黒磯駅の名物駅弁だった「九尾釜めし」、あの有名な釜めし駅弁との意外な共通点とは?

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【ライター望月の駅弁膝栗毛】
「駅弁」食べ歩き20年・5000個の放送作家・ライター望月が、自分の足で現地へ足を運びながら名作・新作合わせて、「いま味わうべき駅弁」をご紹介します。

復刻版・九尾釜めし

画像を見る(全9枚) 復刻版・九尾釜めし

かつては2社が駅弁を製造・販売していた東北本線の黒磯駅(栃木県)。冷菓で有名なフタバ食品株式会社が製造していたのが、「九尾釜めし」です。平成17(2005)年に一旦、製造を終了しましたが、多くのファンの人たちの声を受けて、東北道のサービスエリアの弁当として復活を遂げました。その背景には何があったのか? また、全国的にも有名な釜めし駅弁との共通点も浮かび上がってきました。

E131系電車・普通列車、東北本線・氏家~蒲須坂間

E131系電車・普通列車、東北本線・氏家~蒲須坂間

鉄道開業150年・あの名物駅弁はいま(第1弾・黒磯駅「フタバ食品」後編)

今年(2022年)、夏の甲子園で注目された、みちのくの玄関口・白河の関。ただ、鉄道で長年、その役割を担ってきたのは東北本線・黒磯駅だったと感じます。とくに普通列車で東北本線を北上する際は、上野から黒磯まで揺られた車両を後に跨線橋を渡っていくと、仙台方面へ向かう車両が待っていて、思わず「ここからみちのくかぁ」と感慨に耽ったもの。黒磯駅の改札前で、台車を出して販売していた駅弁を買い求めた方も多いはずです。

フタバ食品・月江さん

フタバ食品・月江さん

昭和32(1957)年~平成17(2005)年まで、48年間、黒磯駅の駅弁を手掛けたのが、栃木県宇都宮市に本社を置く「フタバ食品株式会社」です。鉄道開業150年に合わせた特別企画「あの名物駅弁はいま」の第1回は、フタバ食品の月江誠さんに、駅弁参入のエピソードを伺っています。今回は名物駅弁「九尾釜めし」の誕生秘話から駅弁の撤退、復刻版の誕生までお話しいただきました。

黒磯駅で行われていた駅弁販売(2002年撮影)

黒磯駅で行われていた駅弁販売(2002年撮影)

●「九尾ずし」の姉妹品として誕生した「九尾釜めし」!

―昔、東北本線で旅をした方のなかには、『黒磯で釜めしを食べたなぁ』と話す方も多いと感じますが、「九尾釜めし」はどうやってできたんですか?

月江:名物駅弁が1品だけでは……ということで、参入した翌年、昭和33(1958)年に「九尾釜めし」を発売して人気を博しました。100個駅弁を作ると30個が「九尾すし」で、あと70個は「九尾釜めし」といった人気ぶりでした。釜は益子焼を使っていて、横川駅の「峠の釜めし」と同じ窯元の釜でした。駅弁として高崎鉄道管理局に申請した時期もほぼ同じころなんです。昔は釜に刻印を施していたのですが、復刻版では無印となっています。

―黒磯の駅弁は、皇室の皆様にも愛されたそうですね。

月江:昭和天皇が那須御用邸へ避暑にいらっしゃっていました。お召し列車で黒磯駅へお越しになって、ひと夏に一度は、必ずと言うほど、弊社の「九尾すし」をお召し上がりになったと言います。大変名誉なことでしたので、掛け紙にも“宮内庁御用達”と入れさせていただきました。いま、皇室の皆さまは、東北新幹線の那須塩原駅をご利用になることが増えましたが、黒磯駅には、当時の貴賓室がしっかりと残されていますね。

那須塩原駅

那須塩原駅

●東北新幹線開業で那須塩原駅へ進出も、20年あまりで撤退へ

―40年前の東北新幹線開業では、販売拠点を那須塩原駅にも設けられたのですか?

月江:髙木弁当さんと共同で、那須塩原駅に駅弁売店を設けました。売店には2社の弁当を一緒に置く形で、販売は弊社と髙木弁当さんが1ヵ月ごとに交代する形で担当していました。しかし、髙木弁当さんが平成13(2001)年に駅弁から撤退されたため、那須塩原駅における駅弁販売は、キオスク(NEWDAYS)さんに委託する形となりました。

―残念ながら、黒磯駅の駅弁を辞められた経緯を教えてください。

月江:シンプルに「売れなかった」ことに尽きます。東北本線の特急・急行から新幹線に移行して、黒磯駅に長時間停車する優等列車がほぼなくなりました。一方、那須塩原駅でお求めいただくには、一旦列車を降りなくてはなりませんから、駅弁がほとんど売れなくなってしまったんです。黒磯は宇都宮ほど人口もなく、需要も季節の間で波が大きくて、経営の“選択と集中”もあり、平成17(2005)年までに駅弁を撤退することとなりました。

復刻版・九尾釜めし

復刻版・九尾釜めし

●駅弁の味を愛するお客様の声に推されて「復刻」へ!

―その後、「九尾釜めし」「九尾すし」は復刻されましたね。

月江:駅弁から撤退すると、今度は、お客様から復活を求める声が多く寄せられました。地元のイベントで限定販売を行うと「常時販売して欲しい」と仰っていただける方が増えたんです。そこでいまから十数年前に、弊社が経営する東北自動車道・上河内サービスエリア(下り線)で復活させることになりました。幸い、駅弁撤退から数年でまだ駅弁を知るスタッフが多かったのも追い風でした。やめて改めて気付かされた「駅弁のチカラ」ですね。

―いま、「九尾釜めし(復刻版)」「九尾すし」を購入できる場所を教えてください。

月江:東北自動車道・上河内サービスエリア(下り線)と、宇都宮駅の「とちびより」です。上河内SAは毎日、「とちびより」では毎週月・火・金・土の販売となります。じつは現在の製造工場は、宇都宮駅近くの東北新幹線高架下にありますので、そこから持っていきます。また、11月3日(木)にJRさんの宇都宮運輸区で行われる「宇都宮トレインフェスタ」でも宇都宮駅弁・松廼家さんと一緒に販売を行いますので、ぜひ楽しみにしていただけたらと思います。

復刻版・九尾釜めし

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【おしながき】
・茶飯 錦糸玉子 紅しょうが
・鶏肉煮
・筍煮
・ごぼう煮
・椎茸煮
・うずらの玉子
・栗甘露煮
・香の物(なす漬け、らっきょう醤油漬け、大根味噌漬け)

復刻版・九尾釜めし

復刻版・九尾釜めし

ずっしり重みを感じる益子焼の釜に、ぎっしり茶飯、たっぷり具材が載った「九尾釜めし」。販売休止期間が短かったこともあり、伝統の味はしっかりと継承されています。ちなみにいまから20年前の2002年に「駅弁膝栗毛」で九尾釜めしをいただいたときは、釜めしの蓋にも装飾が施された丁寧な作りに感動を覚えた記憶があります。黒磯駅弁に由来する栃木の味として、これからも次の世代へ受け継いでいって欲しいお弁当です。

E531系電車・普通列車、東北本線・高久駅

E531系電車・普通列車、東北本線・高久駅

電気の直流・交流の切り替え駅として機関車の付け替えに伴い、列車の長時間停車が発生し、駅弁文化が大きく花開いた東北本線・黒磯駅。駅弁の販売終了から20年近く経ち、黒磯駅に乗り入れる車両も世代交代が進みましたが、駅弁が生んだ伝統の味は、いまも変わらずフタバ食品の手によって守られ、宇都宮の駅ビル内で買える日もあります。改めて昔の駅弁に思いを馳せて、東北本線で白河の関を越える旅に出たくなりました。

連載情報

ライター望月の駅弁膝栗毛

「駅弁」食べ歩き15年の放送作家が「1日1駅弁」ひたすら紹介!

著者:望月崇史
昭和50(1975)年、静岡県生まれ。早稲田大学在学中から、放送作家に。ラジオ番組をきっかけに始めた全国の駅弁食べ歩きは15年以上、およそ5000個!放送の合間に、ひたすら鉄道に乗り、駅弁を食して温泉に入る生活を送る。ニッポン放送「ライター望月の駅弁膝栗毛」における1日1駅弁のウェブサイト連載をはじめ、「鉄道のある旅」をテーマとした記事の連載を行っている。日本旅のペンクラブ理事。
駅弁ブログ・ライター望月の駅弁いい気分 https://ameblo.jp/ekiben-e-kibun/

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