香港逃亡犯条例改正案反対デモから2年~現地・香港のいま
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ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(6月9日放送)に香港中文大学の石井大智氏が電話出演。中国本土への容疑者引き渡し要件を緩和する「逃亡犯条例」改正案反対の「100万人デモ」から2年が経過した香港の現状について解説した。
香港「逃亡犯条例」改正案反対デモから6月9日で2年
香港で反政府デモが頻発するきっかけとなった、中国本土への容疑者引き渡し要件を緩和する「逃亡犯条例」改正案反対の「100万人デモ」から、6月9日で2年となる。その約1年後、「香港国家安全維持法」が成立・施行され、香港当局の締め付けが続いている。香港では大規模デモから2年の節目、きょうをどう迎えているのか、現地からのリポートを交えて伝える。
ビクトリア公園での天安門事件の犠牲者追悼集会も行われず~公園の周りを蝋燭やスマホのライトを照らして歩く
飯田)現地がいまどうなっているのか。現地香港に在住、香港中文大学の石井大智さんにお話を伺います。石井さん、おはようございます。よろしくお願いいたします。まず、香港は毎年、ビクトリア公園に人が集まって、天安門事件の犠牲者を追悼し抗議するということをやって来ましたが、今年(2021年)は様相一変というところですか?
石井)そうですね。去年(2020年)も今年も、ビクトリア公園での集会は新型コロナウイルスの感染拡大を理由に、香港警察が許可を出しませんでした。去年も警察は許可を出さなかったのですが、バリケードを超えて集会は結局行われたのです。しかし、今年は去年の主催者が逮捕されてしまったということと、香港国安法などによる自粛ムード、また警察が去年より大幅に増員されていて、公園を占拠したりバリケードを越えるのが比較的難しかったのです。その結果、公園の周りで蠟燭を持つ人や、スマートフォンのライトを照らして歩く人がいたという感じですね。
黒シャツは着ず、他の色のシャツを着て公園の周りを歩く
飯田)黒いシャツを着て、連帯の意志を無言でも示そうというようなこともあったと報じられていますけれども、実際にはどうでしたか?
石井)黒いシャツを着ていると問答無用で警察に止められて、身分チェックやID番号をチェックされますので、そういうことを避けるために、あえて違う色の服を着て行くという人たちがいました。
飯田)石井さんご自身は、ビクトリア公園周辺にも行かれたのですか?
石井)行きました。私は昼から行きましたが、そのころから警察は厳戒態勢に入っていて、「何もさせない」という感じでした。皆さん仕事が終わった夜7時~8時になると集まっていて、先ほど申し上げたような、スマートフォンのライトや蝋燭を持って参加している人もたくさん居たという印象です。
中国が「ここまでやるとは思わなかった」~香港から出ようとする人も多い
飯田)2年前のきょう、100万人デモがあったときから考えると、コロナ禍ということもあって、時計の針の回り方が早くなったようにも思うのですが、どうですか?
石井)そうですね。正直な話、ここまでやるとは思いませんでした。もちろんいまの中国の政治体制を考慮すると、香港がこのように変化するということは、いまになってみればある程度納得できることですが、例えば香港の根本的な制度や選挙制度改革も行われたわけです。「ここまでやると思わなかった」というのが、多くの人の反応なのかなと思います。
飯田)変わりつつある香港を、一般の方々はどう見ているのですか?
石井)雨傘運動以降、悲観的な空気が漂っていたところ、2年前にまた盛り上がって、「もしかしたら変えられるかも」という空気が漂ったわけです。しかし、もともと悲観的な空気が漂っていたところが諦めにつながったという感じです。諦めると、香港を捨てるなり、香港から違う場所に行こうという話になるので、移住を考える人も多いというのが現在の香港における民主派の状況かも知れません。
移民ビジネスが商業化
飯田)移民を仲介するビジネスが盛んになって来ているという報道もありますが、実際にそういう広告などは目につきますか?
石井)基本的に香港人が移住を考えるときに、投資移民、特に不動産移民を考える人たちが多いのです。ですので、不動産エージェントが移民を仲介するということが多いです。移民ビジネスが非常に商業化されていて、移住を進めるような展示会やお店が街中でも見られるようになっています。
香港の若者が広東省で働くと、政府が給与の半額を助成~人が集まらず
飯田)一方で、中国本土の方ですけれども、珠江デルタ地帯を一括の経済区域としてやって行こうという話はずいぶん前からやっていましたけれども、この経済的なつながり、一体化させるという動きはどうですか? 強まっていますか?
石井)香港の弁護士資格を持った人は大陸でも活動できるようにするなど、いろいろな施策が行われていますが、新型コロナウイルスの感染拡大で行き来ができなくなっているので、必ずしも思ったようには進んでいません。最近注目されているのは、「香港の若者が広東省で働くと、政府が給与の半額を助成する」ということをやっています。地域の一体化と香港の雇用対策が1つの目的になっているのですが、全然人が集まっていないようです。
飯田)ある意味、お金で懐柔しようとしてもうまくは行かない。それはそうですよね。
コロナ収束後、公安条例やデモを規制する条例がどのように運用されるかはわからない~中央政府が完全にコントロールしているわけではない
飯田)国安法などでもかなり締め付けが強まって、諦めムードも漂っている。この先は、やはり一体化が進んで行ってしまうのでしょうか?
石井)重要なのは、中央政府は「違うロジックで動いて来た香港の地方行政を、完全にコントロールすることはできない」ということです。今年も去年もビクトリア公園での天安門事件追悼式が中止されたのは、国家安全上の理由ではなく、あくまでも新型コロナウイルスの感染拡大なのです。
今後どう動くかは中央政府もわからないし、香港の地方行政当局者もわからない
石井)マカオは国家安全上の理由でデモを禁止しているのですよ。ですので、コロナが終わったあとに公安条例がどのように運用されるか、デモを規制する条例がどのように運用されるかはわからないし、香港国安法の判決は実はまだ出ていないのです。香港の司法はこれをどう扱えばいいのかよくわかっていないところがあって、中央政府が完全にコントロールできているというわけでもないのです。香港の司法も行政も困っているのだろうという感じがします。今後どう動くかということは、実は中央政府もわからないし、香港の地方行政当局者もわからないし、外側から見ている人にはもちろんわからないという状況です。
飯田)誰が意思決定権者なのか、実ははっきりしないのですね。
政治的決断ができない香港政府
石井)香港政府というのは、植民地時代から受け継ぐ官僚的な行政組織で、官僚的に動くので、政治的思惑をきちんと捜査できていない集合体なのです。なかなか政治的決断ができないということが、問題を長引かせているし、中央政府の決断を難しくしているところはあるかも知れません。もし政治的なことを香港政府がわかっていれば、「逃亡犯条例」改正案反対運動が起きた際、中央政府と交渉して撤回すればよかったのに、それをせず長引かせたというのが、香港政府に政治力がなかったことの一例だと言えます。
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