家族はどこ? 保護猫のためにママ獣医師が社会化トレーニング
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【ペットと一緒に vol.125】
感染症に打ち勝った、奇跡の保護猫のみきちゃんは、一時預かりをしている獣医師の箱崎加奈子さんのもとで生後6カ月になりました。今回は、キャットトレーニングにも取り組みながら新しい家族を探しているという加奈子さんと、美猫に成長したみきちゃんの近況を紹介します。
お見合い話がまとまらない
猫パルボウイルスに感染しても発症せず、ミルクボランティアで獣医師でもある加奈子さんのもとで奇跡のサバイバルを遂げた三毛猫みきちゃん。SNSにアップすると、お見合いの話がいくつか舞い込んだと言います。
「かなりの美猫ですからね(笑)。それから、甘えっ子な性格もとてもかわいいいですし。でも、なかなか結び付くご縁がなくて……」と、加奈子さんは肩を落とします。
パルボウイルスは発症すれば子猫や老猫ではほとんどが死に至る感染症です。みきちゃんの兄弟姉妹の4匹も発症して数日後に亡くなってしまいました。
お見合いを申し込まれた家庭には、先住猫がいたそうです。飼い主さんから「うちの子はワクチン接種済みなのでパルボになることはありませんよね?」と加奈子さんは聞かれたそうですが、「絶対大丈夫とは言えません」と伝えたそうです。
「みきちゃんから、猫パルボウイルスがまだ排出されているかもしれません。原則的には混合ワクチンを打っている猫にはうつりませんが、絶対そうだとは言い切れない。だから、先住猫のいるご家庭ではなくみきちゃんだけを飼ってもらいたいんです」と、加奈子さんは言います。
猫パルボウイルスは犬にはうつらないので、先住犬のいるご家庭では心配は無用とのこと。
「うちにも、みきちゃんのおもちゃにされているシー・ズーのミーがいるので、むしろ先住犬がいるご家庭がいいかもしれませんね」(加奈子さん)
離乳間近の時期に加奈子さんのもとへやって来たみきちゃんでしたが、生後半年を過ぎてすっかり行動範囲も広がり、いまでは10歳のミーちゃんがおっとりとした動きでフードボウルに向かって行くと、背後からみきちゃんが高速で追い抜いてミーちゃんのごはんを横取りしてしまうのだとか。
「あ~あ、またミーちゃん取られてるー! って、娘と2人で大笑いしています。みきちゃん、かなりの食いしん坊ですよ(笑)」とのこと。
猫の“社会化”レッスンに取り組んだ日々
ドッグトレーニングを学んだ経験もある加奈子さんは、犬の幼少期の社会化の大切さも実感しています。そこで、子猫のみきちゃんにも、同居犬への社会化はもちろん、他にも様々な経験をさせたそうです。
「受け入れられるものをたくさん増やしておけば、みきちゃんが生きやすくなりますからね」
社会化レッスンで行ったひとつは、クレートトレーニング。
「犬とは違って、狭いケージに入れられるのが苦手な猫も少なくありません。そこで、ごはんをクレート内で与えるようにしてみたんです。これも、無理強いは禁物。『みき、ごはんだよ~。ハウス!』って言いながら自発的にクレートに入るように誘導しました。食いしん坊なのが功を奏して」
その甲斐あり、いまではフードボウルを見せると、みきちゃんは自らクレートに入って行くのだそうです。クレートの扉を閉めても問題ありません。
動物病院に連れて行く際や災害時には、猫でもクレートに入る必要が生じるでしょう。みきちゃんのようにクレートに不安な気持ちを抱かずに入っていられるようになれば、猫自身のストレスも軽減できます。
もうひとつの社会化レッスンは、娘さんと入るお風呂。猫は水が苦手だという習性を持っていますが、子猫のうちに慣らせばよいかもしれないと思いつき、チャレンジしたそうです。
「ただし、最初に怖い思いをさせては二度と水を受け付けなくなるので逆効果です。まず、娘がみきちゃんをやさしく抱っこしたままお湯なしの湯舟に入ってから、湯はりスイッチをオン。そして、だんだんとお湯に浸かって行くようにしてみました」
すると大成功だったそうで、いまではみきちゃんとのお風呂を娘さんも楽しみにしているとか。
ボランティアの力があって殺処分が減少
環境省の発表によると、平成29年度の自治体での猫の引き取り合計数は6万2,137匹、殺処分数は3万4,865匹。殺処分率は56%となっています。平成20年には引き取り数がおよそ20万匹で、殺処分率が96%であったのと比較すると、保護猫を取り巻く状況はかなり改善されたと言えます。
「けれども、自治体の引き取り猫のなかから愛護団体に譲渡される猫はかなりの数です。私たちのような子猫のミルクボランティアや保護猫の一時預かりボランティアはまだまだ足りません。みきちゃんも、自治体から愛護団体経由で我が家にやって来て、こうして数カ月の一時預かり生活を続けていますしね。
野良猫や地域猫の避妊・去勢手術が徹底されて(TNR活動)、屋外で誕生する子猫が減ると同時に自治体に引き取られる猫自体が減って行くのが理想です」と、加奈子さんは語ります。
箱崎家で新年を迎えることになりそうだという、みきちゃん。新しい年には、運命の赤い糸で結ばれた家族が現れることを願ってやみません。
連載情報
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著者:臼井京音
ドッグライターとして20年以上、日本や世界の犬事情を取材。小学生時代からの愛読誌『愛犬の友』をはじめ、新聞、週刊誌、書籍、ペット専門誌、Web媒体等で執筆活動を行う。30歳を過ぎてオーストラリアで犬の行動カウンセリングを学び、2007~2017年まで東京都中央区で「犬の幼稚園Urban Paws」も運営。主な著書は『室内犬の気持ちがわかる本』、タイの小島の犬のモノクロ写真集『うみいぬ』。かつてはヨークシャー・テリア、現在はノーリッチ・テリア2頭と暮らす。東京都中央区の動物との共生推進員。