アジアの核抑止に核シェアリングを
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ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(3月29日放送)に元内閣官房副長官補・同志社大学特別客員教授の兼原信克が出演。北朝鮮のミサイル発射を受け、安保理で北朝鮮情勢の協議を要請したニュースについて解説した。
北朝鮮ミサイル発射問題、安保理で協議を要請
北朝鮮による弾道ミサイル発射を受け、イギリス、フランスなど国連安全保障理事会のヨーロッパ5ヵ国は、安保理で3月30日に北朝鮮情勢を協議するよう要請した。協議は非公式の形で行われる予定である。
飯田)下部組織の北朝鮮制裁委員会での協議というものをアメリカの要請で行いましたけれども、格上げしてということです。北朝鮮側は、この会合に「自衛権を侵害しようと試みれば、必ず相応の対応措置を誘発する」と牽制しているということです。北朝鮮のミサイル、このタイミングで撃って来ましたね。
アメリカの気を引こうと、虎の子のミサイルを発射
兼原)北朝鮮はアメリカの気を引かないといけないので、こういうことになったのです。バイデンさんは核の不拡散を真面目にやりますから、また何か交渉できると思っているのだと思いますけれどね。ただ、北朝鮮は核を持ってしまっています。イランのように持っていなければ、「持つな」という交渉ができるのですけれど、持ってしまうと、「銃を捨てろ」というところから始まるのです。銃は捨てないので、交渉ができないのです。北からすると、コロナと台風で経済がボロボロですから、少なくとも韓国から何かが欲しい。そうすると親分のアメリカに「イエス」と言ってもらう必要があるわけです。だから早くアメリカと話をしたいのですけれど、持って行くお土産がないので、悪さをするしかないのですよ。それでミサイルを撃ったということだと思います。
飯田)お土産がないので。
兼原)最近の北のミサイルは、ロシアのミサイルによく似ているのです。「イスカンデル」と言うのですけれども、イスカンデルというのはロシア語で「アレクサンダー」という意味なのですけれどね。複雑な飛び方をして、速いので、日本のミサイル防衛は歯が立たないのです。いまは短距離なのですけれど、これを撃って見せたわけです。虎の子のミサイルを撃ってアメリカの気を引いたのだと思います。
飯田)気を引こうと。
兼原)アメリカはトランプさんのときにP5+1やヨーロッパの首脳との関係をボロボロにしているので、国連を中心にして、もう1回制裁をかけて、団体戦に持ち込もうということで、国連にお願いして国連がとりまとめに入っているところだと思います。
いまの日本は「真剣白刃取り」でミサイル防衛をしているようなもの
飯田)飛び方が複雑なミサイルで、ミサイル防衛システムが難しいことを考えると、日本は「どう守るか」という根本の部分から変えなければいけないということですよね。
兼原)それは安倍総理が言われたのが正しくて、韓国も台湾も北朝鮮もみんないい弾道ミサイル、巡航ミサイルを持っているのです。それがいまは当たり前なのです。みんな鉄砲を持っているので、いまの日本の姿は武器を持たずに、1人だけ「真剣白刃取り」をやっている感じです。
飯田)真剣白刃取り。
兼原)「それでお前は大丈夫か?」と、アメリカも言っているのですけれど、日本のミサイル防衛は真剣白刃取りなのです。高いのですよ。北のミサイルは1発数百万数~数千万なのです。日本の迎撃ミサイルは1発30億円です。アメリカのトマホークだって1発2億円します。それでは絶対に全部止められません。そうすると、「撃ったら撃ち返すぞ」という抑止力、個別的自衛権の話なのです。「撃ったら撃ち返すぞ」と言わないと止まらないではないかと、真剣白刃取りで「さあ来い」というのは、無責任ではないかということを、安倍総理はおっしゃったのです。
国民を犠牲にしないということを考えなくてはいけない
兼原)私は、それは非常に正しいと思います。コスパも悪いし、全部止められないし、北朝鮮だけではなく、韓国も台湾も、「撃ったら撃ち返す、お手迎えいたします」ということを言えと言っているわけです。それであれば、長いものに刀を持ち変えないといけません。いま日本が持っているミサイルは500キロ以下ですからね、全部。やっと離島防衛用に1000キロのものを認めてもらったのです。しかし、撃ち込んでいいのは自分の島ですからね。他所に撃ってはいけないことになっているわけです。どんなに撃たれても、真剣白刃取り。それで死ぬのは日本の国民です。「国民は絶対に犠牲にしない」というところからものを考えないといけません。
飯田)確かに本音ベースで自衛隊関係の人に聞くと、結局のところ専守防衛というのは、本土決戦なのだということをわかっているのか、と言われます。
兼原)専守防衛をどうやるのかとイメージアップしている人というのは、あまりいないのです。結局、「竹やりを持って立て」という議論をする人が多いのです。それはとんでもない間違いで、専守防衛というのは国民を1人も殺させないということですからね。遠くで戦った方が得に決まっているわけです。近くに来れば来るほど、犠牲が増えるわけですから。特にミサイルは飛び道具ですからね。落ちてから考えるとか、当たる直前に止めてみせるとか、その議論しかしないというのは無責任ですよ。
アジアの核抑止に核シェアリングを
飯田)兼原さんは月刊『正論』の4月号に抑止の部分で、「周りの国は核兵器をみんな持っているではないか」というところから議論を提起されています。「アジアの核抑止に核シェアリングを」という寄稿をされていますけれども、これはどうですか? 読んでいると兼原さんは相当危機感をお持ちになっていると思いましたが。
冷戦のころ、核を持たないドイツはソ連に怯えていた
兼原)冷戦のときは、日本は恵まれていて、中国が私たちの味方に来たのです。ロシア軍の主力はヨーロッパやコーカサスにいたのです。NATOの方がヨーロッパやロシアのあちらの方を抑えていたのです。当時、ドイツは本当に怖がったのです。イギリス、フランスは核を持っていて、アメリカも持っているので、やられるのはドイツだけなのです。
飯田)ソ連は、核を持っていないドイツを標的にすると。
兼原)核を持っている国は絶対に撃ち込めませんから。撃ち返されるので、核を持っていない国にしか撃たないのです。ドイツはそれが死ぬほど怖くて、アメリカは「大丈夫」と言うけれど、ドイツはアメリカを信用していなかったのです。
NATO核のシェアリング~配備運用にはドイツに発言権
飯田)日本と同じように核の傘があるから大丈夫だと。
兼原)ドイツ人は「そんな破れ傘、いい加減にしろ」と言っていたわけですよ。自分のところにも傘を持って来いということで、NATOで管理するNATO核というものをつくったのです。これがNATO核のシェアリングというやつなのですけれど、中身は教えてくれないからよくわからないのですが、ドイツが配備運用に発言権があるわけです。NATOの加盟国としてね。
飯田)配備もそうですし、運用ということは、実際に撃つか撃たないかも含めてということですね。
兼原)自分がやられるので勝手に撃つなとか、撃つなら自分にもやらせろとか、そういう話になるわけです。核を共同管理するのです。私たちは世の中が落ち着いていたので、中国も味方に来たし、ロシア軍もそんなに数が多いわけでもないし、そうすると核は「持って帰れ」になってしまったでしょう。私たちは非核三原則の方に行ったのです。それはそれで当時はよかったのですけれど、いまは中国がやたら強くなっていて、物量でアメリカも勝てないかも知れない。2030年までの間に経済が追い付いてしまう。軍事力がやたら大きくなる。
日本はかつてドイツがアメリカとやった議論をしなくてはならない
兼原)私たちにはイギリスもフランスもいないです。ドイツもトルコもポーランドもいないわけです。韓国は中国とは絶対にやりません。北朝鮮にしか向いていない人たちですから。何かあったら、日本は1人なのです。いまはアメリカから「絶対に心配するな」と言われているのですけれど、そろそろドイツみたいに「本当ですか?」と聞かないと。「どうやるのですか」とか。アメリカが核を持つなというのは、NPT体制の親分だからなのですけれど、裏の保障の「俺が絶対に守るから」というのはセットなのです。NPTと核の保障というのは。アメリカからすると。
飯田)俺が守るからと。
兼原)アメリカはうちが「本当ですか?」と言い始めると、「必ず責任を取るから」と言うのです。だってNPTで核を持たせていないのは俺なのだからと。これがアメリカなのです。ただ日本はあまりにいい子過ぎて、ずっと核の話はしたことがないのですよ。環境が恵まれていたせいもあるのですけれど。
飯田)そうですね。
兼原)いまはヨーロッパよりも日本の方がはるかに厳しい環境になっていて、物量で押しつぶされる可能性があるのです。ドイツが必死でアメリカとやったような議論を、日本もそろそろアメリカにしなくてはいけないのではないかと思います。ロシアなどは国が大きいから、核を小さくして実際に使おうとしています。怖いですよね。
飯田)いままでは戦略核という弾道ミサイルだったけれども。
米露の「中距離核戦力全廃条約」に中国は入っていない~中距離核をたくさん保有する中国
兼原)どんどん小さくして。それにアメリカは怒っています。しかし、アメリカも付き合ってやらざるを得なくなってしまう。北朝鮮も核を持ってしまったので、こちらは何をするかわかりませんからね。中曽根さんがレーガンさんに言って、中距離核を世界的に全廃したのですけれど、中国はこの条約に入っていないのです。米露の条約を中曽根さんが仲介した形になったのですが、中距離核戦力全廃条約に中国は入っていないので、つくりたい放題なのです。だから中国は中距離核をたくさん持っているのです。
飯田)ここのところアメリカの上院軍事委員会の公聴会などで問題になっていますよね。
兼原)結局、中国の国力が上がって。中距離核はグアム、日本用ですからね、あれは。
飯田)射程を考えると。
兼原)「何なのだ」という話になるわけです。台湾だと短距離核で済むのです。「やる気ではないか」という話になっていて、米露の中距離核の条約がなくなったのも、ロシアの違反もあるのですけれども、中国ですよね。米露2人でやっても仕方がないではないかという話になっているのですよ。最近激変して来ているので、「シェアリングするかしないか」は別としても、この議論がまったくないのはおかしいのです。
有事の際、どうやって戦争を止めるのかを真剣に考えなくてはならない
飯田)抑止力と言うと、「アメリカがいるから大丈夫だ」になるか、または「アメリカ軍と自衛隊でやるから大丈夫だ」というような、「フワッ」とした議論にしかなっていないですね。
兼原)そして日本は、「中国やロシアが何をして来るのか」という議論がないのです。中国軍はもうすごく強いのですよ。外交が壊れたときに、「ご無体はおやめください、お手迎えしますからね」と止めるのが軍隊の仕事です。そのときに「考えたことがありません」と言っても、戦争は始まってしまうわけです。専守防衛論と言うのはいいのですけれども、「どうやって専守防衛をするか」ということを考えないといけません。お経みたいに、「専守防衛、専守防衛」と言っていたら戦争が起きないというわけではないですからね。どうやって戦争を止めるかということを考えないといけません。
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