米が香港の優遇措置停止~中国はメッセージを見誤ったか
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ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(6月1日放送)にジャーナリストの須田慎一郎が出演。アメリカが香港の優遇措置を停止する方針を発表したニュースについて解説した。
アメリカ、香港の優遇措置停止へ
トランプ大統領は5月29日、中国が香港で反政府的な動きを取り締まる国家安全法制の導入を決めたことを受け、香港に認めて来た貿易や渡航における優遇措置を停止する方針を発表した。中国がこれに反発するのは確実で、両国の対立は更に深まる見通しとなる。
飯田)日本では一様に報じられておりますが、実はトランプ大統領の発表は、中国に対して少し及び腰だったのではないのかという指摘がマーケットからあるということです。
大統領選に向けて経済は悪くしたくないが、対中国問題に弱腰になれないトランプ大統領
須田)逆に言えば、そういう腰の引けた部分にマーケットが好反応して、株価が上がるという状況になったのです。トランプ大統領の最もプライオリティの高い問題は、経済問題なのでしょう。なかでも株価を含めて考えると、11月の大統領選挙に向けて、経済にダメージが出て来るようなところには、踏み込みにくいのではないかと思います。ただその一方で、対中国政策という点で言うと、トランプ大統領の基盤としている共和党に対して、民主党の方もかなり強硬派なのです。特に人権という部分に関しては、アメリカ民主党のお家芸のようなところがありますから、そこに対して相当な強硬策になって来ます。そうすると、いまのアメリカの大統領選挙の争点は「対中国問題」というところになりつつあるので、そこであまり弱腰になると、トランプ大統領としても大統領選挙に向けてマイナスの影響になってしまう。だから非常に悩ましいところなのだろうと思います。
「法による統治」を無視する中国を看過できない欧米社会
須田)ただ基本的なところを考えると、「一国二制度」を50年間続けるということ、それを担保するものとして香港基本法、香港の憲法によって規定されていて、なかでも集会や言論やデモなどの自由は憲法上認められています。それに対して、それを認めないと抑圧するところで、今回、中国の法律が出て来たわけなのです。香港の憲法をないがしろにする。では何に優位性があるのかというと、ルール・オブ・ロー、欧米の社会がいちばん重視している「法による統治」。これがないがしろにされていることが鮮明になって来ている。だから、これはどうあっても「認めることはできない」というのが1点。
経済よりも体制を優先した中国~上海は香港の代替措置にはならない
須田)もう1点が、50年間の一国二制度が認められたことによって、さまざまな貿易上の、或いは税制上の優遇措置が講じられて来た。だからアメリカの企業や銀行を含めて、安心して香港に進出してくださいねと。こういうことでアメリカも背中を押して来た部分があるのです。その前提条件が変わってしまったから、それはもう認められないということになって来る。そうすると、香港に進出している欧米の企業は、香港から撤退という状況になって来る。「香港という存在なくして中国はやって行けるのか」という状況になります。中国には上海という、もう1つの金融センターがあるという意識があったとしても、上海は完全なフリーポートではありませんよね。相当な規制があります。代替措置にはなりません。中国は香港を切ることによって、自国の経済に対する影響をどの程度考えているのか。経済よりも体制を優先したとしか思えません。
飯田)もともと、経済が上がっているから、共産党が曲がりなりにも中国国内では支持されて来たというような下地もあるなかで、「経済を捨てたら、体制は危うくなるのでは」と思うのですが、締め付ける方向を習近平体制は選ぶということですか?
須田)「経済よりも、中国共産党の一党独裁体制を守らなくてはいけないのだ」、これを揺るがすことは絶対に許せないというところに動いて来たのだと思います。
飯田)そうすると人権の問題に行きつくので、西側諸国としては絶対に許すことはできない。
香港の書店主の問題~今回も見逃されるとメッセージを見誤った中国
須田)だから中国にとってみると、負のスパイラルに入って来るのです。そこは微妙に調整していたのです。例えば言論の自由に明らかに抵触しているのだけれども、香港の書店主、出版社のオーナーと言った方が適切なのかも知れませんが、問題の本を出版したことによって連れ去られるということが起こりましたよね。いまその人たちは台湾に亡命していますが、あのとき、欧米諸国は見て見ぬふりをしたのです。一部では問題視されましたが、それによって制裁を加えるようなことはしなかった。ですから中国としては、「あのとき容認されたのであれば、ここまではいいだろう」というような読みもあったのではないかと思います。
飯田)その辺はメッセージとその読み取りを食い違った部分で、中国側は踏み越えてしまったと。
須田)甘く見てしまったのかも知れません。
飯田)日本のなかで香港の抗議活動を批判する人のなかには、「植民地時代から民主主義ではなかったではないか」と指摘をする人もいますけれども、一方で自由の部分、言論の自由は植民地時代から完全に保障されていましたよね。
香港基本法のなかには「デモ・集会の自由」が明記されている
須田)そうですね。繰り返しになりますが、香港基本法のなかには、「デモ・集会の自由」は明記されているのです。こういうことを言うと、「中国の憲法にも明記されているけれどまったく認められていない、だから一緒だ」と言う人がいますが、それは西側の感覚からするとどう考えてもおかしいわけです。「では憲法とは何なのであろうか」ということになりますからね。
飯田)憲法も含めて、何もかも中国共産党が指導するようなことになってしまうと、それはおかしいだろうという話ですよね。
須田)これをトータルで見ると、香港の問題だけではなく、中国共産党的な仕組み・発想・社会的制度をする陣営と、それを容認しない陣営とで真二つにこれから分かれて行くのではないかと思います。そこまで中国は踏み込んだのだと考えていいと思います。
飯田)アメリカも、その辺を意識しながら動いています。そのなかで、日本はどういう立ち位置を取るべきなのか悩ましいところですね。
立場を中国から米寄りに取り始めた安倍総理~今後中国からの見返りも
須田)先日、総理記者会見のなかで、欧米のメディアがどちらの陣営に入るのだと言ったときに、明確には言わなかったけれども、明らかに「アメリカである」というメッセージを出した部分は評価していいのではないかと思います。
飯田)あそこは踏み込んで「コロナウイルスの発祥は中国であることは間違いないのだから」と総理は明言しました。これは中国側からすると、「痛いところを突かれた」という部分があって、外務省の報道官がわざわざ噛みついたりしていましたよね。
須田)そうですね。主張としては、アメリカ寄りになったわけですから、旗色を鮮明にしたという点で、中国に対してきちんとメッセージを発したということになります。もちろん、その見返りとして、尖閣諸島に対するプレッシャーを掛けて来ると思います。それに対して日本はどうするのかというところも、考えて行かなくてはならない。体制を整えなくてはならないと思います。
飯田)海上自衛隊などはハワイでの総合演習リムパック(環太平洋合同演習)について、アメリカはコロナの影響で止めようとしていたのを、日本側が強く働きかけて8月にやることになった。あとは海上保安庁の方ですよね。
日本も台湾との連携を考えるべき
須田)加えて、日本も台湾との連携を、本気で考えなければならないのではないかと思います。
飯田)アメリカには台湾との関係法というものがあって、いろいろな支援ができ、枠組みがある。日本にはそれがないということですね。
須田)そうは言っても、「WHOのメンバーに台湾を加えろ」ということを日本ははっきり言っています。このことも、中国には相当なプレッシャーになっているのではないかと思います。
飯田)この辺りは総合的にやって行かなくてはいけないと。
須田)そうですね。
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