ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(8月21日放送)に慶應義塾大学教授で国際政治学者の中山俊宏が出演。米大統領選に向けた民主党の候補指名の受諾演説に臨むバイデン候補について解説した。
民主党のバイデン氏、指名受諾演説へ
アメリカ民主党のバイデン前副大統領は、党大会最終日の8月20日夜(日本時間21日午前)、11月の大統領選に向けた候補指名の受諾演説に臨む。人種差別や経済格差など深刻化するアメリカ社会の分断解消を目指し、政権奪還へ決意を表明するとみられている。
飯田)4日間にわたる民主党の党大会、最終日は受諾演説ということです。こちらもリモートで行うということですが。
オンラインで盛り上がりに欠ける今年の党大会~初めてのわりにはうまくやっている
中山)実際に人が集まる大会に比べると、やはり盛り上がりに欠けるところがあると思います。オンラインで参加している人の数も少ないと言われていますが、いろいろな見方があるので、合算すれば例年とそこまで変わらないという見方もあります。しかし、少し奇異な感じがしますよね。通常であれば、演説をしてみんながワーッと騒いで、1つの場として完結しますが、今回は2~3分の短めの演説をいろいろな人がして、特に歓声もなく終わります。一応モニターがたくさんあって、そこに視聴者がいて、その人たちが拍手をしたり手を振ったりしているのですが、大統領候補の指名に向けて一丸となって動いて行くという雰囲気に欠けていることは、否定できないと思います。
飯田)その辺りは、模索を続けているという感じになりますよね。
中山)初めてのわりには、どうにかうまくやっているのではないかという評価が多い気もします。
飯田)1日目はバーニー・サンダースさんなどがやって、2日目、3日目はそれこそ大統領経験者が演説をしました。
中山)クリントンやオバマ、ミッシェル・オバマ……いろいろな人が出て来ます。単に民主党を支持する有名人や歌手も出て来て、お祭りですよね。
飯田)この著名な人たちの演説はどうですか?
中山)政策的な中身に踏み込むというよりは、バイデン指名に向けて盛り上げるという色彩が強いのではないでしょうか。また、民主党を支持している人たちが、親近感を感じるような人たちも多いですし。
民主党の党大会に共和党議員が登場~その逆も
中山)面白いのは、共和党の人も若干出ているのです。毎年こういうことがあって、共和党の党大会で民主党の人が出ることもあります。
飯田)逆もあるのですね。
中山)数としては少ないのです。しかし、今年(2020年)は共和党がトランプさんという論争的な人を選んでいるので、共和党から寝返っている人がかなり多い感じがします。
飯田)州知事の経験者の人たちも。
中山)そうですね。2016年の大統領選に出た、ケーシックさんというオハイオ州の前州知事ですね。彼は知名度が高いのですが、トランプさんには批判的です。民主党に鞍替えしたわけではないのですが、共和党員として民主党の党大会で、トランプ大統領を批判するということがありました。
アメリカの政党は日本と違い、個人ベースでの参加となる~他政党の大会に出ても除名されない
飯田)アメリカではそういうことができるのですね。
中山)アメリカの政党は日本と違って、かなりルーズなので、基本的には個人ベースで参加しています。党員証をもらって、党のために日々活動するということもありません。州ベースやコミュニティベースの党に参加して、全国の党組織に飲み込まれるという感じではないので、個人の判断に委ねられます。そして、先ほど申し上げたケーシック知事は、民主党の党大会に出たからと言って除名されることはありません。つまり、除名できる主体がなく、党組織がルーズなのです。
飯田)全国共和党のようなものがあっても、除名するなど、そこまでの権限がない。
中山)ええ。一応、中央組織はあるのですが、選挙の管理や日々の党運営のマネジメントなど、どちらかというと事務的なのです。ですから、全国党委員長というと、日本では幹事長のような偉い感じがしますけれども、少し違いますね。
飯田)なるほど。日本で、例えば安倍さんと対立しているからと言って、石破さんが立憲民主党の大会に行って安倍批判をしたら、おそらく除名ですよね。
中山)それはそうですよね。そこは少し日本とは違うと考えた方がいいですね。
総合得点が高く副大統領にえらばれたカマラ・ハリス氏
飯田)昨日(20日)は、副大統領候補になったカマラ・ハリスさんが演説されていました。ご覧になっていかがでしたか?
中山)副大統領候補を選ぶ際に黒人票を抑えに行くのか、民主党のなかで左派がかなり盛り上がっていますが、左派を抑えに行くのか、2016年に本来は民主党が取れたはずの州を抑えに行くのか。中西部ですけれども、その3つくらいの選び方の基準があったと思います。カマラ・ハリスさんはアフリカ系ということで、インド系の血も混ざっていますが、あれは自己申告制というところがあります。自分はアフリカン・アメリカンだと規定しているので、アフリカ系アメリカ人のファクター要素を重視しつつも、演説を聞いてみると、総合得点が高かったという気がします。左にブレているわけでもなく、民主党の真ん中という感じがします。女性で黒人で、アジア系の血も入り、上院議員としての経験もあるということで、総合得点が高いために彼女が選ばれたというイメージを、演説でも示すことができたと思います。
飯田)今回の演説は、「お母さんがインドから来て」という、出生のルーツのような話を中心にしていましたよね。
中山)カマラというのはインド系の名前ですし、第一義的には黒人だと思うのですが、アジア系としてここまで来るのは初めてなので、アジア系も民主党にとって重要な票であるため、そこを抑えに行ったと。普段、政治に関心を持っていない人は、政治家としてのカマラ・ハリスさんをよく知らないので、昨日の演説は自己紹介的な意味もあったのではないですかね。あまり政策の細かいところに入り込むような演説ではありませんでしたが、うまく自己紹介できたのではないでしょうか。
つなぎの役割のバイデン氏~2024年の筆頭候補というハリス氏の存在
飯田)そして、いよいよバイデンさんの演説ですが、どういうものになりそうですか?
中山)アメリカを1つにまとめるというもの、トランプさんを乗り越えて新しい時代をつくって行かないと、アメリカの民主主義そのものが脅かされるというメッセージになると思いますね。ただ、またハリスさんに戻ってしまいますが、バイデン氏はあくまで次につなぐ役割だという位置づけなので、ハリスさんの演説を見ていて、バイデン氏の次にこの人が来るのだろう、そして意外と早くそういう日が来るかも知れないということも、可能性としてはあります。2024年にもう1回バイデン氏が再出馬するというのは、年齢的に考えにくいことです。
飯田)大統領選に今回受かったとしても。
中山)受かったら、普通は2期目を目指します。しかし、バイデン氏の場合は難しいだろうと多くの人が思っています。ハリスさんの演説は、少し普通の演説とは違う。場合によっては、2024年の民主党の筆頭候補になるかも知れない人物の演説を聞いているのだろうと。バイデン氏は、いまの状況を乗り越えて行かなくてはならないという大きなメッセージを掲げつつも、長期的なアメリカのリーダーとしての役割を期待するという雰囲気は、民主党支持者の間にさえもないだろうという気がしますね。
弱点であるバイデン氏の高齢というイメージをどう押し返せるか
飯田)そうすると、その辺りをトランプさんは突いて来ますね。
中山)トランプ大統領自身も決して若くはないのですが、年齢の効果というのは、人によって現れ方がさまざまではないですか。予備選挙のときにバーニー・サンダースさんという左派の候補がいて、彼はバイデン氏よりも年上で、キャンペーン中に心臓発作で入院したりもしましたが、彼の年齢が問題になることはほとんどありませんでした。エネルギーがあり、頭も切れていて、演説にも力がありましたから。しかし、バイデン氏の場合、ときとして失速しているように見えたり、無表情でステージ上に立っていることがときどきあるのです。「この人が本当に大統領の職を担えるのか」という不安は、おそらく民主党員の間でもなくはないと思います。キャンペーンは11月3日まで続きますが、その間にどうやってそのイメージを押し返して行くかというところが、バイデン氏からすると大きな課題となっているのではないでしょうか。ただ、周りもそのことをなかなか言いにくいと思うのですよ。その辺りがどのようにコミュニケートされて行くかは、興味深いところですね。
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