米中デカップリングが進むとドル高になる~その背景にあるもの

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ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(6月30日放送)にエコノミストで複眼経済塾塾頭のエミン・ユルマズが出演。政府がまとめた今年の通商白書について解説した。

米中デカップリングが進むとドル高になる~その背景にあるもの

バイデン次期米大統領(ゲッティ=共同)、中国の習近平国家主席=2020年12月2日 写真提供:共同通信社

通商白書~半導体など、重要物資の技術開発と国内の生産基盤の強化が課題

政府は2021年版の通商白書をまとめ、米中の激しい対立を背景に、各国で半導体などの確保といった動きがあると指摘し、経済安全保障を強く意識したものになった。日本としても半導体など重要な物資の技術開発や、国内の生産基盤の整備を強化すべきだと提言している。

飯田)国内の生産基盤の強化、これはいままでの「積極的に海外に工場を出して行こう」という流れとは逆になりますか?

日本とアメリカに製造拠点を移す計画の台湾の半導体メーカーTSMC

ユルマズ)逆ですね。また、世界一の半導体メーカーである台湾のTSMCが、台湾もリスキーでいつ何が起きるかわからないということで、製造拠点を日本とアメリカに置くと発表しています。技術を盗まれないというのもあるし、何か有事があったときでも半導体製造が止まることはないので、日本とアメリカがいろいろな意味でセーフだということです。半導体製造が止まると、世界的に何もできなくなってしまいますからね。

5年~10年後には日米が使う技術通信方式と中国の技術通信方式は適応しなくなる

ユルマズ)米中対立と言っているけれども、新しい冷戦です。アメリカと中国というのは、敵国なのです。当然ながら、新しい世界の秩序は、それに合わせてつくられて行くことになります。そうすると、次第に中国のシステム、中国が使っている技術通信方式と、アメリカ・日本が使っている技術通信方式はかけ離れて行きます。どちらにしても、5年~10年後には完全に適応しなくなります。

飯田)互換性はまったくなくなる。

ユルマズ)なくなると思います。中国はコストで勝負して、新興国、アフリカ諸国や「一帯一路」計画の途中にある沿線国に自分の技術や方式の輸出を試みます。先進国はアメリカ・日本式のものを採用する。そういう流れになるでしょう。

デカップリングが進むと世界的にインフレになる

飯田)中国に対抗して行くということで、G7サミットのなかでも、「ビルド・バック・ベター」というところが打ち出されています。さまざまな分野で角の突き合わせが激しくなって来ています。

ユルマズ)中国で安くつくるということで、中国は世界にデフレを輸出していたのです。中国は、「人類史上最大のデフレ輸出マシン」なのです。そのおかげで、確かにいろいろなものが安くなっていた、ということはあります。悪い面だけでなく、いろいろなものを世界中の人々が安く使えるといういい面もありました。

飯田)そうですね。

ユルマズ)それが今後、デカップリングして行くと、日本やアメリカには便利なのですが、ものの価格が上がれば世界的にはいずれインフレになって行きます。特に半導体、電気製品は価格が上がります。いまは安いではないですか。

インフレの圧力が高まるとドル不足になり、ドル高傾向に

ユルマズ)その意味では、日本にとってはいい話なのですが、インフレが上がって、金利を上げなくてはならなくなるので、新興国にとっては厳しくなる可能性があります。その動きは少しずつ起きていて、先週(24日)にはメキシコ中銀が2年半ぶりの利上げをしていますし、その前にはブラジル中銀が利上げしています。ロシアもやっているし、チェコもやっています。トルコの政策金利はもう19%です。

飯田)インフレの圧力が高まって来ると、基軸通貨のドルをみんなが欲しがるという流れになるわけですね。

ユルマズ)FRBがどんなに緩和しても、世界的にはまだドルが不足しているのです。しかもコモディティ価格が上がっているということは、原油はドルでしか買えないから、現時点でドル不足になってしまっているのです。

各国は通貨安に~年内には1ドル120円になる可能性も

ユルマズ)同じようなことがトランプさんの減税のときにも起きたのです。トランプさんが減税をやったときも、アメリカの財政が悪化して、アメリカ政府が多くの国債を発行し、アメリカに1回ドルが集まったのです。市場にあるドルをアメリカが吸収したのですが、それと似たようなことがいま起きているのです。バイデンさんがインフラ計画などをやろうとしていますので、そうすると、ドル高傾向が今後強まる傾向があります。

飯田)各国の通貨で見ると、通貨安になって来る。

ユルマズ)そういうことです。年内は120円くらいになる可能性が高いのではないかと思います。

飯田)いま足元は110円台ですが。

有事の状況をつくる冷戦~有事にはドル高になる

ユルマズ)それでもみんな「円安だ」と思っているけれども、少し違うのですよ。これがパラダイムシフトなのです。冷戦というのは、常に有事です。有事というのは、基本的にドル高なのです。

飯田)「有事のドル高、有事のドル買い」と言いますね。

ユルマズ)冷戦というのは、常に有事状況をつくるのです。こういう状況なので、いままでの常識は変えた方がいいでしょう。ですので、110円というのは円安ではないかも知れません。

飯田)過去を振り返ってみると、2~3年後には「あのときは高かったね」と。

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