朝鮮労働党大会~北朝鮮が明確に敵対的な姿勢を示せる国家は日本だけ
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ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(1月7日放送)に慶応義塾大学教授・国際政治学者の細谷雄一が出演。1月6日に平壌で開会した朝鮮労働党大会について解説した。
朝鮮労働党大会~「目標を達成できなかった」と認めた金正恩労働党委員長
北朝鮮の朝鮮中央通信は1月6日、平壌で第8回朝鮮労働党大会が開会したことを伝えた。党大会は2016年5月以来、約5年ぶりとのこと。金正恩労働党委員長は開会の挨拶のなかで、昨年(2020年)までの国家経済発展5ヵ年戦略が掲げた目標の「ほぼすべての部門で遠く達成できなかった」と経済不振を認め、国力強化と人民生活の向上に取り組むと強調した。
飯田)アメリカの大統領選には言及がなかったということだそうですが、いかがでしょうか?
細谷)トランプ政権で北朝鮮はかなり難しい判断、決断をして、「アメリカと交渉して和解をする」という方向へと進み、それに対してトランプ大統領が応えた。当然ながら、トランプ大統領が大統領選挙で勝って、従来の路線の継続ということを強く望んでいたのだと思います。結果としてバイデン政権になったということで、現段階では、北朝鮮がこれからどういう方針で行くのかについては、まだ明確な方針は立てにくいと思います。
飯田)なるほど。
細谷)さらにコロナの問題があります。閉鎖的な国家は人の交流が限られていますから、感染拡大に関しては閉鎖国家の方が感染しにくいところはあるのですが、北朝鮮は医療体制が脆弱だということが指摘されています。国内で感染が拡大してしまうと、とてもいまの北朝鮮の医療体制では対応できない状況だと思います。そういう意味では、現段階ではまだ経済的にもコロナの対応でも安定しているのだと思います。今回は労働党大会で誰もマスクを着けていません。これは、感染対策が上手く行っていることを世界にアピールする目的があったと思いますが、感染が拡大してしまうことに対する強い警戒心も伺えるのだろうと思います。
中朝関係が安定化することによって、政治的、経済的にも安定化を実現しつつある
飯田)同盟国としては、中国がありますが、コロナによって、「ワクチンを融通して欲しい」というような、中国頼みの部分がより鮮明になって来るのでしょうか?
細谷)おっしゃる通りですね。いま北朝鮮は、逆に言えば中国との関係をある程度、安定化させることによって、経済的な苦境を乗り越えるという方針だと思いますし、中国の影響力が確実に東アジアで広がっていると思います。言い換えれば、米朝交渉をしたということは、部分的には、北朝鮮のなかに「アメリカと交渉することによって、中国に対する不信感を示す」という意図もあったと思います。それが、中朝関係が安定化することによって、政治的にも経済的にも、安定化というものを実現しつつあるということです。
バイデン政権の方針を見ながらアメリカへの対応を考える北朝鮮
飯田)北朝鮮への対応というのは、オバマ政権の8年間は、戦略的に無視するというようなことを言っていました。その結果、深刻になって北朝鮮の核開発が進んでしまったようにも思えるのですが、バイデン政権になって、どうなるとお考えになりますか?
細谷)オバマ政権のときの北朝鮮政策は、失敗だったと思います。放置することによって核開発を進めた、そして進めたことに対して強硬な態度を取るわけでもないですし、交渉するわけでもない。トランプ政権は北朝鮮の核があるということを、ある意味認めた上で、それを交渉によって何らかの解決案を模索して、動かそうとしたわけです。バイデン政権になり、オバマ政権に戻るのか、あるいはトランプ政権での延長線上に政策をつくって行くのか。いまの段階では明確な方針はまだ立てていないと思いますので、それを見ながら北朝鮮も対応を考えるという形になるのではないでしょうか。
コロナ対応に集中せざるを得ないバイデン政権~日本はアジアでの政策の判断が難しくなる
飯田)日本としては、拉致被害者の方々全員に帰国してもらうという方針は、菅さんになっても変わっていないと思うのですけれども、バイデンさんになると、そこも変わって来るのではないかという話もありますが。
細谷)バイデン政権は、最初の1年~2年は、徹底して国内のコロナ対策に集中せざるを得ないと思います。言い換えれば、アジアに対して、または対外政策に関しては、トランプ政権に比べると弱い政策になると思います。いろいろとトランプ政権に関する批判はあると思いますが、対中政策や対朝政策に関しては、バイデン政権になって、むしろ不安定化する要因が増えるのではないでしょうか。つまりは中国や北朝鮮が積極的に動いて来る可能性が高まりますから、日本としても、トランプ政権以上にアジアでの政策の判断が難しくなると思います。
北朝鮮が明確に敵対的な姿勢を示せる国家は日本だけ
飯田)北朝鮮に絞って言うと、拉致の問題と、そして我が国はミサイルを撃たれたという経緯があり、そこでイージス・アショアをやることも決まっていたのですが、これが中止になった。どう守って行くかというのも、今後の大きな議論のポイントにならざるを得ないですよね。
細谷)いまの北朝鮮は先ほど申し上げた通り、相当、経済的、政治的に中国に依存している。それでアメリカとの関係では、トランプ政権のときに関係を改善させるという方向性に動いています。そして文在寅政権は徹底して、南北融和路線を取っています。そうすると、いまの北朝鮮が明確に敵対的な姿勢を示せる国家は、日本だけなのです。対外的な強硬路線を出すときに、ミサイルの発射実験もそうですが、日本を威嚇するということは、これからも続くと思います。それに対して、日本はどう対応するか。横も見ながら、つまりはアメリカの政策や中国の政策、韓国の政策を見ながら動かざるを得ないところもあります。難しいとは思いますが、日本は徹底して北朝鮮のミサイルに対して防衛体制を固めて行かなければならないと思います。
飯田)具体的にイージス艦的なものをつくる、または敵基地攻撃能力など、いろいろなことが言われていますが、まだ正確な方針が固まったわけではないという感じですか?
細谷)いま北朝鮮は軌道が変わる弾道ミサイルも開発していますので、そうすると、ほとんど無効化してしまう。しかも、飽和的な状態で、大量に発射するとまったく対応できませんから、おそらく従来の発想の延長戦上では防衛はできないと思います。
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