ニッポン放送「ザ・フォーカス」(12月16日放送)に産経新聞客員論説委員・国際医療福祉大学の山本秀也が出演。長男を殺害した元農水省事務次官の実刑判決について解説した。
東京地裁、懲役6年の実刑判決
2019年6月に東京都練馬区の自宅で44歳の長男を刺殺したとして、殺人罪に問われた元農林水産事務次官の熊沢英昭被告の裁判員裁判で、東京地裁は16日、懲役6年の判決を言い渡した。熊沢容疑者は容疑を認めており、執行猶予がつくかどうかに焦点が集まっていた。
森田耕次解説委員)元農林水産事務次官・熊沢英昭被告に対する裁判員裁判で、東京地裁は懲役8年の求刑に対し、懲役6年の実刑判決を16日午後に言い渡しました。論告で検察側は、長男の首や胸には36以上の傷があったとして、「被告は強い殺意に基づき、不意をついて一方的に攻撃した」と指摘。長男からの家庭内暴力が事件の背景にあったと認めつつも、「経済的に安定し、長男の主治医や同僚らに相談することもできた」として、「他に解決する手段があった」と主張していました。一方、最終弁論で弁護側は「発達障害があった長男を長年に渡って献身的にサポートし、良好な関係を築くよう努力して来た」として、「恐怖のなか、自らの命を守るために殺害した」ということで、情状酌量を求めていました。16日の判決では「短絡的な面がある」としつつも、「息子の暴力で恐怖を感じるということについては否定できない」として、懲役6年という実刑判決だったのですね。
山本)判決が重いかということ以前に、この事件そのものがとても重いですね。
森田)長男は大学へ進学した後、東京・目白などの別宅で暮らして、事件の1週間前に実家に戻りました。被告人質問によると、熊沢被告は長男の暴力を恐れて、夫婦は2階で生活していたそうです。事件当日には、1階で鉢合わせた長男に「殺すぞ」と言われて、目つきから「本当に殺されると思った」と。「反射的に台所へ包丁を取りに行って、首や胸を刺した」と、被告人質問で熊沢被告本人が述べています。
山本)もちろん亡くなった長男は被害者ではあるのですが、熊沢被告自身もある意味では被害者ですし、奥さん、他の家族の方も被害者だらけですよね。
中高年の引きこもりを抱える8050問題が深刻
森田)この問題に絡めてよく言われるのが、40歳~64歳の中高年の引きこもりが、全国で61万人以上いるということです。親も高齢化して、引きこもりの子どもを養えなくなる8050問題と言われる、親が80歳、子どもが50歳と言われる世代になって行きます。この辺の対策が必要だという声も聞かれます。
山本)それも重い問題ですよね。しかも、50歳は10年後には60歳になるわけで、大変重いです。自宅にこもっている人が、すべて家庭内で問題を起こしているとは思えないですけれどね。
家庭内で背負い込まず社会に助けを求めることが重要
山本)練馬の事件に話を戻しますと、これは家庭のメンバーが全員追い詰められて行った、しかも短期間に追い詰められたことがわかりますね。事件に至る前にもっとオープンにして、社会に助けを求める、あるいは社会のサービスを積極的に利用することが重要です。家庭内で背負い込んでしまった最後の結末が、今回のような事件なのでしょう。
森田)ついつい育て方が悪かったのではないかと自分を責めたり、世間体を気にしたりということなのでしょうが、専門機関や支援団体に相談することが必要なのでしょうね。
山本)それが回り回って、悲劇を防ぐ最後の安全弁なのかもしれませんよね。
森田)この事件の直前には川崎市の20人殺傷事件があって、この事件の影響があったのではないかということも言われたのですが、裁判のなかでは「川崎の事件を受けて長男が自分を襲うという連想はしなかった」と熊沢被告本人は述べています。この事件とは直接関係はなかったようですね。
ザ・フォーカス
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パーソナリティは、ニッポン放送報道部解説委員の森田耕次。帰宅時の情報収集にうってつけの番組です。