コロナ後の世界~もっとも危惧することは

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ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(5月29日放送)に北海道大学教授・国際政治経済学者の鈴木一人が出演。アフターコロナにおけるグローバル化の流れについて解説した。

コロナ後の世界~もっとも危惧することは

【新型コロナウイルス関連】欠航が相次ぎ、閑散とする羽田空港国際線ターミナル=2020年4月5日、東京都大田区 写真提供:産経新聞社

感染の収束とともにグローバル化も元に戻る

新型コロナウイルスが世界中に拡散し、国境を超えた人の移動が一気に止まったが、果たしてグローバル化の流れは止まって行くのだろうか。

飯田)鈴木さんは、25日の読売のオピニオン欄に、このグローバル化について寄稿されていらっしゃいます。コロナショックから元に戻るのだろうかということは、みんなが思っていることです。

鈴木)当面は、感染のリスクというものはありますし、かつてのように、気軽に海外旅行に行くことは難しいと思います。それでも、半年から1年くらいで感染は収束して行きますので、その流れを見ながら恐る恐るですけれども、感染が少ない国、例えばニュージーランドやオーストラリアなどから徐々に、人の移動が進んで行くのだろうと思います。感染症は歴史的な流れを見れば、これまで何度もあったことです。それによって世界が変わるということもないわけではありませんが、今回は戦争のように国家間の関係を悪化させるような疫病ではないので、そういう意味ではいつか終わるのです。ものやお金の流れも変わらないので、グローバル化自体に大きな変更はないだろうと思います。人の流れが一時的にかなり滞りますが、それも感染の収束とともに、また元に戻るのではないかと思います。

コロナ後の世界~もっとも危惧することは

米東部ニューヨーク州オールバニーの州議会議事堂前で、経済再開を求めデモを行う人たち。参加者は「貧困はウイルスよりも恐ろしい」などと書かれたプラカードを掲示した=2020年5月1日 写真提供:産経新聞社

生活苦への不満によってコントロールが効かなくなる恐れ

飯田)コロナの副次的な作用だと思いますが、各国経済が相当痛んでいます。世界恐慌並みだと経済学者が指摘していますが、それによる世界の構造の変化は考えられますか?

鈴木)世界中が同時にロックダウンしているという衝撃は大きかったと思います。需要と供給が同時に止まってしまったので、一時的に失業がものすごく増えている。これはもちろん、いろいろな禍根を残すのですけれども、自国を守ったところでロックダウンしているときは、需要が回復しないのです。だから保護主義的な手段を取ってもあまり効果がない。よく1930年代の再来だと言うのですけれども、私はそうは思っていません。奪い合うものがないので、そういう例えではないと思います。ただ、失業して生活苦になっている人たちが、不満の吐口として対外的な攻撃や差別、いまで言えば米中関係のように悪化して行くということはあり得るので、そこは心配すべきだと思います。これまでトランプ政権を支えて来たラストベルトのような人たちの不満によって、コントロールが効かなくなり、場合によっては戦争にまでつながって行くような感情、ナショナリズムの爆発のようなものが、いちばん恐ろしいことです。

飯田)コロナが要因というよりも、いままであったものがコロナによって、より増幅された、クローズアップされたということですか?

鈴木)そういうことだと思います。コロナが示したものは、コロナが何かを変えたというよりは、いままであったものをドカンと大きくした。歴史を早めたという言い方もできるかも知れませんし、ある種、これまで抱えていたものが、それをコントロールする、覆い隠す、調整するメカニズムが弱くなるというのが現状なのではないでしょうか。そこで、政治も国民も自制を利かせないといけないのですけれども、いまのトランプ政権を見ていると、自制が利くのかなと心配になってしまうところはあります。

コロナ後の世界~もっとも危惧することは

28日、台北中心部にある香港政府の出先機関前で、国家安全法の香港導入に抗議する香港と台湾の学生ら=2020年5月28日 写真提供:時事通信

中国は香港の運動が中国国内にも伝播することを恐れている

飯田)アメリカの方がそういう状態になっている。一方、中国は香港の問題でも言及されていましたが、覚悟を決めたところがある。自制ではなくて、いままで思っていたことをより強く打ち出すというように。東シナ海や南シナ海を見ていると、そのような気がします。

鈴木)中国も「恐れ」があるわけです。今回、自分のところで感染を出したということがありますから、中国はアメリカやヨーロッパに比べて被害が少ないとは言え、たくさんの人が亡くなっていますし、いまでも感染症の再来に対する恐れを持っています。そうなると、国民の間でも不安が大きくなって来る。それが体制への不満に変わって行くのではないかという恐れもある。今回の香港の問題は中国からすれば、香港を抑えないと香港の運動が中国国内に伝播するということを恐れています。だからこそ、力で抑えないといけないと思っているので、中国の理屈からすると、自分たちを脅かすものに対して力で対抗して行こうとしている。そういう態度を取り続ける限り、東シナ海も、アメリカの圧力が強くなればなるほど、より中国が強く出て来る可能性はあると思います。

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中国の習近平国家主席(左)とトランプ米大統領=2020年5月14日 写真提供:時事通信

米中間の問題は当事者同士がやらなくてはならない~日本やヨーロッパがどういう動きができるか

飯田)米中間をどう調整して行くかというところでは、かつてなら、間に国連が挟まるなどの調整能力があったのですが、もともと弱っていたとはいえ、ここもコロナで弱くなりましたか?

鈴木)国連などその他の国際機関、ないしは国際的な調整メカニズムが弱っているということは、トランプ政権が就任して以来変わっていません。それが加速してしまった部分はありますが、大きな流れ自体は変わっていません。そもそも、米中の対立を調整できる機関はないのです。米中自体が話し合って解決しなければいけないですし、そういう機会や環境づくりを日本やヨーロッパや周辺諸国がどうやってできるかというところが、重要なポイントになって来るのです。

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新型コロナ/閑散としたニューヨークの街並み=2020年3月17日 写真提供:時事通信

米中間でお互いに意図するところがまったく噛み合っていない

鈴木)最後には米中当事者がやらなければならないのですが、アメリカはアメリカで問題を抱えていて、中国を攻撃することで自分たちのメリット…トランプ大統領にすれば、大統領選の再選のチャンスだと思っているというところもありますし、中国は中国で、自分たちに対する脅威や圧力を排除したいという思いがあるのだけれど、噛み合っていない。ここがいちばん怖いところです。米中の間で、意図するところが全然噛み合わず、すれ違い、誤解、そういうものが起きる怖さがあります。

コロナ後の世界~もっとも危惧することは

スウェーデンの新型コロナ対策 封鎖回避、免疫で抑制図る  スウェーデンの首都ストックホルム郊外のショッピングセンターで、買い物を楽しむ人たち=2020年4月24日(共同) 写真提供:共同通信社

日本やヨーロッパには、トランプ大統領の矛盾について、きちんと説明して伝えるコミュニケーション能力が問われる

飯田)米中間の風通しをよくする状況をつくる手助けとして、日本やヨーロッパが動くことがまだ可能だと見るべきですか?

鈴木)トランプ大統領は人の言うことを聞かない大統領なので、彼にどうメッセージを伝えるかということが、難しいところだと思います。中国は間違いなく、それに失敗しているのです。トランプ大統領は「習近平氏とは友達だ」とは言っていますけれども、個人的な関係と国家間の関係とが切り離されています。その矛盾をトランプ大統領にきちんと説明しなければなりません。コロナの日本の戦略の話もそうですが、いま起こっていることの多くは、相手にメッセージを伝える、理解してもらうための、言葉足らずな部分から起こっている問題です。日本やヨーロッパには、そのコミュニケーション能力が問われるところだと思います。

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FM93/AM1242ニッポン放送 月-金 6:00-8:00

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