ニッポン放送「ザ・フォーカス」(1月13日放送)に産経新聞客員論説委員・国際医療福祉大学の山本秀也が出演。台湾総統選の結果と中国の今後の行動について解説した。
台湾総統選、勝利の蔡英文氏に祝意を表した日・米・英に中国が厳重注意
11日に投開票が行われた台湾総統選で勝利した蔡英文氏に、日・米・英の政府高官が祝意を表明したことに対して、中国外務省の耿爽(こう・そう)副報道局長は12日、「一つの中国の原則に違反したやり方であり、強烈な不満と断固とした反対を表明する」との談話を発表した。また、蔡英文総統は13日、日本における台湾との窓口である日本台湾交流協会の大橋光夫会長と会談した。
森田耕次解説委員)台湾の総統選は、台湾の民主化が進んだ1996年以降、4年に1度行われており、20歳以上の有権者が直接投票で総統と副総統を選びます。11日の投票の結果、台湾独立志向の与党・民主進歩党の蔡英文総統63歳が、親中路線の最大野党・国民党の韓国瑜高雄市長62歳らを破り、総統選史上最多の817万票以上を獲得して圧勝しております。韓国瑜市長がおよそ552万票、投票率が74.9%でした。同時に行われた定数113の立法委員の選挙についても民進党が61議席を獲得して、7議席減らしたものの過半数を維持しました。一方、国民党は3議席増やしたものの38議席に留まったということです。蔡英文政権の2期目は5月20日にスタートします。中国外務省の耿爽(こう・そう)副報道局長は12日、日・米・英の政府高官らが蔡英文氏に祝意を表明したことについて「一つの中国の原則に違反したやり方であり、強烈な不満と断固とした反対を表明する」と述べています。中国国営通信の新華社は「蔡英文氏が狂気じみた金のばら撒きで票を買った」と中傷する評論記事を配信しました。この総統選の結果については順当ということですね。
山本)順当以上と言ってもいいと思います。800万票を超える得票というのは驚きました。
森田)国会議員の選挙も与党が過半数を維持したということです。
山本)1年以上前にあった統一地方選で与党の民進党はガタガタに負けていましたので、私は立法委員選挙で半分取れるのかどうかということに注目していたのですが、過半数をかなり超えて取りました。2期目の蔡英文政権も、足元は盤石なものができたと言っていいと思います。
中国による台湾への圧力が蔡総統の再選を後押しする形に
森田)中国は日本やアメリカやイギリスが祝意を表したことについて相当ムッとしているようですね。
山本)これは八つ当たりですね。いままでも台湾の総統選の結果で台湾の民主制度が上手く機能したというところを評価して、「うまくやりましょう」ということは言っているわけです。これは今になって何かを言っているわけでもなければ、一つの中国にも関係ないですよね。
森田)習近平国家主席は2019年の1月に、台湾も一国二制度で統一することを全面に打ち出して、武力行使もためらわないということを言っていました。
山本)言うことを聞かないと使うかもしれないという、銃をチラッと見せながら「言うことを聞け」と言ったわけで、これが逆に蔡英文氏に風が吹き始めたきっかけですよね。だから、中国共産党がいちばん民進党を応援してあげたという皮肉な結果になったわけです。
森田)そして、香港での一連のデモがあったわけですね。
山本)これが現在進行形で一国二制度を受け入れたら5年後、10年後に台湾がこうなってしまうということをみんなに認識させました。これも蔡英文政権が仕組んだわけではなく、ただテレビに流れればよかっただけです。
森田)それでも中国外務省の談話のなかでは、相変わらず台湾問題は中国の核心的利益だと強調していまして、「中国と外交関係のある国と台湾地域によるどのような形式の公的交流にも反対する」と言っています。
山本)その言い方はこれからも変わらないと思います。中国側、特に習近平政権になって言い方が硬直的になっていますので、頭が固まったまま原則を繰り返します。選挙後に中国側が出してきた声明にも何ら新しいことはありませんでしたから、逆に言えば彼らはそれだけこだわっているということです。そこに怖さは感じます。
森田)今回の選挙結果では、国民党は中国寄りと言われていたのですが、惨敗ということになると党内がガタガタになってきますか?
山本)立て直しに手間取ると思います。というのは、韓国瑜さんの出だしはよかったのです。2019年の春先に台湾へ行ったときなんかは、この人はブームの絶頂期でした。話が面白いのですね。逆に言えば、蔡英文さんの話はインテリなのですが、笑いを取れるような喋り方をしない人です。そこに新鮮味はあったのですが、如何せん中国側が次から次へと強硬手段を打ったものですから。しかも、「中国との関係が悪くなれば台湾経済が悪くなる」というのが国民党の言いぶりだったのですが、決して悪くなっていなかったのですね。むしろ米中経済がぶつかったお陰で、中国大陸で操業していた台湾のIT企業が台湾へ戻ってきて雇用を新たにつくったものですから、台湾経済にはプラスの効果が出てきました。
森田)中国本土から引き上げてきた台湾企業が増えたということは、雇用が増えたということになるのですか。
山本)選挙の前後を見ても、台北の株はむしろ高値で推移しましたので、市場もこれでよいという判断を示したと。
若年層の支持強く~考え方にも変化が
森田)若い人が蔡英文さん再選を支持したということで、これは香港デモの影響と、経済的な面があるということですか。
山本)両方あると思います。我々古い世代は台湾を見るときに、中国大陸から来た人なのか、台湾本土の人なのかというところで政治の色分けをしてきたのですが、これが今度の選挙から通じにくくなった。つまり、ジェネレーションで見解がはっきり分かれる傾向で、そこには3代前の出身地がどこかということは関係ないという風潮が見えたので、これからは見方を変えなければいけないと思っています。
森田)私は年明けに台湾からの留学生の方と会って、現地に行かないと投票できないということで、「選挙のときには帰って投票します」と言っていました。どこに投票するのかは聞きませんでしたが、若い人たちが支持をしたということになるのでしょうね。
山本)投票率も75%までいっていますからね。
今後の中国の動き~注意すべきは安全保障面
森田)今後の中国の出方ですが、2期目の蔡英文政権とはどうしていくのでしょうか。
山本)習近平政権は圧力をかける以外の策は取らないと思います。2021年になると、中国共産党の創設100周年を迎えます。習近平さんとしては、台湾問題で筋道をつけた党のリーダーという看板が欲しいはずです。その翌年が、すったもんだの挙句任期を伸ばした中国共産党の大会が開かれますので、ここで3期目に入るのにお墨付き貰うための成績が欲しい。となると、台湾に甘い手は見せられないという考え方になります。蔡さんがどうというよりも、中国側の出方という点で台湾海峡情勢は楽観していません。蔡さんが突然無茶をすることはないと思いますが、相手があってのことなので、日本周辺の安全保障情勢が変わってくる可能性もあります。ここは警戒が必要です。
森田)例えば軍事演習をやる可能性も高くなってくるわけですか。
山本)もっと刺激的なことをする可能性もあります。
森田)経済的にはどうでしょうか。台湾の企業が戻ってきて雇用もよくなっているということですが、中国側からの締め付けはどうでしょうか。
山本)長期的な条件としては続くと思います。台湾の官民の分断をはかろうとしますから、中国側に寄ってくる民間の経済や人々についてはある種の利益を与えて「こっちへいらっしゃい」ということを言うかもしれませんが、全体的には中国経済が弱っているので前ほどの経済カードは切れないと思います。
森田)それよりは安全保障面での心配ということですね。
ザ・フォーカス
FM93AM1242ニッポン放送 月-木 18:00-20:20
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パーソナリティは、ニッポン放送報道部解説委員の森田耕次。帰宅時の情報収集にうってつけの番組です。