崎さんが院長を務めるアニマルクリニックに、茨城県から6頭の保護犬がやって来ました。

「実は依頼をされて、多頭飼育をしている3人家族のもとへ狂犬病ワクチンを接種しに行ったんです。全部で60頭ほどいた犬たちは、10キロ前後の雑種。見た目も似ているコが多かったですが、みんな名前も付けられているし、それぞれの性格を飼い主さんはよく把握されていて、とてもかわいがられていました。でも、さすがにそれだけの頭数の世話は大変だということで、地元の動物愛護推進員や愛護活動をしているボランティアの方がレスキューするということになったそうです」(箱崎さん)。

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白くてフワフワの雑種

箱崎さんは狂犬病の予防注射を、地元の獣医師が避妊・去勢手術を実施。もとの飼い主さんのもとには数頭を残して、あとは新しい家族を募集することになったそうです。

「頭数が多いので、地元の方も里親探しは大変だろうと思いました。そこで、注射をするだけでなく何か役に立ちたいと思い、医療処置が必要な数頭を引き受けますと、気づいたら願い出ていましたね(笑)」。
後日、地元のボランティアの方が6頭を箱崎さんが経営するクリニックまで連れて来てくれたそうです。

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箱崎加奈子さんとその娘さんと保護犬


リードもつけられないけれど……

やって来た犬たちは、脚が悪かったり、臀部に腫瘍があったりしたそうですが、現地にも重篤な病気を抱えている犬はいなかったのだとか。

「それだけの頭数を飼育しながら、太りすぎの犬も痩せすぎの犬もいませんでした。ほとんどは健康状態も良好です」と語る箱崎さんですが、頭を抱えたことがありました。
「たぶん、生まれて1度も散歩をしたことがないようで、首輪やリードをつけるとフリーズしてしまうんですよ」。

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首輪とリードにも慣れていこうね!

さらに、飼い主さん以外の人とはほとんど接触がなかったようで、人馴れができていないとも。
「すごく穏やかな気質の血統なんだと思うんです。だから、人に対して攻撃的なところはないんですけど、見知らぬ人には緊張を感じるコもいるんですよね」(箱崎さん)。

そこで、いまはクリニックで人馴れやリード慣れなどの社会化を行いながら、興味を持ってくれた里親希望のファミリーとお見合いを始めているそうです。「ご縁があって関わった命。幸せになってもらいたいなぁ」と、箱崎さんは犬たちにあたたかいまなざしを注ぎながら微笑みます。

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人に慣れた犬はクリニックで開催するパピーパーティーにも参加


獣医師として考えさせられたこと

箱崎さんは子猫のミルクボランティアなどをした経験もありますが、今回の多頭飼育崩壊の現場を訪れて、あらためて考えさせられたことがあると言います。

「野良猫が子猫を産んでしまうことに対しては、TNR活動をして人間が介入できればある程度はコントロールができますが、実際は知らないうちに生まれているケースも多くてむずかしいものです。
でも、飼い犬の場合は飼い主さんが避妊・去勢手術をさせさえすれば、たった数頭が十数頭にまで増えてしまうことはありません。私たち獣医師は、犬や猫は避妊・去勢手術をしないで多頭飼育をすると、きっと飼い主さんの想像以上に短期間でどんどん頭数が増えて行く事実を、子犬のワクチン接種などに訪れた際にもっと説明をする必要があるかもしれません」とのこと。

多頭飼育の崩壊現場から思わず6頭引き取ったママ獣医師が考えたこと

もうパピーではありませんが、パピーパーティーで社会化中

箱崎さんは愛犬に子犬を産ませた経験があり、同様の経験をしたい飼い主さんの気持ちもわかるそうです。
「避妊・去勢を愛犬にさせるかどうかは、飼い主さんのライフスタイルや気持ちを尊重したいと思って来ました。だから、積極的に避妊・去勢手術を勧めてもいませんが、気づいたら増えてしまう可能性が高いことは、獣医師はさまざまな手段で早めに飼い主さんに伝えるべきですね」。

犬の頭数が増えてしまってから避妊・去勢手術をするのでは、経済的な負担が大きくなります。
「メスの避妊手術よりもオスの去勢手術のほうが、手術代は安く済みます。もし愛犬の数頭が増えてしまったら、その時点でせめて費用のかからないオスだけに去勢手術を施すという手もあります。全頭が理想ですが、オスかメスどちらかだけ手術をすれば、それ以上は増えませんから」と、箱崎さんは語ります。

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避妊・去勢手術を終えて新しい家族を募集中

箱崎さんはまた、崩壊が起こる前の段階でなんとかレスキューができなかったものかと考えているそうです。
「地域の動物愛護関係者や行政や獣医師が、崩壊間近の段階ではなく、もっと早い段階で何か情報が得られれば、結果は違って来ると思うんです」。

箱崎さんのもとにいる6頭の保護犬たちをはじめ、今回レスキューされた60頭ほどの犬たちがしあわせな第二の犬生を過ごせるようになること、そして箱崎さんのように考える方々の思いが形になり、日本の犬をとりまく環境がよりよくなって行くことを願ってやみません。

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「第二の犬生はどんなかな~?」

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著者:臼井京音
ドッグライターとして20年以上、日本や世界の犬事情を取材。小学生時代からの愛読誌『愛犬の友』をはじめ、新聞、週刊誌、書籍、ペット専門誌、Web媒体等で執筆活動を行う。30歳を過ぎてオーストラリアで犬の行動カウンセリングを学び、2007~2017年まで東京都中央区で「犬の幼稚園Urban Paws」も運営。主な著書は『室内犬の気持ちがわかる本』、タイの小島の犬のモノクロ写真集『うみいぬ』。かつてはヨークシャー・テリア、現在はノーリッチ・テリア2頭と暮らす。東京都中央区の動物との共生推進員。

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