ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(12月2日放送)にジャーナリストの佐々木俊尚が出演。中国が施行した輸出管理法について解説した。
中国が輸出管理法を施行
中国は12月1日、安全保障上重要だとみなした製品などの輸出規制を強化する輸出管理法を施行した。中国企業に対するアメリカからの圧力に対抗することが狙いとされているが、実際の運用がどのように行われるかは不透明で、日本企業への影響も懸念されている。
飯田)中国が運用で何かして来ることは、今回が初めてではありません。レアアースが日本に輸出されないこともありました。
世界貿易の中心的存在になりたい中国
佐々木)尖閣で海保の巡視船と中国船が衝突して大騒ぎになったときでした。アメリカがファーウェイを禁輸しましたよね。今回は、そのことに対する対抗措置だと思いますが、ただすぐに運用することはないだろうというのが大方の見方です。なぜならこの話が出ている一方で、中国がRCEPに参加しました。同時にTPPも加入したいと習近平さんが言っていて、国際的な自由貿易の枠組みに参画しようとしています。それを考えると、アメリカとデカップリング、経済を分断して半分に割ってという話をトランプさんは言っていましたが、中国にはその気はありません。中国は世界貿易の中心に自分たちを置きたいのです。トランプさんはそもそもグローバリゼーション、自由貿易が嫌いでした。だからTPPも入らなかったですし、2国間の貿易だけにしか興味がないという昔の重商主義のような古い考え方でした。そのときに中国の習近平さんは、「自由貿易の守護神は我々である」というようなメッセージを明確に打ち出して来ました。
飯田)国際会議で言っていましたね。
佐々木)数字だけで見ると、RCEPに加えて中国がTPPに入れば、両方合わせると19ヵ国、全世界におけるGDP比率は34%になります。その3分の1はRCEPとTPPで取ってしまいます。一方で、アメリカが占めているGDP比率は25%です。
飯田)1国で25%はすごいとはいえ。
佐々木)ですが、RCEPとTPPの方が強いです。バイデンさんはTPPに入りたいと言うかも知れませんが、わかりません。なぜなら2022年の中間選挙、改選される上院議員の選挙区はラストベルトです。自由貿易によって痛めつけられたと言われている重工業地帯と農業地帯が主な激戦区です。その人たちは、当然TPPには反対です。そうすると、バイデンさんは2022年までは「TPPに入りたい」とは言えません。
飯田)その選挙が終わるまでは。
RCEP、TPP共に気が付くと中国主導になっている可能性も
佐々木)この間に中国がTPP加入を果たしてしまうかも知れません。TPPはもともとアメリカが入る前提で、アメリカに譲歩してかなり制限を課していました。しかし、アメリカがいなくなったので、日本が中心になって制限を緩くしました。それに中国が入ってしまえば、TPPは盤石なので、いまさらアメリカに合わせて制限を厳しくするというオプションはなくなる可能性があります。そうするとTPPにアメリカが入りにくくなる可能性の方が高いのです。そうなると、日本はRCEP含めてTPPも日本が率いていると思っていますが、気が付いたら中国主導になっている可能性はあります。
飯田)そのTPPは貿易の面だけでなく、国内の資本の自由化や規制を恣意的にやってはいけないなどという規制をやっていますが、中国が入って骨抜きにされてしまう可能性もあります。
佐々木)可能性はありますよね。中国は日本の高度成長時代の護送船団貿易をなぞっているのではないかと思います。世界に対して「ものは売りまくるけれども、自国内は守る」というやり方を取っていますよね。そこをうまく中国は巧妙にTPP、RCEPにも維持するのではないかという危険性はあります。
飯田)表向きは開けたように見えるのだけれども、というところですね。
佐々木)見えないところで。
飯田)今回のRCEPの交渉でも、表向きは「海外からの資本も受け入れる」と言っていますが、あそこは合弁会社をつくっても、そこに共産党組織を入れなければいけませんよね。そうすると、そこの部分から手を突っ込んで来られたら、どうするのでしょうか。
佐々木)合弁会社をつくって、いろいろな技術を海外から取り入れたら、その技術を使って国内に別会社を立ち上げて、換骨奪胎するケースが過去にたくさん起きています。
飯田)政府が吸い上げたわけでなく、子会社に持って行き、「そこがやっているだけですから」という。
今後、自由主義陣営が中国に対抗する力を持ち得るのか
佐々木)抜け目ない中国商人的な発想があるので、油断できません。中国の国内市場の大きさを考えると、今後、中国中心になるのは引き返せない事実なのではないでしょうか。過去アメリカ、ヨーロッパを中心とする「自由主義陣営と対抗勢力」であった構図が、第2次世界大戦では枢軸国対アメリカ、イギリスとなりました。結局、ドイツにしろ日本にしろ、経済的には脆弱でした。ドイツは第1次世界大戦で負けてボロボロになっている状況のなかで、ヒトラーが台頭して来てやり返そうとしました。日本は石油も何も持っていなかったのでABCD包囲網でボロボロになりました。ボロボロになったから仕方がないので戦争したのです。これが大戦後はソ連とアメリカという冷戦構造になりました。当初、ソ連は経済面が強かったのですが、社会主義体制で工業生産も脆弱で、最終的にソ連が崩壊したのはイデオロギーではなく、経済で負けたのです。結局、「自由主義陣営対その他の勢力」で言うと、経済面でアメリカ、ヨーロッパが圧倒的に強かったということが勝因でした。ところが今回の米中の新しい冷戦と言われている対立構図は、過去2回と違います。なぜなら、中国は国内市場が巨大で技術的にもいまや高度化しているとなると、経済的に圧倒的に強いのです。おそらくGDPもアメリカを遠くない将来、抜くであろうと言われています。その状況のなかで、自由主義陣営が中国に対抗する力を持ち得るのかというと、難しいです。しかも今回のTPP、RCEPで完全に世界経済の中心になりつつある状況です。ここに政治がどう対抗するのか、日本はどうするのでしょうか。
飯田)その危機感があるからこそ、オーストラリアや日本、インドというところが組む話になっていますね。
佐々木)自由で開かれたインド太平洋ですね。
飯田)自由民主主義というものが、経済発展とイコールだった幸せな時代が終わりかけていますね。
中国のように中央でコントロールした経済の方がうまく行っている
佐々木)20世紀はそうだったのですが。そもそも民主主義と経済成長が不可分であるというのは、19世紀に、欧米列強が自己正当化するためにアジア、アフリカを植民地化して来たという背景もあるので、イコールとは言い切れません。いまだに欧米の論調を見るとそこを不可分だと言っている人がいますが、中国のあの成長を見ると、結局、中央でコントロールした経済の方がコロナもそうですが、現状うまく行っています。それに対して「いや、自由で民主主義は大事だ」と言い切れなくなっています。
飯田)新興国のなかには、それに魅力を感じて寄っている国々が出ています。
佐々木)独裁政権が増えると危機感があるといろいろな人が言っています。一方では、「それでも経済は成長できるロジックがある」と感化されている感じがします。
飯田)そこをどうロジカルにも、経済的にも対抗できるか。
佐々木)「哲学的には、もう乗り越えられないのではないか」という話も出て来ています。
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