これから本当の戦いが始まる~「アメリカの国防予算」宮家邦彦が分析
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ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(6月4日放送)に外交評論家で内閣官房参与の宮家邦彦が出演。アメリカの国防予算について分析した。
バイデン政権が予算教書で国防総省の予算を7150億ドル計上
アメリカのバイデン政権は、発足後初めてとなる、10月からの新たな会計年度に向けた政府の考えを示す「予算教書」を5月28日に発表。今回の予算教書では国防総省の予算として7150億ドル(約79兆円)を計上している。ここでは、外交評論家の宮家邦彦がアメリカの国防予算について分析する。
飯田)「予算教書」がバイデン大統領から議会に投げかけられたということで、「大きな政府を目指す」など、いろいろと言われております。
予算のなかでスクラップ・アンド・ビルドすることが大切
宮家)全体としてはものすごい額を増額しているのです。ただ、国防予算もしくは安全保障関連予算については1.7%しか増えていない。そうは言っても、それなりの数字なのですが、共和党からは「減額だ」という批判が出ています。でもあれだけ巨額になると、確かに増額すればそれがいちばんいいのかも知れませんが、そのなかできちんとスクラップ・アンド・ビルドができるかどうかがポイントということです。
飯田)スクラップ・アンド・ビルド。
宮家)新しい戦術ないし戦略に基づいて、新しい兵器システムがつくられて行くわけですけれども、当然のことながら、これまでの武器の中にはその構想に合わないものが出て来る。空母などは巨大で大事なのだけれども、ミサイルを100発撃たれれば沈んでしまうのですからね。違う方法で戦わなければいけないということを考えると、いろいろなシステムの中には歴史的な役割を終えたものがあるわけです。
飯田)なるほど。
宮家)でもそれをつくっている企業側、配備される基地、そこで働いている人びと、それが票になるのですが。アメリカの国内でも、特に陸軍の基地ですが、閉鎖するとなれば大騒ぎになります。そういうなかで予算をつくらなくてはいけないのだけれど、アメリカの行政府には予算編成権がない、予算案をつくる権限がないのです。勿論、予算を承認するのは議会ですが、日本のように、毎年年末になると大蔵省の主計局に主計官がいて主査がいて、そこへお願いに行くということはない。そもそもおかしいでしょう?国会が予算を決めるのに、なぜ大蔵省の主計局が全部仕切るのかと。それは日本の行政府にとって、非常に大きなメリッなのですが、アメリカにはそれがない。大統領は予算案を議会に提出できないのです。
「予算教書」はキックオフ~戦いが始まるのはこれから
飯田)これは予算案ではないのですよね。
宮家)予算案ではない。だから予算教書と言うのです。教書というのは、英語では“Message”と書いてあるのです。
飯田)そうなのですか。
宮家)だから「お願いね」と言っているだけなので、議会からは「それがどうした」と言われているわけです。あくまでも目安でしかありません。増やしたいのに減らされるのは当然だけれども、減らしたいのに増やす人が議会にはいるわけです。先ほども言ったように、地元にある基地に戦車が何百台もあって、それを補充しなくてはいけないとしましょう。そうでなければ基地がいらなくなってしまうから。そうしたら「戦車を増やせ」という声が出て来るわけです。そこがアメリカ議会のすごいところですよね。
飯田)そこで政治的な思惑なども入って来る。
宮家)だから、全てはこれからです。予算教書はゴングが鳴った合図のようなもので、キックオフです。これから本当の戦いが始まるのです。
中国と緊張関係に入った場合、必要なものに対する投資~そこに集中させる
飯田)宮家さんは国防関係の予算に関して、「やはり対中シフトだ」という解説をされていますけれども、その部分は具体的に教書のなかに入っているのですか?
宮家)教書のなかでは、どのタイミングで武器なり、兵器システムを買うかということは、数字として出て来ると思います。政策的には、別の戦略ペーパーでつくるのだと思いますが、そうした新しい戦略を反映した新しい考えに基づいた予算要求ではあると思います。
飯田)別の紙。
宮家)例えばミサイルなら、私がいちばん気になったのは、「太平洋抑止イニシアチブ」というものがあるのです。インド太平洋軍は、もっと抑止力を高めなくてはいけないと言っているわけで、中国を念頭に基金をつくり、それを増額をして、特にミサイル、衛星等々、中国と緊張関係に入った場合、絶対に必要なものに対する投資が求められている。全体の予算は伸びないかも知れないけれど、うまくスクラップ・アンド・ビルドをやって重点をそこに置けば、それなりの効果が出て来るだろうとは思います。何年か時間は必要ですけれどね。
中国との保持する中距離弾道ミサイル数のアンバランス~抑止力があればいい
飯田)アメリカ議会の外交、軍事委員会などの公聴会を見ていても、懸念として指摘されているのが、アメリカはINF全廃条約のおかげで中距離弾道ミサイルがない。一方で中国はその射程のミサイルをたくさん持っている。このアンバランスをどうするかということが議論になっています。
宮家)それは、アメリカが自分で勝手にロシアと決めたわけですからね。
飯田)冷戦末期に。
宮家)そのころは中国は入っていなかったし、取るに足らない存在だったわけです。その間に中国がミサイルを増強した。1回やり直さなければいけないということですよね。
飯田)おいそれとは、バランスは元に戻らない。
宮家)そんなに簡単ではありません。ただし、中国の艦船がもし太平洋に出て行く、第1列島線の外に出て行く場合は、例えば沖縄本島と宮古島の間を通るわけです。そのときにアメリカは「好き勝手に通そうもないな」と中国に思わせるようなことはしなければならない。完全に中国と同じ数のものを持つというわけではなく、抑止が効けばいいのです。「うまく行きそうにないな」と思わせるためには、ある程度あればいい。それがいままさに予算のなかで反映されつつあって、新しいシステムが考えられているということだと思います。
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