中国が攻撃的になる事情~G7外相が香港問題で中国批判声明

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ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(6月19日放送)に外交評論家・キヤノングローバル戦略研究所研究主幹の宮家邦彦が出演。主要7ヵ国(G7)外相が香港問題で中国批判の声明を出したニュースについて解説した。

中国が攻撃的になる事情~G7外相が香港問題で中国批判声明

人民大会堂で、政府活動報告を聴く中国の習近平国家主席(中国・北京)=2020年5月22日 写真提供:時事通信

香港問題、G7外相が中国批判の声明~中国はしっかりと聞くべき

主要7ヵ国(G7)外相は18日、中国が香港での反体制的な言動を取り締まる「国家安全法制」の導入を決めたことについて声明を出し、「重大な懸念」を表明した。G7として決定の撤回を求めており、中国が反発するのは必至と見られている。

飯田)18日から全人代の常務委員会が開かれ、この法案が審議されるというタイミングでこれが出ました。どうご覧になりますか?

宮家)当然のことです。中国側の動きが出て来たので、G7側も懸念を深めていたのですが、今回はそれが具体的に動き始めたわけですから。ただし、中国を止めると言っても、どこまで止められるかは別問題です。しかし、「中国の思い通りにならないのだ。国際社会は反対しているのだ」ということを継続的に、効果的に中国へ国際社会のメッセージとして送らなければいけない。それを各国が個々にやるよりも、G7というより多くの国が関与する形でメッセージを出す方が効果的であり、極めて重要です。ついでに、このタイミングでアメリカはウイグル人権法を制定する。勿論、これも決して偶然ではなく、相互に連携してやっているのです。最初はG7諸国のなかで温度差があるとも言われていましたが、必ずしもそうだとは思いません。中国はこのような国際社会の声をしっかりと聞かなければいけないと思います。

中国が攻撃的になる事情~G7外相が香港問題で中国批判声明

繁華街コーズウェイベイで活動する民主派団体の幹部ら=2020年5月31日、香港(共同) 写真提供:共同通信社

中国の動きは1930年代の日本と同じ~必ずしっぺ返しが来る

宮家)最近の中国の動きを見ていると、1930年代の日本だといつも言っているのですけれども、それはどういう意味か。当時は満州事変がありましたが、中国は今回、21世紀版満州事変パート2をやっているのだと私は思っています。21世紀の満州事変パート1は、南シナ海に人工島をつくったことです。その結果、国際社会の大きな反発があって、フィリピンがこれを提訴し、国際仲裁裁判所が、九段線という中国が引いた変な線、あんな線に「意味はありません」という判断を下した。これを私は、現代の「リットン報告書」だと言っています。中国は国際社会に対し背を向けて、やりたいことをやる。短期的にはそれもできるかも知れません。日本もかつてはやりましたから。香港の場合も陸続きで、北には中国の広東省があるわけですから、中国に止めさせるとは言っても、難しい。G7で戦争をするわけではありませんからね。ですから、いまの中国は無茶をやれるのです。ですが、そうやって繰り返し国際社会に背を向けて、やりたいことをやり続ければ、昔の日本やドイツの経験からわかる通り、必ずしっぺ返しが来るのです。それを中国はわかろうとしない。その意味では、今回のG7外相のメッセージは極めて重要だと思います。

飯田)国連安保理の常任理事国の1つでもある中国。常任理事国であれば、何をやってもいいと思っていたりするのですか?

宮家)それはソ連のときもそうでした。拒否権というもの自体がいいか悪いかという問題はあります。先ほどWTOの話の際にも申し上げましたが、WTOがコンセンサスで物事を決めるということは、各メンバー国がそれぞれ拒否権を持つということです。中国はそれを上手く使います。どの国でも自国の権益を守るために、ある程度そういうことはする。けれど、世の中には限度というものもある。しかも、中国が本当に国際社会のなかで責任ある役割を果たそうとするのなら、それが平和的な台頭だとおっしゃるのであれば、そろそろ中国も「国際基準に合わせてくださいよ」ということです。

中国が攻撃的になる事情~G7外相が香港問題で中国批判声明

インド軍死者20人に 16日、インド北部で防空壕をつくるインド兵(アナトリア通信・ゲッティ=共同)=2020年6月16日 写真提供:共同通信社

国内に弱みがあるから攻撃的に出ている中国

飯田)このところ、香港以外でも、尖閣の周りの接続水域に65日以上も公船が出ている。また、反対側の国境の方では、インドとの間でも衝突があった。南シナ海でも漁船に船を当てたりしている。ありとあらゆるところで喧嘩を売っていますね。

宮家)「中国が自己主張を強めて、強気になっている」と多くの人は見るのですが、逆かも知れません。過去の歴史を振り返ってみると、どこか国内に弱みがある、もしくは、やっていること自体が薄氷を踏む思い、微妙なバランスの上でやっていて、「これをやらなかったら大変なことになる」という恐怖心があると、かえって不必要に国際社会を刺激する強硬策を取る国も少なくなかったようです。しかし、それでは墓穴を掘ることになる。こんなことを人間社会はこれまで何度も経験して来ました。中国はいま決して、強気で「勝てると思ってやっている」のではなく、むしろ、「やらなかったら大変なことになる、自分たちが危なくなる」と思っているのでしょう。香港にしても、香港がいまの通りであっても、中国本土が安定していれば痛くも痒くもなかった。だけど、コロナが蔓延し、中国社会も変化しているときに、香港の抗議運動が広東省や中国本土に波及したら、それこそ大変なことになる。それをいちばん恐れているのでしょう。攻撃的というよりは、防御的な部分があるのだと思います。

飯田)すでに習近平氏は、国家主席としての任期制限も撤廃しました。いままでは10年しかできない、68歳を超えると新しい役職には就けないということも、このまま無視して突き進むと言われていますけれど、それができるほど権力基盤が盤石ではないかも知れないということですか?

宮家)彼は革命世代の第2代です。「お父さんたちがつくった中華人民共和国を俺の代で潰すわけには行かない」という、中小企業のボンボンだと思えばいい。あそこは巨大でブラックな中小企業ですから。気持ちはわからないわけではない。彼らにはとても大きな危機感があるのだと思います。本来は自分がシステムを変えなくてはならない。しかし、変えるためには、国内でいろいろ言う人がいる。それには強権で抑えるしかないということになる。これを繰り返しているうちに墓穴を掘ってしまうのです。いつになるかはわからないですけれども。

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