ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(7月21日放送)にジャーナリストの佐々木俊尚が出演。令和3年版警察白書について解説した。
令和3年版警察白書
警察庁は7月20日、サイバー空間の脅威の現状などを特集した、令和3年版の警察白書を公表した。警察が国家的関与を明らかにした例として、中国人民解放軍の関わりが浮上した、宇宙航空研究開発機構(JAXA)といった組織が狙われたサイバー攻撃などを挙げている。
飯田)警察白書のなかで、国家の関与が記されたのは初めてのことだそうです。
佐々木)関わっているというのは、ロシアなどは散々やっているし、イランの核施設にイスラエルが侵入して破壊するというような逆のパターンも起きていますので、今更かなという感じではあります。単純なサイバー攻撃でも怖いのは、世論をかく乱するようなものです。例えば、2016年にトランプ大統領が選挙で当選したときも、ロシアが介入して世論をかく乱し、トランプ大統領を盛り上げるための変なニュースサイトを開設したというような話があるではないですか。
相手国の世論を変えてしまう「シャープパワー」~中国・北朝鮮が仕掛けて来る可能性も
佐々木)ジョセフ・ナイ氏が「ソフトパワー」、「ハードパワー」という言葉を使っていたのですが、文化の力はソフトパワーで、軍事力がハードパワーです。そして第三の力として「シャープパワー」と言っている人がいる。SNSなどに介入して、いろいろな世論を盛り上げ、相手国の世論を変えてしまう、それをシャープパワーと言います。
飯田)シャープパワー。
佐々木)日本では、いままでそういう話は一度も出ていませんが、今後、そういうことをやって来る国が出て来ないとも限らない。特に中国・北朝鮮辺りが仕掛けて来る可能性はあります。
シャープパワーによって火をつけられると、一気に燃え上がりかねない日本
佐々木)日本の世論は、小山田圭吾さんをめぐる問題にしても、いい悪いは別ですが、火をつけると「ワッ」と盛り上がることが多いではないですか。もちろん小山田圭吾さんは批判されるべきなのだけれども、盛り上がり方が異常なまでに過剰なところがある。IOCのバッハ会長が広島を訪問することにまでケチを付けたりとかね。バッハ会長の味方をするわけではないけれど、そんなこと、どうでもいい話だと思うけれども。
飯田)平和の祭典だから行くということであれば、ロジックとしては成立する部分があると。ただ、そちら側の主張が紹介されず、または紹介されていたとしても大して取り上げないまま、とにかく「けしからんのだ」と。
佐々木)「ニュース激怒マン」という言葉があって、何を見てもわっと火がついたように怒る人のことなのですが、いま世の中にたくさんいます。そういう人たちが中国・ロシア・北朝鮮などからシャープパワーによって火をつけられると、一気に燃え上がるようなことも起きかねない。もしかすると既に起きているかも知れない。そういうことも考えると、要注意だという感じはします。
小山田圭吾問題~かつてサブカルで活躍した人が擁護しない理由
飯田)先の大戦のときの話に戻ると、暴支膺懲(ぼうしようちょう)であると。「乱暴な中国をこらしめるのだ」というような世論が盛り上がったときに、こちらから球を打ったらこちらが悪者にされてしまうということがあまり紹介されず、「とにかく行くのだ」というところに転がって行くような。
佐々木)世論に同調しないと怖いから、口を開けなくなるという、例えば小山田圭吾問題もまさにそうです。90年代半ばくらいの露悪的な趣味が、サブカルチャーの世界にあったではないですか。あの時代に活躍した人は日本社会の言論界、文化界にかなりいます。
飯田)サブカルで活躍した人。
佐々木)ところが、あの人たちは一言も小山田圭吾さんを擁護しないわけです。「当時の文化はそうだったのだ」と言えばいいのにと思うけれども、そういうことを言っている人は非常に少ない。なぜかと言うと、擁護したら袋叩きにされるのが目に見えているから、怖くて声を挙げられないということでしょう。これが軍靴の響きなのではないですか。同調を与え抑圧するということでね。そういう怖さを我々は理解しなければいけないのではないかと思います。
初めて警察庁に捜査官が配属
佐々木)警察白書で申しますと、今回、初めてサイバー局というものが警察庁に設置されて、初めて警察庁に捜査官が配属されます。誤解している人が多いけれども、いままでは神奈川県警などの県警が捜査に当たる場合、警察庁は上位監督機関なので、それを調整するだけなのです。警察庁には刑事はいません。今回、初めて警察庁直属の刑事さんが出て来る。まるでルパン三世の映画の世界のようですが。
飯田)銭形警部が。
佐々木)でも、これは「日本版FBIが必要だ」と、90年代から議論があったことなのです。90年代半ばにオウム真理教事件があったときに、私は毎日新聞の記者で警視庁捜査一課の担当でした。
飯田)オウム事件のときに。
佐々木)ど真ん中で取材していたのですが、あのときも当時の捜査一課長が、「これはFBIがないとダメだ」と言っていました。なぜかと言うと、オウム真理教事件は当時、山梨や長野で起きて、サリンが最初に発見されたのは山梨県の上九一色村でした。ところが、それだと警視庁といういちばん巨大な捜査機関は手も出せないのです。他の県だから。
飯田)基本、都道府県単位でしたものね。いまもそうですが。
佐々木)長野県や山梨県に任せるしかない。でも人員の充実度も違うので、警視庁が行かないとダメだろうというときに、「FBIがあれば我々が行けたのに」というような議論が当時からあったのです。四半世紀を経て、ようやくそういうことが現実的にできるようになって来たというのは、大きな進歩だと思います。
飯田)サイバーは都道府県どころか、国の壁を越えますからね。
佐々木)いままでなかったことがおかしいくらいです。
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