中国をキーワードにそれぞれの思惑のなかで引き合う「米露」
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ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(7月29日放送)に慶應義塾大学・総合政策学部長の土屋大洋が出演。シャーマン国務副長官がジュネーブでロシア政府高官と、核軍縮や最先端兵器の軍備管理などについて協議する戦略的安定対話を開始したというニュースについて解説した。
バイデン政権の多面外交
アメリカのバイデン政権は現地7月28日、シャーマン国務副長官がスイス・ジュネーブを訪れ、ロシア政府高官と核軍縮や最先端兵器の軍備管理などについて協議する「戦略的安定対話」を開始した。また、これに伴いブリンケン国務長官やオースティン国防長官など、閣僚や高官が同時並行で外交を多面的に展開している。
相互抑止のために米露が持たない中距離ミサイルを多く所有する中国
飯田)シャーマン氏とロシア政府高官の戦略的安定対話は、最先端兵器の軍備管理など、核も含めてということですが、当然ながら、中国の影がちらつきつつ、というところですか?
土屋)アメリカからすると、かつてのソ連、ロシアはまだ話しやすい相手だと思うのです。核が持つ脅威をお互いに理解しているので、冷戦のときには核抑止、相互抑止ができていました。しかし、中国というアクターが出て来て、彼らが核を持ち、米露が持たないと言っていた中距離ミサイルをどんどんつくってしまっているわけです。
中国に反撃するためにロシアとの関係を変える必要のあるアメリカ~「米中露」という枠組みにはしたくないロシア
土屋)そうすると、例えば日本が狙われるような射程のなかに中国のミサイルが入っているけれども、中国に反撃するためのミサイルを、グアムや日本、台湾などへ配備することをアメリカはできていないわけですから、「ここはロシアとの関係も変える必要がある」というアメリカ側の意向です。ロシア側からすると、「米露で世界を牛耳って行きたい」という思いもあり、「米中露」という枠組みにはしたくないのです。
飯田)ロシアもしたくないわけですか。
土屋)そこはロシアも通じているところがあるので、今回は2国間の対話をするのですが、バイデン政権は基本的に多国間でいろいろな話をしたいと思っています。トランプ大統領はとにかく「2国間で話をつける、ディールする」と言っていたわけで、そこが変わるはずだったのですが、ロシアとは2国間でとりあえずやっておこうということがあります。とは言え、バイデン政権はいろいろなところに対話を求めていて、結果的にはマルチで国際的な対話の機会を高めて行こうとしているのではないかと思います。
米露それぞれの思惑
飯田)中国側は当然、核兵器の削減のような話し合いのなかには入って行きたくない。ロシアも自分のところの国益プラス、中国の意向なども考えると、「ここは2国間でバイでやっておこう」と傾いているということですか?
土屋)プーチン大統領からすると、「国際社会のなかでロシアは強力な国なのだ、大きな国なのだ、影響力を持つ国なのだ」ということをロシア国民にアピールしたい。そうすると、米中露3人で会ってしまうよりも、「アメリカ大統領とバイで俺たちは話ができるのだ」と、「世界をコントロールしているのだ」とアピールすることは重要です。
飯田)なるほど。
土屋)アメリカからすると、もしかしたら中国と対決しなければいけないという状況で、ロシアとも関係が悪化したままでは二正面になってしまいます。下手をすると中露が手を組んでしまう可能性もある。そうならないためにも、ロシアとはとりあえず話をつけておいて、ある程度安定化させ、そして中国と対峙しようと考えているのではないでしょうか。
撃ち落とすことが難しいロシアの開発しているミサイル~軍備管理に持ち込みたいアメリカ
飯田)今回、この話し合いのなかに、最先端兵器の軍備管理ということが入っていて、ドローンや自立兵器、またはサイバーについても当然、俎上に載って来ますよね。
土屋)ロシアがどうも、いままでと違う形の最新ミサイルを開発しているのではないかという問題があります。いままでは弾道ミサイルと言って、放物線を描くようなミサイルを想定していたのですが、ロシアが開発しているものは放物線を描かないのです。どこにどう飛んで行くかがわからないようなので、撃ち落とすことができなくなるのではないかという懸念があります。それは危険ではないか、国際関係を不安定化させるのではないかということで、軍備管理に持ち込みたいということがあると思います。
飯田)最新のミサイルを。
土屋)もちろん、アメリカ側も同じようにゲームを変える兵器、ゲームチェンジャーを時間稼ぎしながらつくっています。そこを対話で止めることができるかどうかです。ロシア側は簡単には乗らないと思います。
他国が日本に攻め込んで来たときには、最初に自衛隊で止めて時間を稼ぐ必要がある
飯田)そういうものがひしめいているなかに、日本も位置しているということを考えると、守りと言っても一筋縄では行かないですよね。
土屋)日米同盟と言っていますけれども、アメリカは中東もあるし、いろいろなところを見なければいけませんので、最優先で日本を守れるかどうかはわかりません。日本がまずできることを、ある程度固めておかなければいけないと思います。どこの国であろうと、日本に対して攻め込んで来たときに、まずは自衛隊で最初に止めておいて、「時間を稼いでアメリカの支援を期待する」ということになると思います。最初からアメリカがどうにかしてくれるという態度だと、アメリカ側も「それは違うだろう」となります。ただ、ここは国民的な議論が日本のなかで固まっているかと言うと、そうではないかも知れません。
飯田)そうですね。
土屋)しかし、守ることができるところを「まず自分たちで何とかする」という姿勢がなければ、国際的な信頼が得られないのではないかと思います。
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