「駅弁」食べ歩き20年・5000個の放送作家・ライター望月が、自分の足で現地へ足を運びながら名作・新作合わせて、「いま味わうべき駅弁」をご紹介します。
私鉄の日本鉄道をルーツとする路線が多い東日本エリアの各線では、1つの駅で複数の駅弁屋さんが、切磋琢磨してきました。駅弁発祥の地とされる宇都宮では、JR初期まで3軒の駅弁屋さんがありましたが、いまはわずか1軒。孤高の駅弁屋さんは、何を思い、どんな活路を見出しているのか、お話を伺いました。
「駅弁屋さんの厨房ですよ!」第37弾・松廼家編(第4回/全6回)
平成29(2017)年8月から、日光・鬼怒川周辺で運行されている東武鉄道の「SL大樹」。現在は蒸気機関車が3両体制となり、毎日の下今市~鬼怒川温泉間の運行に加えて、「SL大樹ふたら」として、下今市~東武日光間で運行される日も増えてきました。日光の杉並木をバックに、黒い蒸気機関車からモクモクと上がる煙が旅情を誘います。いまでは、JR線以上に“国鉄っぽい”旅と風景を楽しめる、東武日光線・鬼怒川線です。
昔は汽車の窓から体を乗り出して、売り子さんを呼び止めて買った駅弁。しかし、特急や新幹線によって、列車の窓が開かなくなり、駅弁は売店や車内販売が主流となりました。その車内販売も風前の灯となり、駅弁屋さんはその数を減らし続けています。そのなかで、頑張る駅弁屋さんは、どうやってモチベーションを保っているのか? 宇都宮駅・株式会社松廼家、齋藤久美子代表取締役のインタビューの3回目です。
●2010年代からの“鉄道人気”に救われた駅弁!
―宇都宮では平成の間に駅弁屋さんが「松廼家」1社となってしまいましたが、どのように感じていますか?
齋藤:2000年代までに白木屋さん、富貴堂さんが駅弁を辞められたことで、周りからは、「松廼家は、売上が上がったんじゃないの?」と訊かれましたが、全くそんなことはなくて、そのままでした。駅弁そのものの需要が減り続けていましたので、正直、早く辞められた会社さんの方が、決断が早いと羨ましく感じたことすらあります。駅に駅弁以外の業者さんが入ってきた時期とも重なって、「駅弁って業種もなくなっちゃうのかな」とも思いました。
―そこから「駅弁を続けていこう」というモチベーションにつながった背景は?
齋藤:「まだ、こんな苦しいことを続けていくのか」と思っていた矢先、(2010年代に入って)鉄道や駅弁が改めて注目されるようになって、“駅弁ブーム”のようになってくれたんです。長くやっていればいいこともあるんだと実感させられました。いざというときに、協力し合えるライバルは、本当にいた方がいいと思います。その意味では、多少距離が離れていても、中央会加盟の駅弁屋さん同士で協力、切磋琢磨する関係ができていると思います。
(注)中央会……日本鉄道構内営業中央会(「駅弁マーク」を付けることができる駅弁屋さんの団体)
●コラボに活路を見出す駅弁!
―中央会加盟の駅弁屋さん各社で行われている「多角化」ですが、松廼家では、どんな取り組みをされていますか?
齋藤:駅弁を旅行会社さんのバスツアーに納めることが増えました。コロナ禍でツアーが中断していますが、コロナ前は東北自動車道の佐野サービスエリアなどに駅弁を持って行って、バス旅行のお客様にお届けしていました。ツアーとしても、旅行の単価を抑えつつ、移動中に食事ができることもあり、「駅弁」が重宝されたんです。旅行会社さんによると、バスのお客様も普通のお弁当ではなくて、「駅弁」を楽しみにされていると言うんです。
―駅弁は、地元企業との“コラボ駅弁”が増えていますよね?
齋藤:岩下食品さんと組んだ「岩下の新生姜とりめし」(950円)は、平成30(2018)年に行われた栃木県のデスティネーションキャンペーンをきっかけに生まれた駅弁です。岩下食品さんも社長さんが代替わりして、新しい取り組みを始められたタイミングでしたので、弊社からお声がけしたところ、話がトントン拍子に進みまして、新生姜のレシピブックと共に、コラボレーションすることができました。
●東武日光駅にも「松廼家」の駅弁が登場!
―最近は東武日光駅でも、松廼家の駅弁が買えるようになりました。
齋藤:東武日光駅の売店関係者の方が、弊社の駅弁を召し上がっていただく機会がありました。このとき味を評価して下さって、東武日光駅に置いてもらえることになったんです。それまでJR日光駅のイベントで販売する機会はあったのですが、東武日光での販売は、全く考えたことがありませんでした。いまでは大事な販売拠点の1つです。東武日光駅は観光駅ですので、お客様がお求めになる駅弁が、宇都宮駅と傾向が変わるのも、とても勉強になります。
日光東照宮造営の折、松平正綱が奉納した「日光杉並木」。いまでは“世界で最も長い並木道”とも云われます。その昔、日光への参詣者が数多く歩いたであろう並木道。いまも手厚く保護、管理されています。そんな杉並木をイメージして作られた松廼家の駅弁が、「日光杉並木」(1000円)です。東武日光駅で販売される松廼家の駅弁としては、最も人気のある二段重ねの駅弁です。
【おしながき】
(上段)
・いっこく野州どりの照り焼き
・えびの素揚げ
・焼き目付きゆば
・筍煮
・かまぼこ
・葉唐辛子煮
・ぜんまい煮
・干瓢煮
(下段)
・五目御飯
・鶏肉の照り焼き
・椎茸煮
・白ごま
二段重ねのうち、下段(左)は、細切りの鶏肉と椎茸の味わいが、よく効いた五目御飯。上段(右)に日光ゆかりのおかずがたっぷり入っています。とくに焼き目が付けられたゆばは、杉の年輪をイメージしたものなんだとか。松廼家自慢のいっこく野州どりの照り焼きや、栃木名産のかんぴょう煮など、地元らしさもしっかり感じられます。紅葉シーズンの日光。山歩きの帰り、列車で静かに一杯やりながら、旅の思い出に浸るのも良さそうですね。
東武特急も世代交代が進んでいます。現在の最新車両・リバティは、3両編成が基本。下今市で東武日光発着の「リバティけごん」と、会津田島発着の「リバティ会津」などと、分割・併合を行う列車も数多くあります。日光・鬼怒川は、これから丁度、紅葉の見ごろ。帰りの列車が遅くなる場合、東武日光駅の駅弁が売り切れていることもよくありますので、山へ出発する前に、駅弁売り場で予約しておくことをお薦めします。
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連載情報
ライター望月の駅弁膝栗毛
「駅弁」食べ歩き15年の放送作家が「1日1駅弁」ひたすら紹介!
著者:望月崇史
昭和50(1975)年、静岡県生まれ。早稲田大学在学中から、放送作家に。ラジオ番組をきっかけに始めた全国の駅弁食べ歩きは15年以上、およそ5000個!放送の合間に、ひたすら鉄道に乗り、駅弁を食して温泉に入る生活を送る。ニッポン放送「ライター望月の駅弁膝栗毛」における1日1駅弁のウェブサイト連載をはじめ、「鉄道のある旅」をテーマとした記事の連載を行っている。日本旅のペンクラブ理事。
駅弁ブログ・ライター望月の駅弁いい気分 https://ameblo.jp/ekiben-e-kibun/