宇都宮の老舗駅弁屋さんが語る、駅弁を未来へ繋ぐためのカギとは?
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「駅弁」食べ歩き20年・5000個の放送作家・ライター望月が、自分の足で現地へ足を運びながら名作・新作合わせて、「いま味わうべき駅弁」をご紹介します。
鉄道150年の秋。路線の延伸、拡大に合わせ、移動中の食事が求められるようになり、「駅弁」は生まれました。そんな“駅弁発祥の地”の1つと考えられる宇都宮駅の駅弁は、いったいどんなこだわりを持って作られているのか? そして、駅弁を次の世代につなぐため、どんな取り組みをしているのか? この秋の新作駅弁情報も含めて、たっぷりとお届けしてまいります。
「駅弁屋さんの厨房ですよ!」第37弾・松廼家編(第6回/全6回)
那須連山をあとに、黒磯からの普通列車が朝日を浴びて、県都・宇都宮を目指します。東北本線(宇都宮線)の宇都宮~黒磯間には、今年(2022年)の春からワンマン運転に対応した新型車両がデビューしました。普段は短い3両、朝夕の時間帯は、3両を2つつなげた6両編成で通勤・通学輸送に当たります。車体側面に伸びる黄色と茶色の帯は、宇都宮市で復元された火焔太鼓の山車をイメージしたものだそうです。
そんな宇都宮で明治26(1893)年に創業、来年(2023年)で130年を迎える、株式会社松廼家。宇都宮駅で雑貨やアイスクリームなどの販売を通じて構内営業に携わったのち、駅弁の製造・販売も手掛けるようになりました。現在、宇都宮唯一の駅弁屋さんとなった松廼家は、駅弁づくりに一体どのようなこだわりを持っているのか? 松廼家・齋藤久美子代表取締役に話を伺ってきた「駅弁屋さんの厨房ですよ」第37弾、いよいよ完結編です。
●素材の良さにこだわる、松廼家の駅弁
―駅弁の基本、「ご飯」には、どのようなこだわりがありますか?
齋藤:北関東のコシヒカリを使っています。冷めても美味しく、味もコストも“オイシイ”です。加熱式容器の駅弁もあるので、あとから火を入れても美味しくいただくことができます。他社さんの仕入れ額を聞いてびっくりしたことがありますが、弊社はかなり高額のお金を払ってお米を仕入れています。基本的には丸いガス釜で4升炊きのところ、3升で炊いています。普通に炊けば、ふっくら美味しく炊き上がるお米です。
―米といえば、松廼家は「玄米」にもこだわっていますよね?
齋藤:手間を惜しまなかった母がこだわりだしたのが最初です。「子どもたちに玄米を食べさせたい」というところから始まったと記憶しています。幼稚園児の皆さんに、園長先生と相談しながら健康を意識して作ったお弁当が好評で、駅弁に発展して、もう40年くらいになります。幼稚園に通っていたお子さんが、大きくなって旅行会社に勤めるようになって、弊社の玄米駅弁をツアーで採用して下さいました。これは本当に嬉しかったです。
●新作はチタケの出汁が効いたなすの煮浸しと、ポップなかんぴょうが美味!
―40年前から健康志向というのは、時代を先取りしていますよね。
齋藤:いまの玄米ブームの1回り、2回り前の“波”かも知れません。当時は「駅弁に玄米なんて……」という非難の声もありました。松廼家の玄米駅弁はもち米の玄米を使うことで、柔らかい食感を実現させています。あと、大豆も入れています。以来、健康ブームのたび、皆さまにご注目いただいています。玄米の調理に手間がかかるので大きな業者さんでは取り組むのが難しいことから、松廼家の特長の1つになっていますね。
―鉄道150年の記念駅弁にも、竹皮に包まれた玄米を使ったおにぎりが入っていますが、調理法などでこだわっているところはありますか?
齋藤:地産地消で食材や調理法を考えることでしょうか。新作の「駅弁発祥の地宇都宮 御弁当」(1500円)には、なすの煮浸しを入れています。こだわったのは「出汁」です。栃木ではチタケ(チチタケ)というきのこが愛されていて、店ではチタケそばやチタケうどんとして食されています。このチタケで取る「出汁」が美味しいんです。出汁となすとの相性もいいので、チタケの出汁で含めたなすに挑戦しまして、自信のある出来に仕上がりました。
【おしながき】
・うるち玄米ともち玄米と大豆の味噌焼おにぎり
・刻み岩下の新生姜入りプレミアムヤシオマスの高菜おにぎり
・たくあん2切れ
・プレミアムヤシオマスの柚庵焼き
・玉子焼き
・とちぎ霧降高原牛とごぼうのしぐれ煮
・焼目付き巻きゆば
・茄子の乳茸出汁含め煮
・かんぴょうの梅マヨネーズ和え
・蓮根の酢漬け
―ひと足早くいただきましたが、なすの煮浸し、とても美味しかったです!
齋藤:ありがとうございます。あと、栃木の食材といえば「かんぴょう」です。この新作では、甘くクタクタに煮る和風の調理法から脱却して梅肉とマヨネーズという味付けを試みました。かんぴょうの白さを活かした、ポップな仕上がりになっています。今回は、その歯ごたえも含めて、かんぴょうの“新たな食べ方”のご提案が実現できたのではないかなと自負しています。この駅弁は、10月からの「駅弁味の陣2022」にも参加しています。
●地産地消と子どもたちへの食育で、「駅弁」を未来へ!
―「駅弁作り」で、最も大切なことは何ですか?
齋藤:「衛生」ですね。安全な駅弁を提供できないと、弊社だけの問題にとどまらず、駅弁業界全体の問題に発展してしまいますので。そして海のない県としてハンデはありますが、地元の食材をもっと発掘して面白い弁当を作りたいです。駅弁はもともと、地産地消です。私たちがやるべきことは身近なところにあると考えています。駅弁各社がしっかり地域密着を実践していくことが、駅弁全体の盛り上がりにもつながると思います。
―「駅弁」を次の時代につなぐためにどんなことをすべきですか?
齋藤:子どもたちへの「食育」です。昔、幼稚園に提供した玄米のお弁当を、子供たちが憶えていてくれたということもありますが、「宇都宮の弁当は、やっぱり松廼家だよね」と、憶えていてもらえる取り組みを継続していきたいです。今後、益子に移転するにあたっても、まずはそういったところから、町民の皆さんと交流を深めて、地元の味として受け入れて貰えるように努力していきたいです。
●日光、那須の山並みを眺めて、宇都宮の駅弁を!
―齋藤社長お薦め、松廼家の駅弁を“美味しくいただくことができる”鉄道の車窓は?
齋藤:列車に乗って、改めてその良さに気づいたのは、栃木の山並みですね。青い空に白い雪がのった日光や那須連山がとてもきれいです。ゆっくりと走る列車に乗りながら、お弁当をいただいたら、とても美味しいと思います。日光線や黒磯方面は、紅葉も美しいですし。あと、栃木・茨城・群馬・埼玉の県境が入り組んだ東北本線の利根川を渡る辺りののどかな風景もいいですね。こちらはグリーン車も連結されているので、駅弁もいただきやすいのではないでしょうか。
宇都宮のまちをあとに、東北本線(宇都宮線)の普通列車がスピードを上げていきます。鉄道草創期から鉄道文化の一翼を担ってきた宇都宮駅の駅弁。鉄道駅の前で、駅弁を作り続けてきた駅弁屋さんもいま、高速道路での物流を考慮した立地へと、大きな変化の時を迎えています。駅弁文化を次の世代へ伝えていくために、できることは何でもやる。鉄道150年の秋、そんな駅弁の魂が詰まった宇都宮の駅弁を、じっくりと味わってみてはいかがでしょうか。
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連載情報
ライター望月の駅弁膝栗毛
「駅弁」食べ歩き15年の放送作家が「1日1駅弁」ひたすら紹介!
著者:望月崇史
昭和50(1975)年、静岡県生まれ。早稲田大学在学中から、放送作家に。ラジオ番組をきっかけに始めた全国の駅弁食べ歩きは15年以上、およそ5000個!放送の合間に、ひたすら鉄道に乗り、駅弁を食して温泉に入る生活を送る。ニッポン放送「ライター望月の駅弁膝栗毛」における1日1駅弁のウェブサイト連載をはじめ、「鉄道のある旅」をテーマとした記事の連載を行っている。日本旅のペンクラブ理事。
駅弁ブログ・ライター望月の駅弁いい気分 https://ameblo.jp/ekiben-e-kibun/