官僚は総会屋対策をしながら、仕込みをやっているようなもの
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ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(6月26日放送)に慶應義塾大学教授・創発プラットフォーム理事の松井孝治が出演。官僚の働き方改革について解説した。
霞が関の働き方改革、抜本的な強化へ
内閣人事局が国家公務員に行ったアンケートによると、20代の男性官僚のおよそ7人に1人が「数年以内に辞めたい」と答えていたことがわかった。この実態を踏まえて、霞が関では7月~9月までを「働き方改革推進強化月間」として抜本的な働き方改革に乗り出す方針である。
飯田)松井孝治さんは通産省、いまの経産省の官僚でいらっしゃった。そのあと、参議院議員をやられて、いまは大学で研究をされている。ある意味、仕事をする側と、その指示をするような国会議員の立場も経験されて、この働き方改革も積極的に提言なさっています。どういうところが問題だとお考えですか?
松井)国会だけの問題ではありません。いちばん大きいことは、国会対応だと思います。先輩である宮家邦彦さんが、「外交官として働いて、本当に人生の無駄のような時間があった」とおっしゃった。
飯田)先日、そのお話を聞きました。10年くらい国会対応をされていたそうですけれど、これは本当に無駄だったと。
官僚が国会議員のクレーム処理に追われてしまい、本来の仕事ができない
松井)今回もコロナのなかで、厚労省の官僚たちが、現役の人たちはなかなか言えませんけれど、OBや匿名の方々は「国会を何日間か休みにしてくれ」とおっしゃっていました。自分たちが一所懸命コロナ対策をやるのに、徹夜続きでやるのだけれど、昼間も国会に呼ばれて、夜も国会答弁の対応に追われる。本来だったらコロナ対策の中身をやらなければいけないのに、国会議員の先生方のクレーム処理に追われてしまって、それができないという悲鳴のような声がありました。これは典型的な声ですけれど、他の業務でもあることです。僕らの時代は「歯を食いしばって弱音を吐くな」と育てられましたが、いまはそれがもう悲鳴として止まらない。ソーシャルネットの時代ですから、家族からも出て来る状況だと思います。
本来、国会は何のために存在するのか~優秀な人材から辞めて行く
松井)本当にやらなければいけないことは、外交安保にしてもコロナにしても、たくさん山積みになっていて、他の国は効率的にやっているのに、日本だけがそれを効率的にやらせない。「無駄だった」と宮家さんのような方に公言させてしまう。行政が業務を執行するためにブレイクスルーする存在でなければいけないのに、いろいろな負担を政治家同士が話し合い、「ここはやろう」と背中を押してあげるような役割ではなくて、行政が「頼むから国会を閉じてくれ」と混乱する状態になっている。ということは、国会対応で徹夜が毎晩続くような状態もそうですが、本来、「国会は何のために存在するのか」ということを見直さなければいけない時期に至っていると思います。これは本当に危機的です。このままであれば、官僚たちがどんどん辞めてしまいます。優秀な人材から辞めて行くようになります。国全体で考えなければいけないと思います。
飯田)明治の時期から、日本でもっとも優秀な若者は霞ヶ関に来ると言われて来ました。東京大学の1つの設立目的もそうだったものが、横を見ると「同期たちは楽しそうに仕事をしているのに……」と見えてしまう。これで日本の、ある意味で頭脳が集まらなくなって来るということは、この先の政策のクオリティーを含めて、問題になりますか?
総会屋対策をしながら、仕込みをやっているようなもの
松井)中長期的に、官僚として仕事をしてくれる人たちの質が低下してしまう。優秀でやる気のある人たちが、官僚を仕事として選ばなくなる。これは残念ながら、始まってしまっていると思います。いま、せっかく来てくれている人たちがいるわけで、その人たちが政策の中身を議論して、いい政策をつくる。中国でも他の国でも、優秀な人たちが「どんな政策がいちばん効果的か」ということを、1日中考えながら仕事をしているわけです。一方で日本では、総会屋対策のようなことをしている。「橋本行革」という官民のプロジェクトチームがあったのですが、民間から来ている企業のトップ候補の人たちが、一緒に仕事をしてみて、「皆さん大変ですね」「皆さん、毎日、株主総会の総会屋対策をやっているようなものですね」と、飲みながらしみじみと言っていました。「総会屋対策を毎日やりながら、仕込みをやるということは信じられないです」と言った人がいました。
飯田)各企業、専門家がいますよね。
松井)総会屋対策をなさっている方には申し訳ないけれど、あまりクリエイティブな仕事だと思われていないわけです。
飯田)揚げ足を取られないように、答弁書をつくるような。
もっとクリエイティブな仕事をさせるべき~本来の国会を機能させるために何をするべきか
松井)そんなことがあったのが20数年前です。「いまの現役の人たちは、そのころよりももっと酷くなっている」という話を聞きます。すべての優秀な才能が中央省庁に集まる必要はないと思います。民間で活躍する人もいたらいいけれど、せっかく来てくれている人たちに、もう少しクリエイティブな仕事をさせるべきだと思います。国会が国民に対して、どんな論点対立があるのかとか、どのように知恵を絞っているかということを表すべきです。官僚たちが平場でやっているよりも、国会議員同士で議論した方が、大きな舵を切るときには早いことが多いです。本当の意味で国会が機能するために、どのような議論をするべきか、ということを考えた方がいい。野党のいまの国会質問のやり方など、野党を批判することも多いのですが、実は与党も考えなければいけないことです。
飯田)ある意味、霞が関が国会議員たちのコンサルティングというか、シンクタンクのような言い方をすることもあります。国会や党に使えるブレインのようなシンクタンクがいま、ほとんど存在しないということも大きいのですか?
原発事故のときの国会事故調査委員会
松井)そうです。例えば、今回のコロナ対策でも、霞ヶ関はいまの対応で必死ですから、本当は中長期的に「今回の対応でよかったのか」ということを、国会のスタッフが検証して、霞ヶ関に対して「こうやった方がいいのではないか」と提言しなければならないのです。他の国では普通にやっていることです。でも日本の国会は、予算委員会でも、本会議でも、「野党が質問して追及して」ということに終始してしまっている。その機能がとても弱いです。国会のスタッフのあり方を考えた方がいいです。私が知っているなかでそれが唯一機能したのは、原発のときの国会事故調査委員会です。あれは、臨時でスタッフを集め、いろいろなコンサルティングの人たちも入ってレポートを書きました。「こうあるべきだ」と警鐘したことがありましたが、あれぐらいです。あとは、日々の委員会で野党が追及する、そこを凌げば終わりということになってしまっています。
飯田)最後は、数の力で法案が通って行く。
松井)結局、民間の人もおっしゃった、総会屋対策を毎日やっているのですね。本質においての改善提案がなされていなくて、「その場をいかに収めるか」ということに労力を費やしているのです。宮家さんのような方が「10年間無駄だった」とおっしゃるわけです。
飯田)確かに、あのときは国会事故調査委員会があり、政府事故調査委員会があって、民間でもあって、党でも事故調査報告を出しました。
未だに公文書管理もできていない
松井)いまは次の原子力安全規制の議論があるけれども、原子力安全委員会というものができて、原子力規制庁ができて、そこが電力会社の言いなりにはならない仕組みになっています。その仕組みについて批判もありますが、それも次の体制につながっている。そういうことをやって行かないといけません。森友・加計問題もあったけれど、では公文書の管理はどうなっているのか。結局、コロナのときの公文書の管理もできていないではないですか。同じことをやっている。その場で追及はするけれど、次の公文書管理のために、誰がメモをつくるのか。他の国にはアーキビストがいるのです。そういう人たちをつくって定員を振り分けないと、文章をつくるとか、それを公開するということができない。そのような労力は、いまの霞ヶ関にはありません。その分、野党合同ヒアリングに呼ばれてしまって、「いつ議事録をつくるのですか」というのが現場から聞こえて来る悲鳴です。要領よく改善するための議論であれば意味がありますが、その場だけのハラスメントであれば、結局、宮家さんがおっしゃるような「10年間無駄でした」ということになってしまいます。
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