阪神・佐藤輝に高津監督が仕掛けた「ゴジラ並みの対策」
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話題のアスリートの隠された物語を探る「スポーツアナザーストーリー」。今回は、3月17日のオープン戦で通算6号ホームランを放った阪神のドラフト1位ルーキー・佐藤輝明選手にまつわるエピソードを取り上げる。
『「すごい、いい感触でした。芯だったので入るかなと。遠くへ飛ばせるのは、自分の持ち味なのでよかったんじゃないかなと思います」』
~『サンケイスポーツ』2021年3月18日配信記事 より
「え、また打ったの!?」……そんな言葉をオープン戦中、何度聞いたことか。17日、メットライフドームで行われたオープン戦・西武-阪神。この日、6番・右翼で出場した阪神期待のルーキー・佐藤輝明(22、近畿大)は、2回の第1打席、カウント1-1から、西武・今井達也の外角高め、150キロのストレートをバットの芯でジャストミート。打球は右中間スタンド上段で弾み、球場はどよめきに包まれました。
3試合連発の6号ソロで、1972年、近鉄・佐々木恭介と並んでいたドラフト制以降のオープン戦新人本塁打記録をおよそ半世紀ぶりに塗り替えた佐藤輝。17日時点で、12球団トップの“オープン戦本塁打王”です。ドラフト制以前の記録を見ても、1959年の王貞治(5本)を超え、もう1本打つと1958年の長嶋茂雄(7本)の記録に並びます。
しかし、キャンプ時から大器の片鱗は見せていましたが、まさかここまで打つとは……。試合後の本人のコメントも“大物”でした。
『福岡から始まったホームラン伝説は、ついに日本新記録となった。ただ本人は「オープン戦なので関係ないと思います。一喜一憂せずに、次にやるべきことをしっかり準備したい」とキッパリ。その目はすでに、シーズンを見据えている。
「チームが勝つために、シーズンに入っても(ホームランを)打ちたいと思います」』
~『サンケイスポーツ』2021年3月18日配信記事 より
まだ公式戦経験のない新人とは思えない完璧なコメントで、あっぱれ! と言うほかありません。しかも佐藤輝が本塁打を打つと、阪神は5勝1分け。ルーキーにつられるように阪神打線も好調で、チーム本塁打数17本は12球団トップ(17日時点)。ソフトバンクと並ぶオープン戦首位の立役者は、間違いなく佐藤輝です。阪神ファンは「サトテル神社」を建てたい心境でしょう。
これだけ打てば、セ・リーグの他5球団は当然マークして来ます。佐藤輝本人も「オープン戦なので関係ないと思います」と語っているとおり、はたしてその実力はいかほどのものか、相手が試したフシもあります。
16日に神宮球場で阪神と対戦したヤクルト・高津臣吾監督は、佐藤輝に対しインコース重視の配球を指示しました。佐藤輝は、外角の球は長いリーチを活かしてスタンドまで運べるが、内角を突かれると弱いのではないか、とみられていたので、対応力を確かめたのです。
この試合、佐藤輝は5度打席に立ち、ヤクルトバッテリーは指示どおり、徹底して内角を攻め続けました。第1打席は内角低めの真っ直ぐで中飛。第2打席は内角のカーブで空振り三振。第3打席は内角高めの浮き球を本塁打にされ(オープン戦5号)、第4打席は内角のカットボールをライト前へ。第5打席は内角の真っ直ぐで空振り三振。
5打数2安打・1本塁打という結果に、高津監督は試合後、こう語りました。
『「ある程度答えは出たんじゃないですか」。指揮官は不敵に笑った。
「あとは投手が(捕手の要求通りに)投げられるか、投げられないかですね。開幕してからどうやって抑えていくかが一番になる」』
~『デイリースポーツ』2021年3月17日配信記事 より
ヤクルトは開幕3連戦、阪神と神宮で戦います。この試合はその前哨戦。高津監督は、佐藤輝のデータを取るのと同時に、自軍のピッチャーがサインどおり攻められるかチェックしたわけです。「本番では、そう簡単に打たさないよ」という宣言でもありました。
実は高津監督は現役時代、ヤクルト・野村克也監督(当時)に命じられ同様の経験をしています。1993年5月2日、東京ドームで行われた巨人-ヤクルト戦。巨人の高卒ルーキー・松井秀喜は7番・左翼で先発出場。松井はこれが1軍2試合目でした。
ヤクルトが3点リードして迎えた9回、クローザーとしてマウンドに立った高津は、2死一塁の場面で松井を打席に迎えます。カウント2-1から、捕手・古田敦也は「内角にストレートを投げろ」というサインを出しました。野村監督の指示です。
『この場面は「松井はインコースを打てるのか?」を探る意味と、「僕のストレートが18歳の高卒ルーキーに通用するのか?」を探る意味があったと、あとで聞きました。でも、当時の僕はそんなことは知らなかったので、「ストレートを投げろ」という古田さんのサインに何度も首を横に振ったんですけど、一向にサインが変わらず、仕方なく投げたストレートを打たれました。あの場面は、変化球なら抑えられる自信があったんですけどね(笑)。』
~『Sportiva』2019年5月14日配信記事 より
松井は、高津が投じた内角低めの真っ直ぐをとらえ、弾丸ライナーで右翼席中段に叩き込みました。これが松井のプロ初本塁打です。2ランで4-3に迫られましたが、高津は後続を断ち、試合はヤクルトが勝利。野村監督は先のことを考え、ホームランを打たれても逆転されないこの場面で、松井の実力を試してみたのです。またこの試合は、高津にとって記念すべき「プロ初セーブ」のゲームになりました。
あれから28年。今度は自分が指揮官となって、指示を出す側に立った高津監督。実戦データをもとに対策を練って来るでしょうし、それに佐藤輝はどう対応するのか? 本番が非常に楽しみです。そして、相手に松井並みのシフトを組ませるこのスーパールーキー、やはりただ者ではありません。