香取慎吾が挑む、バイオレンスと絶望

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【しゃベルシネマ by 八雲ふみね 第648回】

さぁ、開演のベルが鳴りました。支配人の八雲ふみねです。シネマアナリストの八雲ふみねが、観ると誰かにしゃベりたくなるような映画たちをご紹介する「しゃベルシネマ」。

 

今回は、6月28日公開の『凪待ち』を掘り起こします。

香取慎吾が挑む、バイオレンスと絶望

「喪失」と「再生」を描く、重厚なヒューマンドラマ

毎日を無為に過ごしている木野本郁男は、ギャンブルから足を洗い、恋人の亜弓と彼女の娘・美波とともに、石巻に移り住むことに。そこは亜弓の故郷で、父・勝美は末期がんに冒されながらも漁師を続けていた。しかし、少しずつ平穏を取り戻しつつある暮らしのなかで、郁男は再びギャンブルに手を出し、小さな綻びはやがて取り返しのつかない事態へと発展。

ある日、夜になっても帰って来ない美波を心配するあまり、亜弓が郁男を激しく罵ったことから、郁男はその場で、亜弓を車から降ろしてしまう。そして、その夜遅く、亜弓は何者かに殺害されてしまった。次々と襲い掛かる絶望的な状況から、郁男は次第に自暴自棄になって行く…。

香取慎吾が挑む、バイオレンスと絶望
『麻雀放浪記2020』『孤狼の血』などで知られる白石和彌監督の最新作は、完全オリジナル脚本で挑んだヒューマンサスペンス『凪待ち』。トップアイドルであり、アーティストとしての才能も発揮する香取慎吾を主演に迎え、人生につまづき、落ちぶれた男たちの姿を描いた衝撃作が誕生しました。

香取慎吾が挑む、バイオレンスと絶望
本作において圧巻の佇まいと破壊力を放っているのが、主演の香取慎吾。人生をやり直すために石巻へやって来たはずなのに、恋人を殺された挙句、事件の犯人ではないかと同僚に疑われ、自分自身を見失って行く。絶望の淵をさまよう男の姿を、鬼気迫る演技で見事に体現しています。

共演には恒松祐里、西田尚美、吉澤健、音尾琢真、リリー・フランキーと、現在の日本映画界において目が離せない俳優陣が集結。鮮烈なバイオレンス表現と人間描写に定評のある白石和彌監督のきめ細やかな演出と、俳優たちの確かな演技が呼応し、観る者を圧倒する作品となりました。

香取慎吾が挑む、バイオレンスと絶望
映画の舞台となっている宮城県石巻市は、かつて東日本大震災で発生した津波によって壊滅的な被害を受けた地域のひとつ。劇中には、重機が稼働している工事現場や建物の土台だけが残った更地、新たに作られた防波堤など、震災が残した傷跡と、復興に向かう石巻市の風景が映し出されています。

本作のテーマは、「喪失」と「再生」。このふたつの言葉は、主人公の郁男をはじめとする登場人物たちの生き様を表していることはもちろんなのですが、作品の舞台となっている宮城県石巻市という土地とも重ね合わせずにはいられません。

人生における“何か”を“喪失”した主人公たちが、どのように“再生”して行くのか。その道のりは決して平坦なものではありませんが、観終わった後、私たちに力強いエネルギーを与えてくれることでしょう。

香取慎吾が挑む、バイオレンスと絶望
『凪待ち』

2019年6月28日(金)からTOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショー
監督:白石和彌
脚本:加藤正人
出演:香取慎吾、恒松祐里、西田尚美、吉澤健、音尾琢真、リリー・フランキー
(C)2018「凪待ち」FILM PARTNERS
公式サイト http://nagimachi.com/

連載情報

Tokyo cinema cloud X

シネマアナリストの八雲ふみねが、いま、観るべき映画を発信。

著者:八雲ふみね
映画コメンテーター・DJ・エッセイストとして、TV・ラジオ・雑誌など各種メディアで活躍中。機転の利いた分かりやすいトークで、アーティスト、俳優、タレントまでジャンルを問わず相手の魅力を最大限に引き出す話術が好評で、絶大な信頼を得ている。初日舞台挨拶・完成披露試写会・来日プレミア・トークショーなどの映画関連イベントの他にも、企業系イベントにて司会を務めることも多数。トークと執筆の両方をこなせる映画コメンテーター・パーソナリティ。
八雲ふみね 公式サイト http://yakumox.com/

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