大型犬との同伴避難を誘われて友人宅へ~河川氾濫危険地からの教訓~
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【ペットと一緒に vol.169】by 臼井京音
多摩川の近くに暮らす“マロンママ”さんは、台風が関東を直撃する寸前に、犬友(いぬとも=愛犬仲間)から声を掛けられ、浸水の危険性がない犬友宅に大型の愛犬と避難をしたそうです。
避難先がなければ、マイカーで愛犬と一夜を明かす覚悟でいたというマロンママさんの、令和元年台風第19号が襲来した2019年10月12日を振り返ります。
3代目のバーニーズは、シャイな元保護犬
東京都狛江市の多摩川にほど近い一軒家に暮らすマロンママさんは、現在推定5歳になるバーニーズ・マウンテン・ドッグのマロンくんと暮らしています。
「保護されるまでマロンは恐らく、頭もつっかえるような狭いケージに閉じ込められていたと思います。伏せやお座りをするとき、頭上を気にするような変わった動作になるので……。人と触れ合った経験も多くないらしく、シャイな保護犬でした」と、引き取った2年前を振り返ります。
自宅に来た当時は、マロンくんは怯えた様子を見せていたと言います。特に男性に対して恐怖心があったようで、散歩中も男性が近づいて来ると避けていたそうです。
「でも、最初に私に心を許してからは、次第に夫や娘にも慣れて行き、いまでは男性が頭を撫でたりしても大丈夫になりました」。
幸せな第二の犬生を手に入れたマロンくんが好きなのは、多摩川沿いを散歩すること。「川を渡る風も心地よいですし、自然を感じられますからね。散歩から帰宅すると、お気に入りのサルのぬいぐるみを抱えて(笑)、満足そうな表情で眠っています」(マロンママさん)。
そんなマロンくんや犬友の愛犬が、多摩川で溺れたり体調が急変したりしたときのために、マロンママさんは“ペットライフセーバー”の認定資格も取得したとか。
大型犬だから避難所は控えよう
令和元年台風第19号の接近に伴い、マロンママさんは愛犬との避難を検討したと語ります。
「我が家は、浸水被害が想定される地域なんです。1974年には、多摩川の堤防が決壊して、19棟の家屋が多摩川に流出した“多摩川水害(狛江水害)”が発生しました。現在は対策がなされたので家屋流出までの心配はありませんが、ハリケーンのような巨大台風が来ると知り、絶対に自宅に留まることは避けようと思いました」。
そこで、マロンママさんはマイカーにドッグフードなどの犬用品を積み込み、避難勧告が出されたらすぐにでも出発できる準備を整えたそうです。
「近くにはペット同行避難が可能な避難所もあるようですが、規模が大きくないのと、いくつかの避難所は浸水被害の恐れもあり、開設されないかもしれない。となると、避難所はどこも人やペットであふれかえる可能性もあります。そこに、大型犬のマロンが入ったら迷惑だろうと思いました。最初から避難所行きは選択肢になく、安全そうな場所まで車で行って、暴風雨が去るのを待つ計画を立てたんです」。
台風の状況をマロンママさんがスマホやテレビでチェックしていると、ある犬友から連絡があったと言います。
「『うちは川から離れているから、マロンくんと一緒に避難しておいでよ』って。すごく助かりましたね。ご厚意に甘えて、避難勧告が出ると同時に車で犬友宅へ向かいました」。
犬友の配慮で安心して夜を過ごす
車で10分ほどのところに住む犬友宅にマロンママさんが到着すると、さっそく犬友の心遣いに胸が熱くなったとか。
「犬友は、活発な大型犬3頭と暮らしています。外でマロンと会うことはありましたが、3頭のなわばりでもある自宅で会うのは初めてだったので、マロンが緊張しないように3頭は3階の寝室で過ごさせているとのこと。私たちは、2階のリビングで安心して滞在させてもらいました。自宅が浸水していないか気になりながらも、1階の一部屋で1泊させてもらいました。犬友には本当に、感謝しています」と、マロンママさんは述べます。
マロンママさんが翌朝自宅に戻ると、浸水被害は見られなかったそうです。
「けれども、近所の方に後日こんな話をうかがいました。あるご家族は、徒歩で行ける避難所は人が多すぎて諦め、車で訪れた避難所も駐車場がなく断念。自宅の2階で台風が過ぎるのを待つと決意して帰宅したそうです。また他の方は、ペット同行避難ができる避難所ではペット用のケージが部屋を埋め尽くさんばかりで、犬たちが緊張してストレスを感じているように見えたと教えてくれました」(マロンママさん)。
地域や発災状況によって、避難所事情には差があるでしょう。けれども、ペット同行避難をするにしても、友人や親戚宅に身を寄せるにしても、ペットホテルなどにペットだけ預けるにしても、他の人や犬などに愛犬を慣らしておくのは重要です。
ペットがケージ(クレート)に落ち着いて入っていられることも、ペットのストレス軽減のためにも大切だと筆者はあらためて感じました。
自宅のリビングなどにケージを置きっぱなしにして、ケージのなかで愛犬におやつを食べさせたり、お気に入りの毛布などを敷いておもちゃを入れてあげたりすれば、次第に安心安全な自分だけの基地のように感じてくれるに違いありません。
今回の台風19号による多摩川氾濫の被害で、川崎市高津区の60歳の男性は、愛犬2頭とうさぎ2羽と一緒にマンションの1階自室で亡くなりました。ペットがいたから、避難せず自宅に留まった可能性もあります。
ペットは家族の一員です。ペットと一緒に暮らす人が災害時に困惑しないよう、ペット連れを受け入れる避難所の充実といった対策が進むことも、2頭のシニアドッグと暮らす筆者は強く願います。
連載情報
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ペットにまつわる様々な雑学やエピソードを紹介していきます!
著者:臼井京音
ドッグライターとして20年以上、日本や世界の犬事情を取材。小学生時代からの愛読誌『愛犬の友』をはじめ、新聞、週刊誌、書籍、ペット専門誌、Web媒体等で執筆活動を行う。30歳を過ぎてオーストラリアで犬の行動カウンセリングを学び、2007~2017年まで東京都中央区で「犬の幼稚園Urban Paws」も運営。主な著書は『室内犬の気持ちがわかる本』、タイの小島の犬のモノクロ写真集『うみいぬ』。かつてはヨークシャー・テリア、現在はノーリッチ・テリア2頭と暮らす。東京都中央区の動物との共生推進員。