気づけば猫のミルクボランティア 旅先で拾った猫が人生を変えた!
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【ペットと一緒に vol.126】
たまたま拾った子猫がきっかけで、保護猫の現状を知った西村いづみさん。その後目にした、フェイスブックのミルクボランティア募集の投稿への応募を機に、子猫をとおして多くの人とのかかわりが増えて人生が豊かになったとか。今回は、つい2年前までは違う世界にいたと語る、西村さんのストーリーを紹介します。
キャンプ場で拾った猫がきっかけで
西村さんは2年ほど前、一家で訪れたキャンプ場でたまたま子猫を1匹見つけたそうです。
「週末だったのですが、キャンプ場のスタッフがつかまえて週明けに保健所に連れて行くと言うので、思わず『私たちが連れて帰ります』と言っていました。もしかすると殺処分になるかもしれないと思って……」と、西村さんは当時を振り返ります。
連れ帰った子猫は体重が500gほど。母猫とはぐれたのか衰弱していて、西村さんの尽力も実らず10日後に死んでしまったと言います。
「悲しかったです。と同時に、その経験がもとで、インターネットで捨て猫や野良猫の現状を調べまくりました。そのとき愛護団体のブログなどを初めて読み、殺処分のほとんどが子猫であることや、全国にはたくさんの保護猫がいることを知ったんです」(西村さん)
1匹でも保護猫をしあわせにできればとの思いで、西村さんは愛護団体から猫を1匹引き取りました。
「名前はナギです。男の子ですが、家族はナギちゃんって呼んでいます。そのナギちゃんが1匹だと寂しいかと思って、愛護団体のブログやフェイスブックをチェックしていたところ、子猫のミルクボランティアを募集していることを知りました」
すぐに、ミルクボランティアになると名乗りをあげた西村さん。子猫を拾ってから半年後に、新たな生活がスタートすることになったのです。
子猫をとおして近所付き合いも増えた!
自宅の1階をレンタルスペースにして在宅ワークをしている西村さんにとって、子猫に3~4時間ごとに授乳するのはそれほどむずかしくはありません。
「小学生と中学生の子供たちも、あっという間にミルクの作り方から授乳法までを覚えました。まだ目も開かない子猫たちの排泄のお世話もバッチリです。子供の友人たちが、子猫にミルクをあげてくれたりもするんですよ」と、西村さんは微笑みます。
預かった子猫の譲渡先は、友人や近所の知人に声をかけたり、SNSをとおして西村さん家族が探し、直接届けているそうです。
「ミルクボランティアを始めてから、実は近所の方との接点が以前よりずっと持てるようになりましたね。我が家から子猫を引き取った近所の里親さんが、旅行中に愛猫の世話をしてくれることもあるんです」(西村さん)
近所の方はもちろん、少し遠方在住の子猫の里親希望者の方も、西村家に何度も足を運んでもらって子猫の授乳や世話をしてもらうのが、西村さんのこだわりだとか。
「我が家に来た子猫はすべて、離乳させて避妊・去勢手術を受けさせてから巣立たせています。離乳前の子猫はすぐ下痢などをして体調を壊しやすいのと、避妊をしていない元保護猫が脱走したという話を度々耳にするので。そのため、譲渡前の育猫を希望者には一緒にしていただくんです」
新たな飼い主さんにも慣れた状態で子猫が新しい環境に入れれば、子猫の不安感を軽減させてあげられます。
譲渡前の育猫活動のなかで、病気で先代の猫を失ってペットロスに陥っていた里親さんのことを、西村さんは忘れられないと語ります。
「子猫にミルクをあげながら、涙を流されていたんです。きっと、目の前の小さな命を前にしてこれまでのいろいろな思いがあふれ出て、感極まったのでしょう。いまでもその猫をとてもかわいがっています」
他にも、猫を届けたあとに連絡を取っている人が多いと言います。
「印象的だったのは、人にまったく慣れなかった子猫を『一生この子を触れなくてもいいんです。亡くなった愛猫にそっくりで、まるで生まれ変わりみたいだから』と引き取ってくれた方のことですね。譲渡から8カ月目にようやく猫を抱っこできたと連絡があって。それはもう、感動しました」と、西村さんは語ります。
ミルクボランティアが増えることを願って
西村さんが子猫のミルクボランティアを始めてから1年半で世話をした子猫は、25匹。そのうちの1匹で、脚をケガした猫は西村家の2匹目として迎えられたそうです。
「そのモフくんもナギちゃんも、子猫がいるときのほうが元気そうですね(笑)。張り合いが出るんじゃないかな」と、西村さんは笑います。
1回につき同胎でだいたい2~4匹預かる子猫は、感染症にかかっている恐れもあるため、最初の2週間は愛猫たちとは完全に隔離して別部屋で過ごさせるそうです。
「少し成長して元気な盛りの子猫にいざ対面すると、ナギちゃんやモフくんはすごく仲良くするときもあれば、それほど興味を示さないこともあります。何が違うのか……不思議ですね。先住猫と子猫のかかわりを観察するのも楽しいです」とのこと。
西村さんは現在、レンタルスペースで子猫の育て方のミニ講習会を開催することもあります。
「つい2年前まで保護猫の存在さえ知らなかった私みたいな人でも、ミルクボランティアはできるんですって、伝えたくて。全国的にまだ、子猫のミルクボランティアが不足しています。ミルクボランティアが増えるとともに、殺処分される子猫が減ればうれしいです」と語る西村さんにとって、いまやミルクボランティアは“大切な趣味”なのだそうです。
連載情報
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著者:臼井京音
ドッグライターとして20年以上、日本や世界の犬事情を取材。小学生時代からの愛読誌『愛犬の友』をはじめ、新聞、週刊誌、書籍、ペット専門誌、Web媒体等で執筆活動を行う。30歳を過ぎてオーストラリアで犬の行動カウンセリングを学び、2007~2017年まで東京都中央区で「犬の幼稚園Urban Paws」も運営。主な著書は『室内犬の気持ちがわかる本』、タイの小島の犬のモノクロ写真集『うみいぬ』。かつてはヨークシャー・テリア、現在はノーリッチ・テリア2頭と暮らす。東京都中央区の動物との共生推進員。