沖縄の野犬に笑顔を~諦めなかったカメラマン家族の物語~

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【ペットと一緒に vol.173】by 臼井京音

沖縄の野犬に笑顔を~諦めなかったカメラマン家族の物語~

ニッポン放送「ペットと一緒に」

カメラマンの田尻光久さんは、先住犬のために新しい犬を迎えました。沖縄出身の元野犬で人が怖かった“なつ”が、モデルデビューを果たすまで成長した1年間のストーリーをお届けします。

 

沖縄の元野犬との出会い

「“なつ”を抱っこして外に連れ出そうとしたら、糞尿をもらしてしまった……。その光景がいまも鮮明に蘇ります」

そう言って微笑むのは、犬がメインのカメラマンである田尻光久さん。田尻夫妻は、愛犬のゴールデン・レトリーバーのきっかちゃんを2018年6月に亡くし、翌月に沖縄から元野犬の“なつ”ちゃんを迎え入れました。

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琉球犬の血が入っていると思われる、虎柄

もともとラブラドール・レトリーバーと、半年違いのゴールデン・レトリーバーの多頭飼育をしていた田尻夫妻。妹分がいなくなってさびしそうにしている黒ラブのさくらちゃんのためにも、次の犬を探そうとしていて、なつちゃんに巡り合ったそうです。

「知人がFacebookでシェアしていた投稿で初めてなつを見たとき、黒色のラブラドールの血が入っているかなと思いました。それで気になって、さっそく保護団体に問い合わせをしてみたんです」

すると、沖縄では、田尻さんが暮らす関東地方とは比較にならないほどの野良犬が、行政施設(動物愛護センター等)に毎日収容されることもわかったと言います。

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垂れ耳と日本犬より太めのマズルがラブラドール風!?

「なつは、動物病院併設のペットホテルに預けられていました。愛護団体が1泊数千円の宿泊料を負担しながら、新しい家族を探しているとのこと。これは、一刻も早くレスキューしたいと思いました」

田尻さんは、こうして推定2~3歳の元野犬のなつちゃんを、沖縄と同じ位暑い夏の日に、羽田空港まで迎えに行ったそうです。

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初対面で、クレートのなかで怯えるなつちゃん

先住犬のマネをしながら

田尻家に到着してから2日間、なつちゃんはクレート(ケージ)に入りっぱなしで過ごしました。

「野山を3年もさすらっていた犬ですから、とにかく人が怖いみたいで。犬のさくらや猫のくぅのことは、気にしていないようでしたが。トイレと食事は、リビングが無人になると慌てて出て来て済ませていましたね」と、田尻さんは当時を振り返ります。

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「なつとの大変な日々がスタートしたおかげで、ペットロスにならずに済んだ気がします」(田尻夫妻)

次第になつちゃんは、慕い始めたさくらちゃんにくっついて動くようになったそうです。

「とは言っても、リビングテーブルの下で丸くなって、ほとんど動きませんでした。人の足先が少しでも触れると、そーっと体をずらしていたのがおもしろかったです」

おやつで釣っても寄って来なかったという、なつちゃん。「ところが、バームクーヘンを差し出してみたところ、初めて手から食べてくれたんですよ」と、田尻さんは微笑みます。こうして、1ヵ月かけて新しい環境になつちゃんを慣らして行ったそうです。

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新しい妹ができて、さくらちゃんも落ち込まずに済んだよう

ときおり出現する野生的な行動

なつちゃんは、初めてリードを付けて少し引っ張られると、大暴れしたと言います。

「生まれてから3年近く、リードで引かれたことなんてなかったですからね。苦労しましたが、少しずつ散歩にも慣らして行けました。不思議なことに、散歩に出ると西へ西へと歩こうとするんです。沖縄への帰巣本能なんですかね? 元野犬のなつは、野生的な感覚が鋭いはずですから……」

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南西の方向が気になる?

なつちゃんが田尻家に来て3ヵ月経ったころ、切ない鳴き声を上げたこともあったとか。

「窓のそばに近寄り『ワォォーーン』と、まるで狼のような遠吠えをしたんです。たった1回だけ鳴くと、また寝床に戻り丸くなって眠りました。妻と、『故郷が恋しくて鳴いたのかなぁ』、『家族を思い出して切なくなったのかも』と考察してみましたが、真相はわかりません」と、田尻さんは語ります。

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いまでは“へそ天”で安心した寝姿を見せています

半年かけて、田尻夫妻にもすっかり懐き、散歩にも慣れたなつちゃんですが、いまでも野生的な本能は残っていると田尻さんは感じるそうです。

「狩猟以外で体力を消耗しないためにだと思いますが、なつは動き回らずじっとしていることが多いんですよ。そして、ムダに吠えると敵に居場所が見つかってしまうと警戒してか、ほとんど吠えません。生きている小動物なら追いかけるのかもしれませんが、ボールやおもちゃ遊びには興味なし。いままで関わって来た家庭犬とは、やっぱり一味違います」とのこと。

ドッグランで走り回るのは、なつちゃんは大好きだそうです。

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ドッグランで楽しそうに走るなつちゃん

「あと、故郷を感じるのか、海に連れて行くと鼻を高く掲げ、ヒクヒクさせながら潮の香りを嗅いでいます。ただし、私たちも驚いたのですが、なつは泳げません(笑)。お腹が水につかない20cmほどの水位のところで、ゆったり海水浴をしています。その後は砂浜を疾走して、砂の上で仰向けになってゴロゴロ転がるのが定番コースですね」

なつちゃんが喜ぶこともあり、田尻さんはマイカーに愛犬を載せて、海やドッグランに遠出をすることも多いとか。

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潮の香りに故郷を想って……

撮影に同行してモデルデビュー

田尻家の一員になって約1年。なつちゃんは、いまでは車に自分から飛び乗り、お出かけを楽しむようになったと言います。

「さすがに、用事があって銀座に連れて行ったときは、あまりの人の多さに驚いて挙動不審になっていましたが(笑)」

けれども、なつちゃんは田尻さんがカメラマンとして依頼されたWebメディアの仕事で、モデルデビューも果たしたそうです。

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表情がやさしく豊かになったように感じるとも、田尻さんは語ります

「モデルさんに撫でてもらったり、バランスボールに載ってエクササイズをしたり。すべてが初体験だったと思います。でも、飼い主の想像以上に、よくやってくれました。『なつーーっ! 偉かったね~』と褒めましたし、すごくうれしかったです」と、田尻さんは笑顔を見せます。

沖縄から千葉へ。野犬から家庭犬へ。なつちゃんの第2の犬生は、まだ始まったばかり。今後は田尻夫妻とさくらちゃんとくぅちゃんと、楽しい経験がどんどん増えて行くことでしょう。

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著者:臼井京音
ドッグライターとして20年以上、日本や世界の犬事情を取材。小学生時代からの愛読誌『愛犬の友』をはじめ、新聞、週刊誌、書籍、ペット専門誌、Web媒体等で執筆活動を行う。30歳を過ぎてオーストラリアで犬の行動カウンセリングを学び、2007~2017年まで東京都中央区で「犬の幼稚園Urban Paws」も運営。主な著書は『室内犬の気持ちがわかる本』、タイの小島の犬のモノクロ写真集『うみいぬ』。かつてはヨークシャー・テリア、現在はノーリッチ・テリア2頭と暮らす。東京都中央区の動物との共生推進員。

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