香港民主派「デモシスト」が解散する本当の理由~香港国家安全法成立
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ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(7月1日放送)にジャーナリストの佐々木俊尚が出演。中国政府が香港国家安全維持法を成立した報道について、電話ゲストに香港中文大学・大学院の石井大智を迎えて解説した。
中国の香港国家安全維持法が成立
中国全人代の常務委員会は6月30日、中国政府による香港の統治体制を強化する香港国家安全維持法案を全会一致で可決した。香港政府は現地時間の30日午後11時、法律を施行した。
飯田)高度な自治、言論の自由、返還後50年にわたって保証した一国二制度の形骸化だと、産経新聞は1日、「香港は死んだ」というタイトルで一面に記事を掲載しました。
佐々木)完全に中国政府はルビコン川を渡ってしまい、香港問題はもう後戻りできなくなりました。これに対して各国はどういう対応をするのか、そして中国にどう向き合って行くのか。
飯田)日本は「遺憾の意」を出すということですが。
佐々木)遺憾の意だけでは何も動きません。しかし中国に経済制裁ができるのかと言うと、逆に制裁されて終わりです。この状況にどう対応するかです。
飯田)現地香港がどう受け止めているのかということを、この時間は香港中文大学、大学院で研究もされている石井大智さんと電話がつながっております。石井さん、おはようございます。
石井)よろしくお願いいたします。
香港現地はどう受け止めているのか
飯田)香港国家安全維持法が即日施行となりました。現地の受け止め方はどうですか?
石井)全人代で審議されているときに、これだけ国際社会を揺るがしている法律にもかかわらず、条文が明らかになっていませんでした。条文がはじめて明らかになったのは、6月30日の23時です。現地のメディアでは、条文の詳しい内容を伝える記事が多いです。特に地方の独立の形骸化や、政府の取り調べ権限の強化などが注目されています。
飯田)中身が表れて来て、中身が表れる前に言われたのは、過去も訴求して処罰されるのではないかという危惧がありましたが、それはどうですか?
石井)法律としては、過去には訴求しないとありますが、実際の運用でどのように解釈されるのかまだわからないので、何とも言えません。
飯田)その解釈権が北京中央にあるのも怖さの1つですか?
石井)そうですね。それだけでなく、今後、立法会選挙など、いろいろな選挙が予定されていますが、その選挙において、いままで候補者の取り消しということが過去の行動でも起きています。過去に自分がやったことが国家安全を害するものとみなされて、何らかの形で罰されるのではないかと恐れている人たちが、一定数いると思われます。
施行を前に民主派団体などが解散した理由
飯田)この施行を前にして、民主派団体「香港衆志(デモシスト)」が解散しましたが、もうすでに萎縮が始まっているということですか?
石井)デモシストはじめ、国際協調を行っていた団体は、中国の中央政府の言う外国勢力とのつながりを理由に摘発される可能性が高いですし、「香港民族陣線」という香港独立志向の高い団体も、香港での活動を止めると発表しましたが、彼らは国家分裂罪で摘発されることを恐れているのではないかと思います。少しでもリスクを避けるために無理にこだわらず、解散すべきところで解散するのは、香港の抗議活動で合言葉になった「Be Water」を現しているようだと感じました。
飯田)「水になれ」と、ブルース・リーの言葉をモチーフにしているわけですよね。7月1日は毎年、民主派のデモが予定されていますが、今年(2020年)はどうなりそうですか?
石井)いまのところ、警察はデモの開催を認めていないですし、主催団体はそれに対して上訴はしたのですが、認められず、デモに関しては合法的に行われることはないという状況です。しかし、いままでも合法的に行える状況ではないなかでデモが起こって来たので、何らかのことは行われると思います。皆さん、国家安全法にいろいろな懸念を持っているので、どれほどの人が街頭に出て来るかは未知数だと思います。
今後さらに国際社会の圧力が香港の民主化には必要
佐々木)デモシストが解散という話があり、もはや「社会運動だけでは対応できる段階ではなくなった」という理解でよろしいですか?
石井)香港の構造上、法律の制定前からそうですが、社会運動だけでなく、国際社会からの圧力が民主化において重要になっています。今回の法律を機に、香港のなかで動くのはどんどん難しくなって、皆さん委縮してしまっています。これからさらに国際社会の圧力が、香港の民主化において重要になって来ると私は考えています。
香港国家安全維持法は中国政府にとって諸刃の剣
佐々木)現状、経済力、軍事力も極めて強い中国政府を国際社会の圧力でということは、かなり困難ではないかと思いますが、その辺はどう見ていますか?
石井)中国経済は外需に大きくつながっていますから、香港国家安全維持法は諸刃の剣です。これだけ中央政府が自身の意図通りに運用できる法律を使いすぎると、国際社会から容易に批判を浴びます。いろいろな制裁を受けて、中国は新型コロナ以降、さまざまな内政の問題を抱えています。特に経済問題です。そのなかで外国から制裁を受けるのは痛手になるので、これほど中央政府に使いやすい法律は、逆に使いにくい部分があるのではないかと私は見ています。
佐々木)コロナのころから中国政府に対する警戒心が国外で高まっているわけで、今回のことでさらに、中国は覇権国家であって民主的ではないという印象が強くなるのは明らかです。それでも、あえて中国が香港に対してこういう態度に出るのは、大陸国内向けのイメージ戦争のようなものがあるのですか?
香港の民意が何かをつかめていない中国政府
石井)さまざまな中国研究者がそのように言っているのと、あとはローカルで起きていることに、正しい認識を持てていないのが1つの原因ではないかと指摘している人もいます。例えば、去年(2019年)11月の区議会選挙で民主派が圧勝したことが海外メディアで多く報道されていますが、中央政府にとって、民主派が勝利したことは驚きだったという報道もあって、香港の民意が何かということを中央政府側は正確につかめていない。そしていろいろなポジションの人間が、保身のために意図的に無視しているのではないかと私は思います。
合理的な対応ができない中国~情報不足や権威主義体制が行き過ぎた結果
佐々木)かなりドメスティックというか、国内にしか目が向いていない閉鎖的な政府という印象がありますね。
石井)そうですね。海外から見るといまの中国の行動は、たとえ香港を落ち着かせるためであっても、かなり非合理です。こういう法律を施行するということは、かえって反発を生むだけで、下手をしたら、いままでビジネスにおいて中国を支持してくれていたビジネス親中派のような人たちも、敵に回してしまう可能性があります。そういう合理的な対応ができていないというのは、情報の不足や、習近平体制での権威主義体制が行き過ぎた結果ではないでしょうか。
佐々木)今回の国家安全維持法は、外国人も処罰対象になり得るという話がありました。
石井)そうですね、香港にいる外国の団体や、外国の事務所も処罰対象になります。香港に永住権を持っている人に関しては、どこでどのような活動をしようが、この法律の対象になります。
佐々木)そうすると怖くて香港に行けなくなりますね。いままでも日本の研究者が中国大陸に渡って、拘束されるという事件がありましたが、それと同じ懸念が香港にも生まれて来るわけですか?
石井)大学にはかなり萎縮が起こると思います。しかしながら、実際に何が起こるかあいまいな法律ですし、中央政府がある程度は自由にコントロールできるので、起きてみないとわからないというのが私の率直な感想です。
飯田)コロナがあるから、海外からメディアが入ってきちんと報道することもやりづらいですよね。このタイミングを狙って来たということも考えられますか?
石井)そこまで考えられているかはわかりませんが、そのように言う人もいます。
飯田)そうすると、石井さんのような立場の人が自分の目で見て、日本に伝えるということが大切になって来ますね。
石井)香港で起きていることはグローバルな出来事だけでなく、ローカルで起きている1つ1つの出来事が、グローバルに影響をもたらします。だからこそ、ローカルの人の声や、ローカルで何が起きているかということを拾うのが、研究者として重要だと感じています。
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