バイデン政権への政権移行が難航~そこから生まれるさまざまな懸念
公開: 更新:
ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(11月20日放送)に内閣官房参与で外交評論家、キヤノングローバル戦略研究所研究主幹の宮家邦彦が出演。アメリカ上院の超党派議員が、トランプ政権が承認した「アラブ首長国連邦(UAE)への武器売却」を承認しないとする決議案を提出すると発表したニュースについて解説した。
アメリカ上院・超党派議員が「トランプ政権の承認した武器売却」を承認しない決議案を提出すると発表
アメリカ上院の超党派議員は11月18日、トランプ政権が10日に承認した「アラブ首長国連邦(UAE)への最新鋭ステルス戦闘機F35などの武器売却」を承認しないとする決議案を提出すると発表した。トランプ大統領は11月3日の大統領選の投票日後、エスパー国防長官の解任をはじめ、アフガニスタンやイラクからの米軍部隊の撤収など、政権移行期にあるアメリカの安全保障を脅かしかねない決定を次々と下していて、身内の共和党のなかでも懸念が広がっている。
飯田)F35に関しては、民主党の議員だけでなく、共和党のポール議員が共同提出者に加わっているということです。
政権移行措置に関する事務処理がまったく動いていない
宮家)議会の決議と言っても、法的拘束力があるものとないものがあって、おそらくこれはないものです。だからトランプ政権にとっては痛くも痒くもないのですが、こういうものが出て来るということ自体が、「トランプさん、冗談ではないよ」とみんなが思っているということです。トランプ大統領は負けただろう。負けたならば、負けた大統領らしくしろと。バイデンさんは「無責任だ」と言っているそうですが、その通りです。
本来ならば、法律に従って、政権移行措置が始まり、政府職員が最大4000人入れ替わるのです。そして、そのなかの1200人は上院の承認が必要な高い地位の人です。それを、政権移行チームが仕切るのです。バイデンさんの政権移行チームのメンバーリストを見たけれども、各省庁すべてですから、全体で何百人もいます。その人たちが一生懸命人を探して、誰を閣僚にするか、副長官は誰にするか、次官はどうするかなどと考えなくてはならない。同時にいままで前政権が何をやって来たのかを知って、それを引き継がなければならない。これから政権入りする人々にはセキュリティクリアランスがないので、そのための手続きもやらなくてはいけないしとにかく、膨大な事務処理があります。それが11月4日からまったく動いていないのです。
政権移行が難航することによって起こり得るさまざまな悪影響
宮家)2000年のブッシュさんとゴアさんのとき、フロリダで票を数え直すということがあって、大騒ぎになりました。あれで全ての動きが35日間も止まっていたのです。そのために政権移行手続きも大幅に遅れて、その結果9.11が起きたのではないかと言われているくらい、大きな影響が起こり得るわけです。私がもし敵対国なら、アメリカの政権移行がうまく行っていないということで、「これはチャンスだから何か試してみよう」、または「何かやってしまえ」ということも考えないとも限らないだろうと思います。そういう意味では、こういう形で上院の決議案が出て来るということ自体、いまは正常ではないということです。
飯田)報道が本当にいろいろ出ていて、どこまでが真偽かというのはありますが、トランプさんがイランへの攻撃も含めたオプションを検討したというような報道もありました。
宮家)バイデンさんはイラン核合意に戻ろうとするから、そこで今の段階で攻撃して米イラン関係を混乱させてしまえば、バイデンさんもそれどころではなくなるだろうと。トランプさんなりに既成事実をつくろうとしているわけです。しかし、いくら何でもそれはないだろうと思います。何の根拠があってイランを攻撃するのか。いままでも相当、無理筋がありましたが、こんな無理筋はないですよ。やはりトランプさんには統治能力はないですね。今が潮時だと思うのだけれども、まだ政権にしがみついている。これではアメリカの国益を害しているだけだと思いますけれども。
飯田)そのアメリカの覇権に対して挑戦しようとする国々は、思い浮かべるだけでも東アジアにもあるし。
宮家)そのような国は喜んでいるはずです。アメリカが動かなければ、その間に彼らにもやりたいことがあるのです。いままでは、「そっとやろう」としていたのが、今は「堂々とできます」から。
自由で開かれた地域を守るための日本の役割
飯田)そういうなかで、日本は板挟みのようなことになるのか。
宮家)板挟みもそうですが、日本の国益というのは貿易立国、海洋国家ですから、自由で開かれた地域があって、そこで船が自由に動ける世界をつくる。そういう世界をいままでアメリカを中心に守って来たのだけれども、それをアメリカがやらないなら、代わりにアメリカ以外の国々みんなでやるしかないということです。その1つの動きがTPP11であり、先日の日豪首脳会談です。豪州の首相が飛んで来るというのは、アメリカは頼りにならないというのではないけれども、中国のことを考えたら「日本も頼りになる」ということです。そういう形で日本が果たすべき役割はあると思います。中国と喧嘩をしろということではありません。あくまで自由で開かれた地域を守るためというのが前提だと思います。
バイデン政権になっても「自由で開かれたインド太平洋」は変わらない
飯田)いま宮家さんは「自由で開かれた」と強調してお話しされました。一方でバイデンさんと菅さんが会談したときに、バイデンさん側の文書に「フリーアンドオープン」の部分がなくて、「安全で繁栄した」というような表現をしました。
宮家)深読みしようと思えばそうなのですが、よく考えてください。いまアメリカでは「政権移行プロセス」が起きていないわけです。あの電話会談だけでなくバイデン陣営が発表した文書も、おそらく国務省は関与していないのです。
飯田)なるほど。では公式というものではないと。
宮家)おそらくバイデンさんの周りの、安全保障の専門家たちが書いたのでしょうけれども。そこで、フリーアンドオープンをあえて違う表現にしたのかどうか。しかし、「インド太平洋」という言葉が出て来た時点で、もう同じなのですよ。
飯田)自由でオープン。
宮家)「自由か、オープンか、繁栄したか」どうかは、いろいろな言い方があると思いますが、目指しているものは同じだと思います。
飯田)日本としては、それこそ外務委員会で茂木大臣の答弁などもありましたが、「自由で開かれたインド太平洋」という旗は決して降ろしたわけではないと。
宮家)まったく降ろしたわけではないし、アメリカの公式文書に載っていますから、おそらくバイデンさんになっても、国務省が入って来れば同じ文書になると思います。あまりそこを深読みしても仕方ないと思います。今回の電話のやりとりに国務省が深く関与した訳ではありませんから。
中国に対する厳しい姿勢も変わらない
飯田)アメリカの中国戦略についても、いまの流れを引き継ぐということになりますか?
宮家)日本と違って、国務省の上層部は人がガラッと変わります。
飯田)一気に戦略が変わる可能性もあるということですか?
宮家)一気には変わることはありませんが、表現、ニュアンス、アプローチの仕方などは変わると思います。でも、それで我々が一喜一憂してはいけないと思います。根本的な政策を変えられたら困りますが、そこまでは行かないと思います。
飯田)日本としては、もうこの「自由で開かれた~」という旗を掲げて。
宮家)そうです。ここに書いてあるではないかと。同じではないかと、私は米側が表現を大きく変えるとは思いません。
飯田)そういう価値観のようなものの共有というのは、いままでもアメリカも乗って来たものだし、この先も、そこは逆に反論できないですよね。
宮家)中国に対する姿勢は、オバマ政権の2期目からすでにかなり難しくなっていますから、大きな流れは変わらないと思います。
番組情報
忙しい現代人の朝に最適な情報をお送りするニュース情報番組。多彩なコメンテーターと朝から熱いディスカッション!ニュースに対するあなたのご意見(リスナーズオピニオン)をお待ちしています。