14歳目前の愛犬の変化に戸惑いつつ、心通じ合える喜びを噛みしめて
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【ペットと一緒に vol.128】
筆者の愛犬リンリンは、もうすぐ14歳になります。この1年でめっきり老けてしまい、さびしさを感じることもあります。先日は思わぬハプニングもありました。でも、老犬との生活だからこそ、感じる喜びもあります。
気づけば老いていた愛犬
筆者の愛犬、ノーリッチ・テリアのリンリンは桜が咲く頃に14歳になります。ドッグトレーニングや犬の問題行動のカウンセリング法を学ぶために滞在していた、オーストラリアで迎えたリンリン。日本へ渡り、5回も引っ越しをして現在にいたります。
リンリンは4歳のときにミィミィを出産し、それからは娘犬と一緒に暮らし、さらには筆者に娘が生まれて、筆者とリンリンとのふたり暮らしから始めた生活はどんどんにぎやかになっていきました。
これまで数回におよぶ誤飲での手術や、乳腺腫瘍や靱帯部分断裂の手術を経験し、動物病院のお世話になることも多かったリンリンですが、この1年は落ち着いて過ごしています。
今年の始めに筆者家族はインフルエンザになって自宅でゆっくりしていると、リンリンがだいぶ老けてしまったことにあらためて気がつきました。顔まわりの被毛の色がだいぶ薄くなり、黒くて太い立派なヒゲの半分がいつの間にか白くなっています。
この1年間に誤飲で動物病院に行かなかったのは、実はリンリンがあまりおもちゃ遊びもしなくなり、寝ている時間がぐっと増えておとなしくなったからだということにも気づかされました。
そういえば、最近は家族が帰宅してもミィミィしか玄関に迎えに来ません。リンリンは耳が遠くなってカギやドアが開いた音に気づかないのでしょう。次々にリンリンの老化現象を発見すると、なんだか急に筆者はさびしい気持ちになって、まじまじとリンリンの顔を覗き込みました。
「ん? なに?」とでも言っているような表情のリンリンを見て「元気で長生きしてよぉ~」と言いながら頭をなでようとした瞬間、筆者の手に予想外の感触が……。なんと、リンリンが筆者の手をガブっと咬んだのです。本気咬みではないのですが、筆者がかなり驚いたことは言うまでもありません。
なぜ? 突然咬まれてショックを受ける
実はリンリンが咬んだことも、犬の老化現象のひとつなのです。
人間も犬も、老化が進むと認知能力が衰えて来ます。もともと70cm以内のものには焦点が合わせられないという性質を、犬の目は備えているとか。それと認知能力が低下していることの両方で、頭上に寄って来たものを筆者の手だと認識できずにびっくりしてしまったのでしょう。とっさに自分の身を守ろうと、咬んだのだと考えられます。
もうひとつ、リンリンは1年ほど前に鼻から膿を出して病院で治療をしたのも、咬んだ原因かもしれません。動物病院では筆者がリンリンの顔を手でホールドして、獣医師が鼻のなかにチューブを入れて膿を吸い出しました。それが痛かったようで、リンリンはそれ以来、筆者が目ヤニを取ろうとすると少し警戒するようになっていたのです。
「痛いっ」と、フリーズしている筆者の顔を見て、リンリン自身も「あ。ママの手だったのか……」と気づくと同時に「咬んじゃった」と、落ち込んでいる様子でした。
そこで「ごめんね、リンリンのことびっくりさせて。目も耳も鼻も衰えちゃったもんね。声をかけながらゆっくり手を出せばよかったね」と言いながら筆者はおやつをあげて、背中をそっと撫でてあげました。リンリンはそれでも申し訳なさそうな表情を浮かべながら、筆者の顔を下から覗き込んでいました。
変化を楽しみ、変化に感動
犬の年齢的にはハイシニアの域に入っていたリンリンとは、散歩スタイルも変わりました。活発なテリア種なので、以前は途中で走ったりしてかなりアクティブに散歩を楽しんでいたのですが、最近はゆっくり歩くことが増えました。
リンリンは、ここ1年で散歩中にとてもよく筆者の目を見るようになったと思います。まるで「ねぇ、お日さまポカポカ暖かいね」とか、「ゆっくりと歩調を合わせてくれてありがとう」と言っているかのよう。
最近、散歩中に以前は平気で上れていた階段で脚を踏み外すようにもなってきました。そのため、散歩中に抱っこをするシーンも増えています。「ねぇリンリン見て! ムクドリの群れがいるよ」などと話しかけることもあります。以前はガシガシと速足で進んでいて、話しかけることなどあまりありませんでしたが……。
それもあり、シニアになったリンリンのことが愛おしくて仕方がありません。まるで赤ちゃんを抱っこしているかのような気分になります。
シニアになったリンリンとは、日常のあらゆるシーンで、不思議と以前よりも心が通じ合っているような気がします。まるで長年連れ添った老夫婦の“あうんの呼吸”のような感じでしょうか。
子犬で迎えたリンリンが、いつの間にかハイシニアドッグになっていました。さびしさを覚えながらも、13年前は想像もしていなかったシニアドッグとの生活は意外にも良いものだと感じています。
この連載を執筆している筆者の足元に置いた座布団で、猫のように丸くなって「スピー、スピー」と寝息を立てているリンリンと、あと何年一緒にいられるかと考えたりしますが、毎日を大切にしていきたいと思います。
連載情報
ペットと一緒に
ペットにまつわる様々な雑学やエピソードを紹介していきます!
著者:臼井京音
ドッグライターとして20年以上、日本や世界の犬事情を取材。小学生時代からの愛読誌『愛犬の友』をはじめ、新聞、週刊誌、書籍、ペット専門誌、Web媒体等で執筆活動を行う。30歳を過ぎてオーストラリアで犬の行動カウンセリングを学び、2007~2017年まで東京都中央区で「犬の幼稚園Urban Paws」も運営。主な著書は『室内犬の気持ちがわかる本』、タイの小島の犬のモノクロ写真集『うみいぬ』。かつてはヨークシャー・テリア、現在はノーリッチ・テリア2頭と暮らす。東京都中央区の動物との共生推進員。