イランが中国と包括協力協定を結んだ本当の理由
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ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(3月29日放送)に元内閣官房副長官補・同志社大学特別客員教授の兼原信克が出演。中国とイランが25年間の包括協力協定を結んだというニュースについて解説した。
中国がイランと25年間の包括協力協定調印~新たな枢軸を模索する中国
中東歴訪中の中国の王毅国務委員兼外相は3月27日、訪問先のイランで25年間に及ぶ中国とイランの包括的協力協定に署名した。中国は少数民族ウイグル族の弾圧や経済的威圧などで、イランは2015年の核合意をめぐって、それぞれバイデン政権と対立しており、対米共闘を強化する狙いとみられている。
飯田)王毅さんはトルコへ行ったりイランに行ったりと、ここのところ中東を回っているようですが、以前から中国側はオファーしていたようですね。
兼原)中国はアメリカの西側周辺から切り崩して行くのですよね。いちばん中国に寄って行きそうなのが、クリミア併合で制裁を受けているロシア、核合意の関係で金融制裁が復活してしまったイランです。これがアメリカの制裁を受けていて、手を結ぶところが他にいないのです。市場と資本をどこかで探そうとすると、中国しかいないのです。中国からすると、そこが狙い目で、新しい枢軸になるのです。中国、ロシア、イラン、北朝鮮と。
中国を利用してアメリカとの核合意をいい条件にしたいイラン
兼原)しかし、イランが本当に中国と手を結んでアメリカと戦うかと言うと、そうではなくて、イランは核合意でいい条件を取りたいわけです。バイデン政権は交渉すると思いますので、そうするとポジション強化になるのです。「アメリカに袖にされても中国に行けるからね」と言いながら交渉すると、自分の交渉の腰が強くなる。イランはイランなりの思惑があって中国と付き合っているのだと思います。中国もイランからたくさん石油を買えるわけではありません。アメリカの金融制裁を受けた会社は基本的にドルが使えなくなります。銀行が倒れてしまうのです。そこは相手の限界があると思いますけれどね。
飯田)イラン側もこの制裁でかなり経済が厳しくなっていて、まもなく選挙なので、どこかで手を打たなければいけないという台所事情を指摘する向きもありますよね。
経済制裁を解いてもらいたいイラン
兼原)あります。イラン人はアラブ人と違ってあの辺の中国人ですから。
飯田)あの辺の中国人。
兼原)イスラム化する前は「飲めや歌えや」の人たちなので、お金にはとても厳しいのです。年間の原油の輸出代金が約3兆円です。これがアメリカの制裁で止まっているので、イランで油を買った国の銀行は潰れるのです。アメリカの金融制裁とはそういうことですから。この3兆円を取り返したくて仕方がないわけですよ。
飯田)いろいろなところを凍結されて残ってしまっている。
兼原)イラン人は「飲めや歌えや」の人たちなので、あの金を早く取り返せという圧力がかかるのです。それでイランはイランで交渉をしたいと思っているのです。すごく難しい交渉になりますけれどね。
オバマ政権時代に結んだ「核合意」より厳しくしないとまとまらない
飯田)バイデン政権としては、オバマ政権時代の合意よりも厳しいものにしたいのですか?
兼原)オバマ合意というのは、「生煮え」と言われています。核合意自体はいいのですが、サンセットと言って、「合意が切れたときには、イランはいい子になっている」という前提なのです。「なっているわけがないでしょう」とネタニヤフさんが怒っているわけですよ。「この合意が切れたときに、また核をつくり始めるぞ」と。
飯田)10年猶予しただけのような話ですものね。
兼原)ミサイル開発については野放図なので、新しいものをつくっています。あとイランは周りに悪さをするのです。ヒズボラというのがレバノンとシリアにいて、イラクのシーア派民兵というのが実はイランの子分です。あとはイエメンでアンチ・サウジアラビアと戦っている連中もイランの息がかかっているので、これをやめろとなるのですよ。これを全部やらないといい協定にはならないと言われていて、オバマさんのときにやった生煮え協定からもう1段階厳しくしないとまとまらないのです。
勢力圏を拡大しようとする中国~頭はまだ19世紀
飯田)一方中国ですが、「新冷戦」という言葉もだいぶ浸透して来ていますけれど、このまま突っ走って行く感じになるのですか?
兼原)中国は登り坂の国なので、拡張主義が出るのです。あれは動物的なもので、強い国というものはどうしても広がろうとします。止まらないと思います。自分たちの当然の権利だと思っているのですよね。登り坂の国ですから、勢力圏を拡大するのだと本気で思っています。
飯田)登り坂の先には当然、既存の大国が控えているわけですよね。
兼原)その大国が2回大戦争をしているので、もうやめようとグローバリゼーションになっているのですけれど、中国はまだ頭のなかが19世紀なのです。富国強兵、これがいちばん。「その後、どうするか」ということは考えたことがないという段階ですからね。昭和前期の日本に似ていて、とにかくいちばんになって見返してやるということしか、頭にありません。この人たちは力を使うので、危ないですよね。
中国に対抗するためにヨーロッパとクアッド、ASEANの合体チームが組めるかどうか
飯田)これに対してどうカウンターを当てるかというところですか?
兼原)2028年~2030年の間にアメリカの経済を抜くと言われているので、止まらないのです。ダンプカーのようになっていて止められない。そのまわりを小さな自家用車がたくさん囲んでいるような状態です。対抗するダンプがアメリカの1台だけになるので、どうやって全体で隊列を組んで中国がガードレールにぶつからないようにするのかというのが、バイデンさんに求められていることです。トランプさんは自分で勝手に運転していたので、ダンプ対ダンプでガンガンやっていたのですけれど。
飯田)バイデンさん、あるいはアメリカの力というものが、いまはまだあるのですか?
兼原)いまはまだあります。10年後もあると思いますけれど、米中が並んでしまうので、ヨーロッパと日本とインドと豪州、韓国、ASEANをすべて合わせれば、中国の倍以上の大きさになりますから、このチームが組めるかどうかなのです。なかなか大変です。ヨーロッパからは中国が見えないのです。お金しか見えません。ロシアは大きいからNATOと日米同盟の両側が見えていたのです。しかし中国はヨーロッパから見えないのですよ。中国は恵まれていて、上がシベリアで西が砂漠で南がヒマラヤなので、全力で台湾に出て来られるのです。
飯田)出るとしたら東側に出て行くという。
兼原)日米しかいないのですよ。ヨーロッパはそれが見えないですからね。ヨーロッパだとプーチンさんが怖いと言うのですよ。
飯田)ロシアが怖いと。
兼原)これをまとめるのは大変なのですよ。
飯田)そこを何とかまとめようとクアッドがあって、さらにドイツやイギリスも駆逐艦などを出そうというところですが。
香港問題で中国に対してやっと目を開いたヨーロッパ
兼原)最近やっとですね。香港はイギリスの植民地だったので、あれが潰されるとやはりヨーロッパ人は怒るのですよね。初めてヨーロッパ人は目が開いた感じなのです。台湾やウイグルはピンと来ないのです。初めてこうなったのでよかったと思いますけれどね。クアッドは、本当はチンクエ(5)でもそれ以上でもいいのです。4人しかいないからクアッドなのですよ。
飯田)なるほど。4者だからクアッドということであるという。
中国と戦うとなると前に出ないアジア各国~クアッドの4ヵ国のみ
兼原)実は韓国やインドネシアにも「来て」と言うのだけれど、価値観やODAの話をするとみんな来るのですが、「ここから先は戦略と軍事だ」という話をすると、みんな帰ってしまう。4人しか残らないのです。だからクアッドなのです。本当は別に5人でも6人でもいいのです。
飯田)安全保障の話をすると、「中国さんからどう思われるかということを考えると、うちはちょっと」と言う人がいる。
兼原)そういう方々なのですよ。町内会と一緒で、「みんなで文句を言いに行こう」と言うと帰ってしまうのですよね。「会長、お願いします」という感じになってしまうのです。
飯田)しばらくは、ここからどう伸ばすかということなのですか?
兼原)ヨーロッパは隣町から来て「大丈夫ですか?」と言い始めたので、これはとても強い味方です。特にイギリス、フランス、ドイツです。あとはブリュッセルの欧州委員会です。これがだんだん広がって来ると、アジアの町内会の人たちも「一緒に文句を言いに行く」という雰囲気にもなると思うのですけれどね。いまは「大人の喧嘩には入りたくない」という雰囲気がまだあるのですよ。アジア町内会に。
飯田)決して一枚岩にはならないと。
兼原)中国は、小さい子には怖いのです。
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